1533年9月3週目。芋を見た後にコメの状況を聞く。今回多分みんな一度は寄付すると話す兄様方。3代の借金を消したことでみんなのやる気が違うと話す。
芋畑を見終わった後。
八郎はそのまま一郎、二郎と畑道を歩いていた。
久しぶりだった。
帳面でもなく。
借金でもなく。
戦でもなく。
ただ家族と話す時間。
「そういえば兄さん」
「水車の方ってどうなってます?」
一郎が振り返る。
「ああ、水車で杵を動かすやつか」
「はい」
「人が一日中、米つきするの大変じゃないですか」
二郎が笑う。
「ほんま八郎は楽すること考えるな」
「違いますよ」
「人が楽になったら別の仕事できますから」
「それを楽って言うんや」
三人で笑った。
一郎が少し考えて答える。
「まあ、だいぶ形にはなってきとる」
「ほんとですか?」
「ああ」
「今年の収穫終わりぐらいからなら使えると思うぞ」
八郎の顔が明るくなる。
「それ大きいですよ」
「米つきの時間が減れば、人が浮きます」
「その人が干し椎茸作ってもいい」
「芋加工してもいい」
「焼酎作ってもいい」
二郎が呆れる。
「また仕事増やした」
一郎が続ける。
「ただな」
「これを他の領地全部に広げるとなると別やぞ」
「ですよね」
「来年一年かけて広げるぐらいやと思います」
「それぐらいなら何とかなる」
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八郎はさらに話す。
「あと」
「石臼ですね」
「横から棒を出して」
「ぐるぐる回せる形にしたいんです」
二郎が頷く。
「ああ、それは何となく分かる」
「力を入れやすくするんやろ?」
「はい」
「粉を作るのも楽になると思うんです」
「問題は脱穀ですね」
一郎が腕を組む。
「あれは難しいぞ」
「そうですよね」
「三つ又の細い鍬みたいな形で」
「そこを通したら落ちるかなとは思ってるんですけど」
一郎は首を傾げる。
「理屈は分かる」
「でも大量にやるなら、もっと大きな仕組みがいるかもしれんな」
八郎も頷く。
「まあ、ゆっくりやりましょう」
「今年無理でも」
「来年形が見えれば十分です」
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しばらく歩く。
黄金色になり始めた田を見る。
「今年の収穫はどうですか?」
二郎が答える。
「大きくは変わらんな」
「ただ、みんな顔が違う」
「顔?」
「ああ」
「去年までは」
『取れても借金返し』
『利息払ったら終わり』
「そんな感じやった」
「今年は違う」
「取れた分が自分たちの生活になる」
「だから気合が違う」
一郎も頷く。
「たぶんやけどな」
「収穫終わったら」
「どこの領地も一回はやると思うぞ」
「何をです?」
「寄付や」
八郎が困った顔をする。
「いや、別にそこまで……」
二郎が遮る。
「するわ」
「庄屋衆の証文」
「どれだけ消したと思ってるんや」
「親の代」
「下手したら爺さんの代から残ってたものまで消えた」
「一回ぐらい礼させろってなる」
八郎は少し黙る。
「ありがたいですけど」
「まだ途中ですよ」
「城の借金」
「侍さんの借金」
「まだ残ってます」
一郎は笑う。
「そこが八郎らしいわ」
「普通なら」
『これだけやったぞ』
って威張るところや」
「でもお前は」
『まだ足りない』
って言う」
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話は湯あみに移る。
「そういえば湯あみは?」
二郎が笑う。
「今七十八や」
「七十八!?」
「百目標やったから、もう少しやな」
「冬場は助かるぞ」
「湯に入れる」
「仕事も増える」
「人が集まる」
「特に女衆は喜んどる」
八郎はほっとした顔をする。
「それ聞けただけでも」
「今日出てきた意味あります」
「帳面だけだと分からないんですよ」
「数字が大きすぎて」
「百万文減ったとか」
「何十万文利益とか」
「でも」
「誰が喜んでるか」
「どう暮らしが変わったか」
「そこが見えないんです」
一郎と二郎は顔を見合わせる。
「……やっぱり時々話さなあかんな」
「え?」
「八郎が背負いすぎとるからな」
「俺らも」
「悪い話は言う」
「でも良い話は」
『忙しそうだから今度でええか』
ってなる」
二郎も頷く。
「これからは飯の時でも話すわ」
「今日はこんなんあった」
「誰が喜んでた」
「そういう話もな」
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八郎は笑った。
「お願いします」
「家族ですから」
一郎が八郎の頭を軽く撫でる。
「ほんま」
「領主になる前に弟やからな」
その言葉に八郎は少し嬉しそうに笑った。
そして次。
向かうのは市。
帳面ではなく。
実際に人が笑っている場所を見るために。




