1533年9月1週目。家族で食事をしながら1年を振りかえる。周辺勢力の今後の動きと料理開発について等
九月一週目。
朝。
久しぶりに八郎は家族だけで飯を食べていた。
母。
父。
一郎兄。
二郎兄。
そして兄弟たち。
昔と同じ囲炉裏の前。
だが、何もかもが変わっていた。
八郎が椀を持ちながらぽつりと言った。
「考えたら……」
「混ぜ飯を売り始めて、もう一年ぐらいなんですね」
その言葉に、一瞬みんなが黙る。
そして一郎が笑った。
「一年か」
「最初は市で飯売るだけやったな」
二郎も頷く。
「母上と兄上と八郎で握り飯作って」
「売れるかどうか心配しとったのにな」
母も懐かしそうに笑う。
「あの時は、売上何百文で喜んどったんやで」
八郎は苦笑する。
「今、百万文単位で帳面見てますからね」
「おかしいですよね」
父が笑った。
「一番おかしいのはそこじゃない」
「三歳児が十五万石近い領地を見るようになっとることじゃ」
全員が吹き出した。
「ほんまや」
「普通ならまだ泥遊びしとる歳やぞ」
八郎は首を振る。
「いやいや」
「好きで増やしてるわけじゃないですからね」
母がじっと見る。
「ほんまか?」
「ほんまです」
「困ってる人が来るんです」
「借金の帳面持って」
「助けてくださいって」
一郎が笑った。
「普通三歳児のところに借金相談なんか来ん」
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しばらく笑った後。
二郎が少し真面目な顔になる。
「しかし、これからどうなるんや」
「相良と阿蘇を退けたんやろ」
「向こう側からまた来るんちゃうか」
「八郎様の下につきたいって」
八郎は少し考えて答える。
「可能性はあります」
「でも、たぶん十月以降ですね」
「なんでや?」
「今は収穫期です」
「農家にとって一番大事な時期です」
「この時期に領主を変えるとか」
「借金をどうするとか」
「そういう話は動きにくいです」
父が頷く。
「確かにな」
「稲刈り前に揉め事なんぞ起こしたくない」
「はい」
「それに……」
「相良様や阿蘇様も今回の話、全部は出してないと思います」
「どういうことや?」
「賠償金です」
「負けました」
「捕虜取られました」
「銭払います」
「そんな話が領内に広まったらどうなります?」
二郎が苦笑する。
「不満が出るな」
「はい」
「しかも」
「八郎のところは証文が消えるらしい」
「飯が食えるらしい」
「武士も仕事があるらしい」
「そんな噂と一緒に流れたら……」
一郎が言う。
「年貢を相良や阿蘇に出さんと、こっちへ持ってくる者も出るかもしれんな」
八郎は頷く。
「だから伏せると思います」
「でも十月になって」
「収穫が終わって」
「銭の話になる」
「その時に苦しくなると思います」
母がため息をつく。
「また増えるんかねえ」
「分かりません」
「だから今やることは一つです」
「今ある領地を整えます」
「九月は庄屋衆の証文を減らします」
「市を安定させます」
「料理人を育てます」
「次にどこか来ても」
「同じ仕組みを出せるようにします」
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そこで八郎は別のため息をついた。
「あーでも」
「本当はもっと料理したかったんですよ」
家族が見る。
「親鳥」
「全然進んでません」
「硬い肉をどう美味しく食べるか考えたかったんです」
「鰻も」
「蒲焼以外にもっと何かできないかなって」
「蜂蜜饅頭も」
「芋料理も」
「やりたいこといっぱいあるのに」
「全然落ち着かないじゃないですか」
母が呆れた顔をする。
「あんたが次から次へ問題持ってくるからや」
八郎は慌てる。
「違いますよ」
「僕、持ってきてません」
「向こうから来るんです」
一郎が笑う。
「借金持った領地が勝手に歩いてくるんか」
「そうです」
「気づいたら帳面持って並んでるんです」
家中が笑い声に包まれた。
一年前。
小さな市で売った混ぜ飯。
そこから始まった。
それが今。
十五万石近い土地。
数え切れない人。
そして大量の帳面。
父が静かに言った。
「でもな、八郎」
「みんな笑っとる」
「一年前より」
「確実にな」
八郎は外を見る。
市から聞こえる声。
槌を打つ音。
飯を作る匂い。
「そうですね」
「なら、もう少し頑張ります」
三歳児の一年目。
混ぜ飯から始まった物語は、まだ終わる気配がなかった。




