1533年8月4週目。一郎兄様達に杵の進捗を聞く。薩摩川内で100個20万文発注も銭がないため庄屋衆と折半でお願いする。
八月四週目。
帳面合わせの前。
八郎は一郎兄、二郎兄を呼んだ。
「兄さん、ちょっと聞きたいんですけど」
「なんや?」
「そろそろ収穫ですよね」
「ああ、もうじき忙しくなるな」
「前に話してた杵の件、どうなりました?」
そう言われ、一郎と二郎は顔を見合わせた。
「ああ……それな」
「一応、二十個ぐらいは出来とる」
「ただな、八郎が戦やら何やらで忙しそうやったから、銭の話を止めとったんや」
八郎は苦笑する。
「すみません」
「色々ありすぎましたね」
周囲も笑う。
三歳児が言う内容ではない。
領地吸収。
戦。
借金整理。
交易。
普通なら何十年もかかる話を、数ヶ月で動かしている。
「それで、いくらでしたっけ?」
「一つ二千文ぐらいやな」
「なら百個で二十万文ですね」
「百個!?」
兄二人が驚く。
八郎は普通に頷いた。
「はい」
「村の数だけ置きたいんです」
「米つきって大変でしょう?」
「その時間を減らせば、別の仕事ができます」
「ただ……」
八郎は帳面を見る。
「八郎商会にも、そんな余裕が山ほどあるわけじゃないです」
周囲が一瞬黙る。
百万文単位で動かす八郎が言うと不思議だった。
「なので半分ずつ」
「村側で十万文」
「八郎商会で十万文」
「これでどうでしょうか」
村の代表たちは顔を見合わせる。
そしてすぐ答えた。
「それなら受けます」
「本当に?」
「はい」
「今まで証文をどれだけ消していただいたか」
「利息だけでも苦しかった」
「それを考えれば、これぐらい出します」
八郎は頷く。
「ありがとうございます」
「八郎商会分の十万文については、また現物で返してもらえれば大丈夫です」
「米でも」
「野菜でも」
「市で使える物なら」
商人が笑う。
「また回しますか」
「はい」
「銭を止めたら意味ないですから」
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その後、話題はもう一つの大きな問題に移った。
薩摩側。
残していた三万五千石の土地。
「そちらですが」
八郎が言う。
「受け入れようと思います」
その場がざわついた。
「大丈夫なのですか?」
「島津がありますぞ」
八郎は頷く。
「だから待っていました」
「でも今回、相良様と阿蘇様の連合七千を退けました」
「その話は必ず薩摩にも届きます」
「島津も今、一枚岩ではありません」
「宗家と分家で争っています」
「その状態で」
「わざわざこちらへ攻めてくる可能性は低いと思います」
さらに続ける。
「もう一つ」
「これから収穫期です」
「農民兵を大量に動かす時期ではありません」
「攻めるなら侍中心になります」
「ですが、今の我々の規模相手に」
「侍だけで攻めるには数が足りません」
武士たちは頷いた。
十二万石。
しかも先日の戦で、防衛力は証明済み。
簡単に手を出せる相手ではなくなっていた。
「だから今です」
八郎は言った。
「今のうちに組み込みます」
「そして庄屋衆の証文を減らしましょう」
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薩摩側の者たちは息を飲んだ。
待っていた言葉だった。
「本当に……」
「我らも助けていただけるのですか」
「助けるというより」
八郎は首を振る。
「一緒に直すんです」
「私一人では無理です」
「協力してください」
「今なら料理人もいます」
「宴会」
「炊き出し」
「市」
「全部経験があります」
「三万五千石なら、おそらく市を三十ほど開けます」
「最初は利益なんか出なくていいです」
「大事なのは原価を動かすこと」
「農民から現物を買う」
「市で売る」
「商家衆の証文と合わせる」
「そうやって借金を消します」
薩摩側の商人が呟く。
「本当に同じことを……」
「はい」
「薩摩川内でも」
「肥後でも」
「同じでした」
「帳面を隠さない」
「みんなで見る」
「仕事を作る」
「それだけです」
しかし八郎は最後に表情を変えた。
「ただし」
「一つだけお願いします」
「協力してください」
「領主様」
「武士」
「農民」
「商人」
「誰かが隠したり、邪魔したら無理です」
肥後の件を知っている者たちは静かになる。
「力ずくで取るつもりはありません」
「でも、変える気がない土地は変えられません」
「だから」
「一緒にやる覚悟だけ持ってください」
薩摩の者たちは深く頭を下げた。
「分かりました」
「必ず」
その様子を見ていた和尚が笑う。
「また増えるのう」
八郎はため息をついた。
「増やしたいわけじゃないんですけどね」
「借金だらけの土地ばっかり来るんですよ」
商人たちが笑う。
「でも八郎様」
「みんな分かっております」
「借金だらけでも」
「ここに来れば未来がある」
「だから集まるんです」
八郎は帳面を見る。
十五万石。
さらに広がる領地。
増える問題。
増える借金。
だが同時に。
増える人。
増える仕事。
増える希望。
八郎の国造りは、また一歩進み始めた。




