1533年8月3週目。緊急事態解除。戦費480万文のうち350万文を阿蘇・相良の賠償金、130万文を八郎商会のつけにする。庄屋衆が寄付を申し出る。
八月三週目。
戦後処理の帳簿合わせ。
八郎の館には、武士、商人、寺の者、村の代表が集まっていた。
机の上には大量の帳面。
今回の戦で動いた銭の確認だった。
「では、まとめます」
商人が読み上げる。
「柵、堀、武具、兵糧」
「焼かれた村や町の補修」
「亡くなった兵へのお悔やみ」
「怪我人への手当」
「捕虜の食事」
「全部合わせまして……」
一呼吸置く。
「四百八十万文ほどでございます」
周囲が静かになる。
大金だった。
しかし八郎は頷いた。
「分かりました」
「約束しましたから」
「全部やりましょう」
「本当に全部ですか?」
「はい」
「家を失った人には家」
「怪我した人には手当」
「亡くなった方の家族にはお悔やみ」
「そこを削ったら、次に誰も守ってくれません」
武士たちは黙って頭を下げた。
一方で収入もあった。
相良、阿蘇からの賠償。
捕虜返還金。
合わせて三百五十万文。
つまり。
「百三十万文足りませんね」
八郎が言う。
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「では八郎商会から……」
そう言いかけた時だった。
「待ってくだされ」
庄屋衆が止めた。
「そこは我々に持たせていただけませんか」
八郎が首を傾げる。
「え?」
「いやいや」
「八郎様ばかり出す話ではありません」
「我々は恩を受けております」
「証文を減らしてもらった」
「利息地獄から抜け出せた」
「商売も増えた」
薩摩川内。
薩摩南部。
そして戦場にならなかった肥後南部。
各地の庄屋衆たちが頷く。
「今回は一回分」
「我々が現物を出します」
「その分で補填してください」
「余ったら、城なり武士方の借金を減らせばよろしい」
八郎は少し困った顔になる。
「いいんですか?」
庄屋衆たちは笑った。
「八郎様」
「こういう時くらい頼ってくだされ」
「いつもこちらばかり助けてもらっておりますので」
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こうして不足分百三十万文。
それも解決した。
八月四週目から。
領地は通常へ戻していくことになった。
「では」
「帳面合わせも再開しましょう」
「市も戻します」
「宴会も戻します」
「湯浴みも」
「団子も」
周囲が笑う。
「戦の後なのに宴会ですか」
「だからですよ」
八郎は答える。
「怖い思いをした後だから」
「みんなで飯を食った方がいいです」
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武士についても話が進む。
「お侍さん方には、また鳥獣対策をお願いします」
「山の見回り」
「猪鹿退治」
「訓練」
「仕事として回します」
「ただ戦場になった肥後南部は、まず復旧優先です」
「家」
「道」
「畑」
「そこから戻しましょう」
話を聞いていた村人の一人が笑った。
「なんか、不思議ですな」
「何がです?」
「自分らで領地を回してる感じがします」
「前は上から言われるだけでした」
「でも今は」
「商人も」
「農民も」
「武士も」
「みんなで帳面見て考えてる」
「一体感がありますわ」
八郎は笑った。
「それは多分」
「私が三歳でちょこんと座ってるからですよ」
周囲が吹き出した。
「それもありますけど」
商人が言う。
「一番は証文です」
「証文が消えている」
「これが大きい」
「借金そのものもですが」
「利息が消える」
「来年も苦しい」
「十年後も苦しい」
「そう思っていたものが」
「変わった」
「だから皆、前を向けるんです」
八郎は頷いた。
「じゃあ次ですね」
「交易を始めましょう」
机に新しい帳面を置く。
「今、十二万石あります」
「全部の土地で取れる物があります」
「干し椎茸」
「紙」
「焼酎」
「干物」
「木工」
「売りに行きましょう」
「まずは月十二万文分の商品」
「商人さんお願いします」
「利益は分けます」
「作った人」
「売った人」
「城」
「三つで分けます」
商人が確認する。
「城の取り分は借金返済ですな?」
「はい」
「少しずつです」
「週三万文利益計上の予定です。」
「それでも月なら十二万文」
「一年なら大きいです」
「薩摩川内から」
「順番に消します」
「でも最後は全部です」
「全部の城の借金をなくします」
静かになった。
十二万石。
莫大な借金。
普通なら税を増やす。
だが八郎は違う。
仕事を増やす。
物を売る。
利益で返す。
和尚が笑った。
「頼もしくなったのう」
八郎は首を振る。
「いや」
「まだ三歳ですけど」
また皆が笑った。
戦が終わり。
八郎領は、再び飯と商いで動き始めた。




