1533年8月3週目。戦後処理に動く八郎。捕虜交換と賠償金の相談。捕虜の帰還の条件に損害補填に2家に500万文要求。結果350万文を得る。
戦から数日後。
相良と阿蘇の館へ、一通の書状が届いた。
差出人は八郎。
内容を見た家臣たちは身構えた。
当然だった。
七千で攻め込み、大敗。
戻った兵はわずか。
多くの武具を失い、捕虜まで取られている。
次に来るのは領土割譲。
そう考えるのが普通だった。
しかし。
書状には違うことが書かれていた。
「捕虜の返還について話し合いたい」
「今後の関係について相談したい」
それだけだった。
「領地を要求しておらんのか?」
「はい」
「一切書いてございません」
相良も阿蘇も拍子抜けした。
正直なところ、次に八郎が攻め込んできたら厳しかった。
兵は減った。
武具も減った。
何より。
兵たちの心が折れていた。
あの館。
あの矢。
あの伏兵。
あの騎馬。
三歳児と思って攻めた相手は、まったく違った。
だからこそ、話し合いに応じるしかなかった。
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数日後。
八郎の館。
相良、阿蘇の使者たちは重い顔で入った。
敵地。
しかも敗戦後。
捕虜返還の交渉。
気まずくないはずがない。
だが。
出迎えた八郎の第一声は。
「お疲れ様でした」
だった。
「……は?」
相良の使者が固まる。
阿蘇の使者も目を丸くする。
隣にいた家臣が慌てる。
「八郎様」
「もう少し威厳を……」
八郎は首をかしげる。
「三歳児に威厳とかあります?」
場の空気が一気に崩れた。
「いや、そういう問題では……」
家臣たちは頭を抱えた。
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そして本題に入る。
「まず捕虜ですが」
「返します」
使者たちは驚いた。
「よろしいのですか?」
「はい」
「ただし武具はこちらでいただきます」
それは当然だった。
今回捕らえた人数。
およそ千五百から二千。
逃げ散った者もいる。
これから戻る者もいるだろう。
だが、大量の捕虜であることは間違いない。
「それで今回の落とし前ですが」
八郎が帳面を見る。
「双方合わせて五百万文ほどいただければと思っています」
空気が止まった。
「五百万……」
「高いですか?」
「高いというか……」
八郎は静かに言う。
「こちらは防衛戦です」
「そちらが攻めてきました」
「村も傷みました」
「柵も作りました」
「兵も動かしました」
「捕虜の飯も食べさせています」
「その費用です」
誰も反論できなかった。
「払えないなら」
「現物でも構いません」
「米」
「木材」
「鉄」
「今年分の年貢でもいいです」
「そこまで……」
使者たちは悩む。
「一度持ち帰らねば」
「大枠だけ決めましょう」
八郎は言う。
「また揉めても困りますから」
交渉は続いた。
五百万。
三百万。
四百万。
何度も数字が動く。
最終的に。
相良、阿蘇。
合わせて三百五十万文程度。
現物も認める。
捕虜返還。
武具は八郎側。
そこでまとまった。
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その頃。
捕虜たちはというと。
「……なんじゃこれ」
目の前には飯。
汁。
団子。
魚。
「捕虜の飯か、これが」
「うちより良くないか?」
そんな声まで出た。
さらに不思議な話を聞く。
「この土地、少し前まで借金だらけだったらしいぞ」
「今もあるんじゃろ?」
「ある」
「でも消えていってるらしい」
「どうやって?」
「市を作って」
「仕事を作って」
「帳面を合わせて」
「少しずつ消してるらしい」
捕虜たちは理解できない。
だが一つだけ分かった。
この領地。
何かがおかしい。
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捕虜返還の日。
相良と阿蘇の兵たちは帰っていく。
飯の味。
湯浴みの話。
借金が消える話。
八郎という三歳児の話。
全部持ったまま。
和尚はそれを見て笑っていた。
「八郎」
「はい?」
「お前、本当に意地が悪いのう」
「え?」
「身代金だけではないじゃろ」
和尚は帰っていく捕虜を見る。
「飯を食わせた」
「話を聞かせた」
「そして返した」
「相良や阿蘇の領内で何が起こると思う?」
八郎は苦笑した。
「まあ……」
「少し噂にはなるかもしれませんね」
和尚は笑う。
「少し?」
「違うわ」
「あの者たちは言う」
『八郎の土地では飯が食える』
『借金が減る』
『領主が話を聞く』
「そう広める」
「銭三百五十万文より」
「そちらの方が大きい」
八郎は黙る。
和尚はさらに笑った。
「やっぱり意地悪じゃ」
「戦に勝って」
「人の腹まで取って帰すとはのう」
八郎は困った顔で言った。
「いや……」
「ただ飯を出しただけなんですけど」
その言葉に、周り全員が思った。
この三歳児。
一番恐ろしいのは戦より、その後だと。




