1532年12月2週目。八郎、和尚に先の道を語る。飯屋の先も見ているやろwww
次の日。
いつものように兄様たちと寺へ向かった。
最近は少し流れが決まってきている。
まず兄様たちが和尚様に話す。
そして。
「和尚様!」
案の定、四郎兄様が真っ先に走った。
「また八郎がやりました!」
和尚様は笑う。
「最近、そればかり聞いておるな」
「いや、でも本当にすごいんです!」
「今度は飯を焼いたんです!」
「飯を焼く?」
「はい!」
三郎兄様まで話に加わる。
「卵と油を使って、鉄鍋で混ぜるんです」
「最初は父上もできるか不安だったんですけど」
「最後には父上も作れるようになって」
「客にも売れました」
和尚様は俺を見る。
「また何かしたようじゃな」
「少し試しただけです」
そう答えると、兄様たちが一斉に言う。
「少しじゃない」
最近、このやり取りも増えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
勉強が終わった後。
いつものように和尚様と二人になる。
茶が出る。
最初は熱くて飲めなかったが、最近は少し慣れてきた。
「それで」
和尚様が聞いた。
「今回はいかほど稼いだ」
「はい」
俺は帳面を開く。
「売上は千五百文でした」
「……千五百か」
和尚様は驚きながらも、以前ほど声を上げなくなった。
慣れてきたのかもしれない。
「ただ、全部儲けではありません」
「分かっておる」
和尚様が笑う。
「八郎ならそう言うと思った」
「原価が七百文ほどです」
「うむ」
「米、魚、味噌、卵、油、場所代です」
「それから」
「家族への手間賃が二百五十文」
「そして」
小さな袋を出す。
「和尚様への寄進が五十文です」
和尚様は袋を見る。
「またか」
「はい」
「本当に律儀じゃな」
「必要なことです」
そして。
「残りが五百文ほどです」
和尚様は静かに息を吐いた。
「五百文……」
「はい」
「最初に言っていた不足分」
「五千文か」
「はい」
「見えてきました」
少し前。
五千文は大きな壁だった。
家を守るため。
田を守るため。
兄弟が離れないため。
必要な銭。
でも今は違う。
「十回ほどできれば届きます」
「本当に変えてしまったな」
和尚様が言った。
「ただ」
俺は続けた。
「問題もあります」
「ほう」
「母上の負担です」
料理の中心は母上。
ここが倒れたら終わる。
「それと仕入れです」
「卵と油か」
「はい」
特に油。
価値はある。
でも高い。
「安定して手に入れる方法を考えたいです」
「なるほど」
「それと」
俺は少し迷ってから言った。
「そろそろ市の顔役の方にも、ご挨拶した方がいいと思っています」
和尚様の目が細くなる。
「なぜじゃ」
「大きくなりすぎています」
自分でも分かる。
最初は小さな混ぜ飯だった。
でも今は違う。
二店舗。
客も増えている。
「誰かの飯の銭を奪っているかもしれません」
商いは競争。
でもこの時代。
それだけでは済まない。
「勝手に大きくなれば、嫌われます」
「だから」
「少しでも挨拶をして」
「市でやらせてもらっています、という形を作りたいです」
和尚様はしばらく黙った。
そして笑った。
「八郎」
「はい」
「普通はな」
「はい」
「売れたら、もっと売ろうと考える」
「そうですね」
「もっと儲けようとする」
「はい」
「お前はそこで、周りを見る」
和尚様は茶を飲む。
「そこが不思議じゃ」
「怖いだけです」
「怖い?」
「はい」
「敵を作るのが」
力がない。
まだ子供。
だからこそ。
信用がいる。
「しかし」
和尚様は笑う。
「お前、飯屋で終わる気はないじゃろ」
少し困った。
「今は飯です」
「今は?」
「はい」
「まず食べられるようにすることです」
でも。
その先。
「作りたいものはあります」
「例えば?」
「器です」
「器?」
「はい」
料理が増えれば器がいる。
器が良くなれば、飯の価値も変わる。
「それから服です」
「家族に、もう少しいいものを着せたいです」
兄様たちは毎日働いている。
せめて。
少しでも楽にしたい。
「あと湯浴みです」
「湯?」
「はい」
「湯を沸かして体を洗う」
「疲れが取れると思います」
和尚様が笑う。
「贅沢じゃな」
「そうですね」
「でも、いつかです」
「それから布団です」
「布団?」
「冬は寒いので」
「よく眠れるだけで、人は元気になります」
前世で知っている。
睡眠。
食事。
体。
全部つながっている。
「他には?」
「水車です」
和尚様が反応する。
「水車?」
「はい」
「水車の回る力で、杵を動かせないか考えています」
「杵を?」
「はい」
「人が米をつく代わりです」
「石臼も回せるかもしれません」
「職人さんに聞いてもらうよう、父上にお願いしています」
和尚様は呆れたように笑った。
「多岐にわたるな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「全部できると思っているのか?」
「思っていません」
即答した。
「失敗します」
「できないものもあります」
「でも」
少しずつ。
「できるところからやります」
「伝えられることから伝えます」
和尚様が俺を見る。
「なぜ急ぐ」
少し考える。
「私も」
「いつどうなるか分かりませんからね」
和尚様の手が止まった。
「八郎」
「はい」
「三歳にもならん子供が言う言葉ではないぞ」
「あ」
「来月三歳です」
「そういう意味ではない」
和尚様は笑いながらため息をついた。
「まったく」
「どんな大人になるのか」
「楽しみでもあり」
「少し怖くもあるな」
俺は茶を飲む。
熱い。
でも。
前より少しだけ、飲めるようになっていた。




