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1532年12月1週目。八郎、兄たちの役目を考える。一郎兄様と次郎兄様は庄屋の農業の仕事と留守番で金の見張りです。

 銭の話。

 次の飯の話。

 人を雇う話。

 いろいろ話しているうちに、兄様たちの話になった。

 三郎兄様が少し考えながら言う。

「なあ八郎」

「はい」

「俺や四郎、五郎は市に行って手伝ってるやろ」

「はい」

「一郎兄様と次郎兄様は、このままでええんか?」

 その言葉で、みんな一郎兄様と次郎兄様を見る。

 二人は苦笑した。

「まあ、俺らは笹取ったり」

「荷物運んだりくらいやからな」

 確かに。

 市で目立つのは父上。

 母上。

 三郎兄様たち。

 でも。

「違います」

 俺はすぐ言った。

「違う?」

「はい」

「一郎兄様と次郎兄様には、別の大事な仕事があります」

「まず」

 俺は一郎兄様を見る。

「一郎兄様は跡取りです」

 一郎兄様が驚く。

「俺?」

「はい」

「この家を継ぐ人です」

 父上がいない時。

 判断する人。

 家を守る人。

「だから父上と同じことを覚える必要があります」

「田のこと」

「人のこと」

「帳面のこと」

「全部です」

 父上が静かに頷いた。

「それに」

 俺は銭袋を見る。

「今、一番怖いことがあります」

「怖いこと?」

「はい」

 俺は指差した。

「あれです」

 全員が銭袋を見る。

「銭?」

「はい」

「今までなら嬉しいだけでした」

 でも違う。

 銭が増えるということは。

「狙われます」

 部屋が静かになった。

「……」

「そうか」

 父上が呟く。

「確かにな」

 村の中で。

 普通の庄屋が。

 突然、何貫もの銭を持ち始める。

 目立つ。

 必ず。

「うちは少し稼ぎすぎています」

 俺は言った。

「だから寺に寄進しています」

 三郎兄様が聞く。

「和尚様へのお礼だけやないんか?」

「もちろん、それもあります」

 でも、それだけではない。

「周りから見て」

「あの家だけ儲けている」

 そう思われるのが怖い。

「でも」

「あの家が儲けると寺にも回る」

「困った人にも飯が出る」

 そう思ってもらえれば違う。

 信用。

 それも守り。

 父上がため息をつく。

「そこまで考えていたのか」

「少しだけです」

「少しではない」

「なら村の者を雇えばいいんじゃないか?」

 次郎兄様が言った。

「それも考えました」

「なら」

「でも難しいです」

「なぜ?」

「関係が変わるからです」

 昨日まで同じ村の仲間。

 それが。

 雇う側。

 雇われる側。

 になる。

「銭が絡むと揉めることがあります」

 前世でもそうだった。

 近い人ほど難しい。

「だから最初は」

「身寄りのない人」

「働き場所を探している人」

「そういう人がいいと思っています」

 母上が聞く。

「未亡人とか?」

「はい」

「料理ができて」「嘘をつかなくて」「真面目な人」

「そういう人です」

「もちろん」

 俺は付け足す。

「縁談とかで家族になるなら別です」

 その瞬間。

 兄たちが吹き出した。

「八郎」

「はい?」

「お前、本当にもうすぐ三歳か?」

「来月です」

「そういう話じゃない」

 また言われた。

「兄の嫁の心配までしてる三歳児がおるか」

 確かに。

 少し早かったかもしれない。

「話を戻します」

 笑われたので戻す。

「次にやることです」

「飯か」

「はい」

「揚げ物はやりたいです」

 油を使う。

 野菜。

 魚。

 可能性はある。

「でも難しいです」

「なんで?」

「人が足りません」

 混ぜ飯。

 つみれ汁。

 炒め飯。

 揚げ物。

 全部やれば崩れる。

「だから役割を変えます」

「例えば」

「父上がつみれ汁を見られるなら」

 父上を見る。

「わしか」

「はい」

「味は母上が整えます」

「でも温めたり、出したりはできます」

 父上は考える。

「まあ、それならできそうじゃな」

「そうすれば」

「三郎兄様が炒め飯できます」

 三郎兄様の顔が明るくなる。

「俺か!」

「はい」

「やってみたいって言ってましたよね」

「言った」

「なら覚えてください」

 そして。

「一郎兄様と次郎兄様は」

 俺は二人を見る。

「家です」

「家?」

「はい」

「留守番」

「農作業」

「何か問題が起きた時の判断」

「そこをお願いします」

 一郎兄様が黙る。

「俺は市に出んでもいいのか」

「はい」

「父上の次に農を分かっているのは誰ですか?」

「……俺と次郎かな」

「だからです」

 全員が外に出たら家は空になります。

 田を見る人もいない。

 何かあった時に困る。

「守る人も必要です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 父上が笑った。

「八郎」

「はい」

「お前は飯屋を考えているのではないな」

「?」

「家そのものを動かそうとしている」

 そう言われて少し考える。

 確かにそうかもしれない。

 料理だけではない。

 銭だけでもない。

 人。

 信用。

 役割。

 全部必要。

「今の形でいいと思います」

 俺は言った。

「そこから少しずつ増やしましょう」

 焦らない。

 無理しない。

 続けられる形にする。

 父上は頷いた。

「分かった」

「しばらく、この形で回してみよう」

 こうして八郎の商いは、ただ飯を売るだけではなく。

 家族それぞれが役割を持つ形へ変わり始めた。

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