1533年8月2週目。相良・阿蘇の連合軍7,000が八郎領へ進軍。新たに領土となった拠点へ進軍。殲滅に来る。待ち受ける八郎軍
八月一週目。
相良、阿蘇が動く可能性が高い。
その報告を受け、八郎領では普段とは違う空気になっていた。
市を管理する商人たちが集まる。
「しばらく市は止めます」
八郎の言葉に、一同が頷いた。
「仕入れもですか?」
「はい」
「今は銭を増やす時ではなく、守る時です」
「戦が終わったら、また動かします」
商人たちも納得した。
だが八郎は職人たちを見る。
「ただ」
「職人さん」
「はい?」
「風呂釜だけはお願いします」
その言葉に職人たちは一瞬固まり、そして笑った。
「戦の準備中に風呂釜ですか」
「はい」
八郎は普通に答える。
「戦が終わった後も生活は続きますから」
「湯浴みは領民の楽しみです」
「止めたくありません」
職人たちは大笑いした。
「任せてくだされ」
「相良が来ようが阿蘇が来ようが、風呂釜だけは作りますわ」
緊張していた空気が少し緩む。
八郎らしい、と皆が思った。
そして一週間後。
八月二週目。
ついに動いた。
相良勢。
阿蘇勢。
さらに周辺国人衆。
合わせて約七千。
「八郎は急に肥後を取っただけ」
「寄せ集め」
「三歳児の考える戦など知れている」
そう考えていた。
一方、八郎側。
館には二千五百。
騎馬五百。
そして伏兵二千。
伏兵には厳命が出ていた。
「絶対に動かないでください」
「城から狼煙が上がるまで待つこと」
二千の兵は山奥へ姿を消した。
敵の物見にも悟られない場所。
ひたすら待つ。
相良・阿蘇連合は領内へ入った。
しかし妙だった。
村に人がいない。
米も少ない。
家財も消えている。
「逃げたか」
「臆病者どもめ」
そう笑った。
一部の兵は腹いせに空き家を壊す。
火を放つ者もいた。
だが。
それも八郎の想定内だった。
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しばらく進んだ時。
横から土煙が上がった。
騎馬。
二百五十。
「敵じゃ!」
相良兵が構える。
だが騎馬は深く入らない。
突く。
崩す。
そして逃げる。
「追え!」
千の兵が追撃に出る。
しかし騎馬は逃げる。
道を知っている。
山へ。
寺へ。
神社へ。
反対側でも同じことが起きた。
もう一隊の騎馬二百五十。
同じように突いて逃げる。
また千ほどが引き離される。
もちろん八郎側も無傷ではない。
落馬する者。
討たれる者。
怪我をする者。
それでも全員が理解していた。
勝つ必要はない。
時間を稼ぐ。
敵を割る。
それだけでいい。
結果。
七千いた連合軍。
本隊として館へ向かうのは五千ほどになった。
「小細工じゃ」
相良方の武将は笑った。
「結局、城で戦うしかないのだ」
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だが進むほど面倒になる。
道に杭。
柵。
土嚢。
小さな堀。
「壊せ!」
兵が動く。
しかし全部壊すには時間がかかる。
「もういい!」
「通れるところから進め!」
連合軍は強引に進んだ。
疲労。
苛立ち。
隊列の乱れ。
しかし本人たちは気付いていない。
そして館。
「門を破れ!」
大人数で押す。
破城槌代わりの丸太をぶつける。
何度も。
何度も。
やがて。
門が開いた。
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「勝ったぞ!」
「所詮三歳児!」
「寄せ集めの軍よ!」
歓声が上がる。
兵たちが一気に中へ流れ込む。
だが。
そこで足が止まった。
門の奥。
そこには広い空間があった。
不自然なほど広い。
「……何だ?」
その瞬間。
相良の武将が気付く。
「違う」
「ここは……」
「入れたのではない」
「入れられたのだ」
だが遅かった。
後ろから兵が押し寄せる。
門を突破したと思った兵たちが次々入る。
戻れない。
止まれない。
そして。
三方向。
壁の上。
建物の陰。
弓兵が姿を現した。
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「構え」
号令。
「放て」
一斉射。
矢が降る。
そして終わらない。
一列目が下がる。
二列目。
三列目。
四列目。
途切れない。
「何だこれは!」
「なぜ撃ち続けられる!」
混乱が広がる。
八郎は奥で静かに見ていた。
これは勝つための場所ではない。
敵を倒す場所でもない。
七千という軍を。
一つの塊ではなくする場所。
相良と阿蘇は、ここで初めて気付いた。
相手は三歳児ではない。
飯を作り、銭を回し、人を動かす者。
そして。
戦場ですら、人と物の流れを見る者だった。




