1533年8月1週目。肥後の侍と商人衆は隠れた負債の証文を燃やされないために現地に向かう。抵抗にあうがな何とか見つける。城の負債1500万文。
肥後へ戻った国人衆と商家衆は、休む間もなく動いた。
八郎の館で聞いた言葉が頭から離れなかった。
――証文を焼かれるかもしれません。
その一言。
商人にとって、それは悪夢だった。
貸した銭が返らないだけではない。
存在そのものが消える。
「急げ」
「領主様より先に押さえねばならん」
そうして戻った彼らを待っていたのは、荒れた市だった。
「何で三歳児の言うことを聞かねばならん!」
「肥後の武士が薩摩の子供に頭を下げるのか!」
一部の侍たちはまだ怒っていた。
国人としての誇り。
家を守ってきた自負。
それが八郎への反発になっていた。
しかし戻ってきた者たちは叫んだ。
「待て!」
「お前ら、分かって言っているのか!」
「何がじゃ!」
「八郎様の市で、今回いくら動いたと思う?」
「知らん!」
「六十万文じゃ」
その瞬間、少し静まる。
「六十万文分」
「庄屋衆の証文が消えた」
「一週間でじゃ」
反発していた侍たちの顔色が変わる。
「お前らにできるか?」
「一週間で六十万文」
「借金を減らせるか?」
誰も答えなかった。
「頭を下げたくない気持ちは分かる」
「わしらも同じじゃ」
「だがな」
「意地で飯は食えん」
「相良も阿蘇も攻めてこない?」
「違う」
「攻める価値がないと思われているだけじゃ」
その言葉は重かった。
「商人は貸してくれない」
「武具も買えない」
「このままなら細って終わる」
「そんな中で」
「八郎様だけが、まだ手を出してくれている」
侍たちは黙り込んだ。
その時、商人が言った。
「それと」
「お前たちもあるだろう」
「何がだ」
「隠した借金じゃ」
何人かが目を逸らした。
「やっぱりか」
「領主だけではない」
「皆、隠している」
「それでは助けようがない」
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そのまま一行は城へ向かった。
もはやお願いではなかった。
領地を残すためだった。
「帳面を確認します」
商人たちが蔵へ向かう。
しかし。
「待て!」
領主と側近たちが立ちはだかった。
「これ以上探す必要はない!」
商人が睨む。
「なぜです?」
「全部出した!」
「なら確認しても問題ないでしょう」
その言葉に領主は黙った。
周囲の武士たちも察した。
「……まだあるのですな」
側近たちは商人を止めようとした。
だが今度は違った。
「邪魔するな」
止めたのは、同じ肥後の武士だった。
「なぜ邪魔をする!」
領主が叫ぶ。
「このままでは皆沈むからです」
「殿だけではない」
「我らも」
「民も」
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追い詰められた領主は声を荒げた。
「分からぬのか!」
「これが出れば、わしの首が飛ぶ!」
「だから隠しておった!」
その本音に場が静まる。
さらに領主は続けた。
「わしには相良にも阿蘇にも縁がある!」
「こんな形で失脚させれば」
「相良や阿蘇が黙っておらんぞ!」
しかし商人は冷静だった。
「では、なぜ今助けに来ないのです?」
「……」
「なぜ武具を貸してくれない?」
「なぜ米を出してくれない?」
「答えは一つです」
「この借金を抱えたくないからです」
領主は言葉を失った。
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その間にも帳面探しは進む。
そして。
「あったぞ」
奥の蔵。
別の箱。
古い帳面。
商人たちが急いで開く。
一枚。
また一枚。
顔色が変わる。
「……嘘だろう」
「いくらだ」
計算役が震えながら答えた。
「……千五百万文」
沈黙。
以前出した数字。
約千万文。
それよりさらに五百万文多い。
その瞬間。
「ふざけるな!」
怒号が響いた。
「これを隠していたのか!」
「その上で我らには我慢しろと!?」
「武具を自腹で買え」
「給金は待て」
「領地を守れ」
「その裏でこれか!」
領主は何も言えなかった。
商人もため息をつく。
「八郎様の言った通りでしたな」
「本当に、まだ奥があった」
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怒り。
失望。
不安。
様々な感情が混ざる。
だが以前とは違った。
絶望だけではない。
数字は出た。
なら、八郎なら考えられる。
一人の武士が言った。
「全部持って行こう」
「隠すものなしで」
「八郎様に見てもらう」
誰も反対しなかった。
肥後の誇りが折れた日ではない。
肥後が、もう一度立ち直るために現実を見た日だった。




