表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/229

1533年8月1週目。帳面合わせの前に薩摩、肥後の武士達が来る。薩摩は城の負債がでる。1200万文。肥後は市を開けたが妨害される。もっと何かあると読み領主を問い詰めることを提案する八郎。

八月一週目。

帳簿合わせを始めようとしたところで、薩摩と肥後から使者たちが訪れた。

以前、八郎の下に入りたいと願い出た国人衆たちである。

八郎は座るよう促した。

「どうでした?」

まず頭を下げたのは薩摩側だった。

「……探しました」

「かなり?」

「はい」

使者は疲れた顔で笑った。

「蔵も、帳面も、商人との控えも、全部です」

「領主様は最後まで嫌がりました」

「でしょうね」

八郎は頷いた。

「で、どれぐらいありました?」

使者は小さく答えた。

「……千二百万文ほど」

周囲がざわめく。

だが八郎は驚かなかった。

「やっぱりですね」

「驚かれないのですか?」

「前の三百万文の方がおかしかったです」

八郎は淡々と言った。

「受けられそうですね」

その言葉に薩摩側の顔が明るくなる。

「本当ですか?」

「はい」

「借金があるから無理、ではありません」

「分からない借金があるから無理なんです」

「傷が分かれば治療できます」

「隠されたら何もできません」

商人たちは頷いた。

八郎のやり方を何度も見てきた者ほど、その意味が分かった。

「ただ」

「順番は肥後からです」

薩摩側が顔を上げる。

「やはり島津ですか」

「はい」

「島津本家があります」

「今は争っています」

「でも、こちらが近づきすぎれば」

「外敵としてまとまる可能性があります」

「だから少し時間が欲しいです」

「ただ、市は動かし始めましょう」

「完全に放置はしません」

薩摩側は安心したように頭を下げた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次に肥後だった。

しかし、こちらの顔色は悪かった。

「どうしました?」

八郎が聞く。

「市は開きました」

「はい」

「売上は六十万文ほど動きました」

「良いじゃないですか」

「ですが……」

「損失が十五万文ほど」

八郎が首を傾げる。

「何の損ですか?」

「市そのものは開けました」

「ただ……」

「邪魔が入りました」

「邪魔?」

「店を荒らす者」

「文句を言う者」

「なぜ三歳児の言うことを聞かねばならん、と」

周りの空気が変わる。

八郎は静かに聞いた。

「それは農民ですか?」

「いえ……」

「侍です」

皆、納得した。

肥後は国人衆の土地。

小さな領主が乱立し、それぞれ誇りがある。

簡単に頭を下げられない者もいる。

「たぶん」

八郎は言った。

「領主様も関わっていますね」

「え?」

「自分の立場が危ないからです」

「本当の帳面を見られたら困る」

「だから不満を煽る」

「ありえます」

しばらく沈黙。

そして八郎は言った。

「では、一度止めましょう」

全員が驚いた。

「え!?」

「待ってください!」

「我々も何とかします!」

八郎は首を振った。

「頑張るだけでは無理です」

「協力する気がない土地は助けられません」

「薩摩にも言いました」

「全部出してください、と」

「隠したままでは治せません」

肥後側は黙る。

八郎は聞いた。

「城の借金、本当にいくらでした?」

「千万文ほど……」

「もう少しありますね」

即答だった。

「なぜ分かるのですか?」

「嫌がり方です」

「本当に千万なら、もう出しています」

「それより先を見られたくないんです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そこで八郎は商人たちを見る。

「お願いがあります」

「はい」

「一緒に行ってください」

「そして本当の証文を押さえてください」

「押さえる?」

「はい」

「最悪、燃やされます」

商人たちの顔色が変わった。

「証文を?」

「はい」

「僕が相手なら燃やします」

「どうせ失脚するなら」

「嫌がらせします」

その言葉に商人たちは慌てた。

「それは困ります!」

「全部損になりますぞ!」

「だから早く行った方がいいです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その時だった。

横で聞いていた母が怒った。

「もう放っておけばいいでしょう」

皆が振り返る。

「八郎がここまで考えて」

「助けようとしているのに」

「それでも邪魔するなら」

「勝手に滅びればいい」

空気が凍る。

八郎が慌てた。

「母上」

「それは言い過ぎです」

「でも八郎」

「あなたが倒れるまで考える必要はないでしょう」

周囲は思った。

八郎より母親の方が怖い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

八郎は肥後側を見る。

「今回は市を広げません」

「まず安定させます」

「原価は少なくていいです」

「損をなくしてください」

「動く形を作ることが先です」

肥後側は深く頭を下げた。

「ただし」

八郎は続ける。

「今回動いた六十万文」

「庄屋衆から仕入れた分ですね?」

「はい」

「なら、その六十万文分は証文から消します」

肥後側が顔を上げた。

「消してくださるのですか?」

「約束ですから」

「失敗した部分と」

「動いた部分は別です」

商人たちが頷いた。

「それなら説得できます」

「六十万文減ったという事実があります」

八郎は静かに言った。

「助けることはできます」

「でも一緒に動いてくれないと無理です」

「領地を変えるのは」

「僕一人ではありません」

その言葉を持って、肥後の者たちは再び自分たちの土地へ戻っていった。

今度は八郎に頼むためではない。

自分たちが変わるためだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ