1533年7月4週目。薩摩と肥後の国人衆の武士達が負債の報告に来る。城の借金は絶対嘘。もう一度探して。肥後から対応する。米焼酎欲しいしwww
七月四週目。
帳簿合わせが終わった後、別の者たちが館へ通された。
薩摩と肥後。
以前、八郎の下につきたいと願い出た国人衆の使者たちだった。
皆、疲れ切った顔をしている。
八郎は首を傾げた。
「どうでした?」
その一言に、代表の男が深いため息をついた。
「……かなり難航しました」
「やっぱりですか」
「はい」
男は苦笑する。
「領主たちは、最後まで出したがりませんでした」
「でしょうね」
「裏帳簿も、隠していた証文も、出せと言ってもなかなか……」
八郎は静かに頷いた。
「まあ、そうですよね」
「出したら責任問題になりますから」
周囲も黙る。
領主が隠した借金。
それは単なる数字ではない。
民を苦しめた証拠でもある。
「ですが、話しました」
使者は続ける。
「今の我々は、周りから見捨てられている状態だと」
「商人は武具も売ってくれない」
「米も貸してくれない」
「戦もできない」
「このままでは終わるだけだと」
「最悪、領主様の首が飛ぶ話にもなると」
「そこまで言いました」
八郎は黙って聞く。
「それで、ようやく出てきた数字があります」
「まず薩摩です」
「城の借金」
「300万文」
「商家衆関係」
「500万文」
「武士」
「700万文」
周囲がざわつく。
だが八郎だけは難しい顔をした。
「……嘘ですね」
空気が止まった。
「え?」
「嘘です」
八郎はもう一度言った。
使者が驚く。
「なぜそう思われるのですか?」
「簡単です」
八郎は自分たちの帳面を出した。
「うちは同じぐらいの規模の薩摩や肥後の国人領を引き受けました」
「その時、城だけで約1000万文級の問題がありました」
「なのに」
「今回だけ300万文?」
「ありえません」
その言葉に全員黙る。
「庄屋衆や武士の数字は、たぶん大きく外れていません」
「下の人たちは隠す意味が少ないですから」
「でも城は違います」
「領主が隠せます」
八郎は言った。
「もう一度帰ってください」
「そして本当の数字を出してください」
「たぶん」
「1000万文より大きい数字が出ます」
「せ、千万……」
使者たちは青ざめた。
「でも考えてください」
八郎は続ける。
「商人が武具を売らないんですよ?」
「戦国の世で」
「武士相手に」
「普通ありえません」
「つまり商人は思っているんです」
「これ以上貸したら返ってこない、と」
「そこまで信用が落ちている」
「なら表に出ている数字だけなわけがありません」
商人衆も頷いた。
「八郎様の言う通りです」
「本当に300万なら、まだ貸します」
「貸せないということは」
「もっと深い」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「肥後はどうですか?」
八郎が聞く。
肥後側の使者が答えた。
「こちらは……」
「かなり探しました」
「隠し帳面も出しました」
「城は700万文ほどです」
八郎は少し考える。
「薩摩よりは現実的です」
使者が安心する。
「ですが」
「まだあります」
肩が落ちる。
「あと二、三度確認してください」
「絶対に全部ではないです」
「分かりました……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「では、どうしますか?」
「いつ八郎様の下に?」
その問いに、八郎は首を振った。
「順番があります」
「まず肥後からやります」
「薩摩ではないのですか?」
「はい」
八郎は地図を見る。
「薩摩を取ると、島津と直接接します」
「今は島津内部で争っています」
「本家と分家」
「仲が悪い」
「でも」
「外敵が現れたら手を組む可能性があります」
「だから、今は間を残したい」
「緩衝地帯です」
周りは驚いた。
三歳児が軍略を話している。
「一方、肥後は」
「相良があります」
「でも相良は五万から十万石程度」
「こちらが肥後側を合わせれば、十分向き合える規模になります」
「それに」
八郎は少し笑った。
「肥後には欲しいものがあります」
「欲しいもの?」
「米焼酎です」
一瞬。
皆が固まった。
「また飯と酒ですか」
「大事ですよ」
八郎は真面目だった。
「戦で奪うだけでは増えません」
「でも特産品は増えます」
「米焼酎」
「芋焼酎」
「干し椎茸」
「紙」
「売れるものを作らないと、城の借金は消えません」
「だから肥後からです」
「まず市を作ります」
「三十ヶ所ほどあるなら、全部動かします」
「最初は味も悪いでしょう」
「失敗もします」
「でも動かします」
「次に湯あみ」
「寺社市」
「仕事作り」
「順番です」
肥後側の者たちは深々と頭を下げた。
「お願いします」
「我らも変わりたいのです」
八郎は頷く。
そして薩摩側を見る。
「薩摩は」
「もう少しお願いします」
「城を探してください」
「蔵」
「帳面」
「家臣」
「商人」
「十回ぐらい確認してください」
「絶対にあります」
「1000万文以上」
薩摩側の使者たちは青ざめた。
だが、もう逃げる者はいなかった。
なぜなら分かっていたからだ。
隠した借金は領地を滅ぼす。
出した借金は八郎なら動かせる。
この三歳児は、借金を見るのではなく。
その先の未来を見ていた。




