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1533年7月4週目。帳簿合わせの日。会の前に城のことで思いついたことがあるという八郎。宴会しましょう。交流会でも可

七月四週目。

いつもの帳簿合わせの日。

庄屋衆、商家衆、武士、寺社の者たちが集まり始めたところで、八郎がぽつりと言った。

「……思いついてしまいました」

その一言に、その場の全員が止まった。

最近、皆分かってきている。

この三歳児が「思いついた」と言う時は、だいたい何か大きく動く。

和尚が笑う。

「今度は何じゃ?」

「いや、大したことじゃないんですけど」

「八郎様の大したことない、は信用できませんぞ」

商人たちも笑った。

八郎は帳面を開く。

「前に話したと思うんですが」

「館で毎日百人ぐらい集めて、槍や弓の訓練をして」

「そのあと飯を食べて」

「湯浴みに入って」

「団子でも食べながら、今の領地の状況を話す」

「そういう場所を作りたいと言いました」

皆が頷く。

「ああ、ありましたな」

「領民に帳面を見せるという変わった話ですな」

八郎は苦笑した。

「変ですかね」

「変です」

即答される。

「普通、領主は借金を隠します」

「八郎様は全部見せますから」

八郎は話を戻す。

「それなんですが、問題があります」

「銭ですね」

「はい」

帳面を指差す。

「薩摩川内だけでも炊き出し費用が月15万文ほど」

「湯浴みの維持で1万文」

「合わせて16万文」

「これをどうするか悩んでました」

武士が頷く。

「確かに、訓練は大事ですが、毎日飯を出すとなると大変です」

「そこで思いつきました」

「何をです?」

八郎は普通の顔で言った。

「週二回、宴会しましょう」

「……宴会?」

皆が首を傾げた。

「はい」

「参加費、一人50文」

「一回200人」

「つまり一回1万文です」

「それを週二回」

「月八回なら8万文」

「さらに二部制にします」

「一刻半ずつ」

「つまり倍です」

商人が計算する。

「……月16万文?」

「はい」

「炊き出し代と湯浴み代が出ます」

一瞬、静かになった。

そして商人が吹き出した。

「また帳面合わせですか」

八郎は首を傾げる。

「駄目ですか?」

「いや、帳面上は恐ろしく綺麗です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

八郎は説明を続ける。

「宴会と言っても豪華なものじゃないです」

「城の備蓄」

「八郎商会が仕入れた中で店に使わなかったもの」

「干物」

「猪肉」

「寄進された野菜」

「そういうものを使います」

「みんなで食べます」

「それは炊き出しでは?」

「まあ、そうですね」

皆笑った。

「ただ、目的は飯だけじゃありません」

「人を会わせたいんです」

「会わせる?」

「はい」

「村同士」

「商人同士」

「武士同士」

「あと……」

八郎は少し困った顔をする。

「縁談とか?」

その瞬間、女衆が反応した。

「それは良いですね」

「別の村の者と会える機会は少ないですから」

八郎は慌てる。

「あ、そこは僕分からないので任せます」

「飯食べながら仲良くしてください」

「商売の話でもいいです」

「嫁探しでもいいです」

「友達作りでもいいです」

和尚が笑う。

「三歳児が縁談の場を作るか」

「だからそこは任せますって」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「要するに」

「来てもらう」

「飯を食べる」

「楽しむ」

「銭を落としてもらう」

「その銭で、残り五日の訓練と炊き出しを維持する」

「そういう流れです」

商人たちは顔を見合わせた。

「面白い」

「普通なら税を取るところを」

「楽しませて銭を出させる」

「ただ」

八郎は言う。

「成功するかは分かりません」

「やってみて調整です」

「人が来なければ?」

「八郎商会から補填します」

「簡単に言いますな」

「だって目的がありますから」

「城には訓練費を出す余裕がありません」

「でも、ただ働きさせるのは嫌です」

「だから飯を出します」

「でも飯代も必要です」

「なら楽しい場を作って、そこで回せばいいかなと」

武士たちは黙った。

自分たちのため。

領民のため。

全部つながっていた。

「ちなみに」

八郎は続ける。

「これは川内だけじゃありません」

「他の領地も同じです」

「人数が倍なら」

「50文×400人で考えます」

「規模に合わせれば回ります」

商人が笑った。

「また増やす気ですな」

「必要ならです」

「ただ問題があります」

「何です?」

「湯あみが足りません」

「ああ」

皆納得した。

人が集まれば湯浴み需要が増える。

「なので城の湯あみを二つ追加します」

「費用は?」

「2拠点で8万文」

「八郎商会で出します」

「またですか」

「はい」

「八郎様」

「なんです?」

「金払い、めちゃくちゃ太っ腹ですな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

八郎は首を振った。

「違います」

「これは使ってるんじゃないです」

「回してるんです」

「人が集まる」

「飯が売れる」

「仕事が増える」

「銭が動く」

「止まってる銭が一番もったいないです」

その言葉に、商家衆は笑った。

「やっぱり八郎様は領主というより、大商人ですな」

「いや、まだ三歳なんですけど」

その返事に、館中が笑いに包まれた。

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