1533年7月3週目。薩摩川内の次に他の領地について語る八郎。大量の借金が消えていき歓喜。城の借金を悩むも何とかするだろと言われる。
薩摩川内の話が終わった後、八郎は次の帳面を開いた。
「では、次です」
「薩摩の新しく加わった領地、それから南肥後についてです」
その言葉で、そちらから来た武士や商家衆が緊張した。
川内では証文が消えた。
しかし自分たちはまだ途中。
どれだけ減ったのか。
誰もが気になっていた。
「まず薩摩側です」
「庄屋衆の証文ですが……」
八郎が数字を見る。
「残り236万文です」
ざわっ。
周りが騒ぐ。
「もうそこまで減ったのか」
「少し前まで450万文以上あったぞ」
「半分近く消えておる……」
当事者の商人たちも苦笑した。
「正直、こんな速度で返ってくるとは思ってませんでした」
「普通なら十年単位です」
八郎は首を振る。
「返したというより、動かしただけです」
「止まっていた物を動かしただけです」
「それで、次の相談です」
八郎は侍衆を見る。
「川内と同じように、鳥獣対策をお願いしたいと思っています」
「猪や鹿ですか?」
「はい」
「ただし、こちらは川内の倍以上あります」
「なので規模も大きくします」
「冬までの仕事として」
「180万文分」
「侍さんにお願いしたいと思っています」
瞬間。
武士たちが固まった。
「ひゃ、180万文……?」
「そんな仕事を?」
八郎は頷く。
「もちろん現金ですぐ払うわけではありません」
「仕組みは同じです」
「農村から現物を出してもらう」
「八郎商会が仕入れる」
「市で料理に変える」
「その分を帳面で合わせる」
「市の原価が週90万文動いています」
「だから……」
「二週間で処理できます」
その瞬間だった。
「は?」
商家衆が変な声を出した。
「ちょっと待ってください」
「180万文ですよ?」
「はい」
「それを二週間?」
「はい」
「おかしいでしょう」
商人が笑った。
「昔なら一族三代で返す額ですぞ」
八郎は不思議そうにする。
「でも材料は使いますから」
「飯は毎日食べますし」
「市は毎週ありますし」
「だから回せば消えます」
その言葉に、皆ため息をついた。
「八郎様は簡単に言いますな」
「簡単ではないですよ」
「料理作る人も、運ぶ人も、仕入れる人も大変です」
「だから皆さんのおかげです」
その言葉で場が少し静まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「結果として」
「侍さんの借金700万文」
「これを520万文まで減らせる予定です」
武士たちは言葉を失った。
「わしらの借金まで……」
「本当に減るのか……」
「全部ではありません」
「でも進みます」
八郎はそう言った。
「南肥後も基本は同じです」
今度は肥後側が顔を上げる。
「こちらは加わった時期が遅いので」
「まだ残っています」
「庄屋衆の証文」
「残り357万文です」
一瞬沈黙。
だが以前とは違った。
「357万文……」
「大金なのに」
「なんか少なく感じるな……」
誰かが呟いた。
周囲が笑った。
「感覚がおかしくなっとる」
「少し前なら絶望する額じゃ」
八郎も笑う。
「でも、今の仕組みなら」
「一ヶ月あれば見える額です」
その言葉で南肥後の者たちは安心した。
終わらない借金ではない。
減る借金になった。
最後に八郎商会の帳面を見る。
「それで……」
「八郎商会ですが」
「今ある利益分は」
「約92万文です」
一瞬、静かになった。
そして。
「はあ!?」
全員が叫んだ。
「92万文!?」
「三歳児が!?」
「城より銭持っとるんじゃないか!?」
八郎は慌てる。
「いやいやいや」
「違います」
「これは全部使える銭じゃないです」
「これから仕入れもあります」
「市も増やします」
「岩見も作ります」
「芋もあります」
「焼酎もあります」
「あと……」
八郎はため息をつく。
「城の借金問題があります」
場が少し静かになる。
「そこなんですよね」
「商家衆」
「農家」
「侍さん」
「ここまでは道筋が見えました」
「でも城の借金」
「これが一番大きい」
周りも頷く。
「確かに」
「城は簡単にはいかん」
商人の一人が笑った。
「でも八郎様なら、また何か考えるでしょう」
「いやいや」
「そんな簡単に言わないでください」
「今めちゃくちゃ悩んでます」
和尚が笑った。
「皆もう分かっておるのじゃ」
「何をです?」
「一番この領地の銭の流れを理解しているのは」
「八郎じゃとな」
周りが頷く。
「飯屋で借金を消し」
「猪退治で武士を救い」
「捨てていた物を商品にした」
「なら次も何か出てくる」
八郎は苦笑した。
「期待が重いです」
だが誰も不安そうな顔はしていなかった。
数ヶ月前。
この館には借金と怒号しかなかった。
今は違う。
同じ帳簿を見ながら、皆が未来の話をしていた。




