1533年7月1週目。芋の苗つくりのために芋苗を5万文分。湯あみと諸経費5万文、焼酎つくりの甕に5万文使う
七月一週目。
帳面合わせが終わったあとも、八郎の話は続いた。
「では、次です」
その言葉を聞いて、周りの者たちは苦笑する。
「まだあるんか」
「はい」
「まだあります」
八郎は当然のように答えた。
「一郎兄様、二郎兄様」
「はいはい、今度は何や」
二人の兄が笑いながら前に出る。
「芋です」
「今、芋の状態どうですか?」
一郎は少し考える。
「まあ、悪くない」
「少しずつ伸びてきとる」
「秋口には掘れると思うぞ」
「今から植えたら間に合います?」
「七月からか?」
二郎が腕を組む。
「うーん……」
「育ちは弱いやろな」
「大きい芋は期待できん」
八郎は頷く。
「でも」
「苗にはなりますよね?」
「……」
一郎と二郎が顔を合わせる。
「ああ」
「それならなるな」
「じゃあ買います」
「また即決か」
和尚が笑う。
「今年食べる分だけじゃありません」
「来年増やす分です」
「飢饉対策です」
「荒れた土地でも作れる」
「米が取れないところでも育つ」
「これは大事です」
一郎が笑う。
「そこまで考えてるなら任せとけ」
「お願いします」
そして八郎は帳面を見る。
「費用ですが」
「まず館の湯浴み」
「二つ作ります」
「四万文」
「雑費」
「一万文ぐらい」
「それから芋苗」
「五万文買います」
「合わせて十万文使います」
周囲が少し驚く。
「十万文!?」
しかし八郎は普通だった。
「大丈夫です」
「今、八郎商会に四十五万文あります」
「そんなにあるのか」
武士たちが驚く。
「市の利益」
「商売の利益」
「少しずつ貯めています」
「ここから十万文使います」
「残り三十五万文」
「そこからまた考えます」
和尚が笑った。
「普通は貯め込むところじゃがな」
「使わないと増えません」
八郎は答える。
「芋が増えれば」
「食べ物になります」
「売れます」
「仕事になります」
「今年取れる量は少ないと思います」
「でもまず皆で食べます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「焼く」
「蒸す」
「潰す」
「団子にする」
「どう食べたら美味しいか考えます」
「そして種を増やします」
「次につなげます」
一郎と二郎は頷いた。
「任せろ」
「畑は探しておく」
次に八郎は肥後南部の者たちを見た。
「聞きたいんですが」
「米焼酎ってできます?」
その言葉に肥後側の者が反応した。
「ああ」
「肥後では作れる者がおるぞ」
「本当ですか」
八郎の目が輝く。
「では」
「米焼酎を特産品にしませんか」
「特産?」
「はい」
「作って売ります」
「米は秋からになります」
「新米が取れたら仕込みます」
「ただ準備が必要です」
「何がいる」
「甕です」
職人たちが頷く。
酒を造るにも、保存するにも必要。
「甕代として」
「まず五万文出します」
また広間がざわついた。
「また出すのか」
「はい」
「秋になってから準備しても遅いです」
「今から用意します」
「米焼酎」
「そしてもう一つ」
「芋でも試してください」
「芋?」
酒職人が目を丸くする。
「芋で酒など聞いたことありませんぞ」
「でしょうね」
八郎は頷く。
「だから試します
「できるかどうか分からないものに銭を?」
「はい」
「できなかったら?」
「失敗です」
周囲がずっこける。
「軽いな!」
「でも」
八郎は続ける。
「成功したら大きいです」
「米は食べ物です」
「飢饉になれば酒にはできません」
「でも芋なら」
「余った分を使えるかもしれません」
「焼酎なら腐りにくい」
「遠くへ運べる」
「交易品になる」
「銭になります」
武士たちが反応した。
「銭……」
「はい」
「銭が増えれば」
「お侍さんの給金を払えます」
その瞬間、武士たちは黙った。
今まで領主から言われたのは、
「我慢しろ」
「戦え」
「待て」
だった。
しかし八郎は違った。
どうやって払うかを考えていた。
「そこまで……」
「考えてくださっていたのですか」
「当然です」
八郎は首を傾げる。
「働いてもらうなら」
「払わないと駄目です」
「払うためには」
「稼がないと駄目です」
「だから飯を作ります」
「芋を作ります」
「酒を作ります」
和尚が大笑いした。
「三歳児が侍の給料のために酒造りか」
「笑い事じゃないです」
「帳面が合わないんです」
その言葉に皆が笑う。
だが笑いながらも、誰も疑ってはいなかった。
魚。
市。
湯浴み。
そして今度は芋と焼酎。
八郎がまた一つ、銭の流れを作ろうとしていることを。




