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1533年6月4週目。八郎の今後やりたいことの方針について話す・見回りに甲冑を付けて訓練。館で訓練・炊き出し・風呂・団子・情報共有

帳面合わせが一段落したあと、八郎は集まった者たちを見回した。

「これからやりたいことを話してもいいですかね」

 その言葉に、商人衆も庄屋衆も武士たちも身構えた。

 最近の八郎の「やりたいこと」は、だいたい領地全体を巻き込む。

「まず、飯を増やします」

 父が苦笑する。

「また飯か」

「はい。飯の種です」

 八郎は指を一本立てた。

「一つ目は蜂蜜饅頭です」

「蜂蜜、取れますよね」

 山方の者が頷く。

「少しなら」

「甘味は強いです」

「砂糖だけに頼ると高いので、蜂蜜も使います」

「蜂蜜饅頭屋を作りたいです」

 商人衆がすぐ反応した。

「それは売れますな」

「寺社市向きです」

「二つ目は親鳥です」

 八郎は母と三郎を見る。

「硬い親鳥をおいしく食べる方法を探してください」

「煮るのか、叩くのか、団子にするのか」

「店にできれば、新しい仕入れになります」

 三郎が頷く。

「硬い肉を銭に変えるわけやな」

「はい」

「今まで安かったものを使います」

「三つ目はうなぎです」

「これはまだ考え中です」

「焼く、煮る、飯に乗せる」

「もう少しできると思っています」

 和尚が笑う。

「お前、借金の話をしていたはずが、いつの間にか献立会議じゃの」

「献立が借金を消すんです」

 次に八郎は武士たちを見る。

「見回りについてです」

「できれば甲冑をつけて歩いてください」

 武士たちが少し驚く。

「戦ですか?」

「訓練です」

「重いものをつけて長く歩く」

「それだけで体ができます」

「いざという時、歩けない兵は困ります」

 元敵だった武士が苦笑する。

「三歳児に兵の足腰を言われるとは」

「大事です」

「もう一つ」

・・・・・・・・・・・・・・

「毎日百人ほど、館に来てもらいたいです」

 広間が静まる。

「百人?」

「はい」

「朝、弓と槍の練習をします」

「そのあと炊き出しを食べます」

「湯浴みに入ります」

「最後に帳簿の状況を共有します」

「銭は払いたいです」

「でも今すぐ全員に銭は無理です」

「だから、飯と団子と湯浴みを出します」

 商人が尋ねる。

「湯浴みもですか?」

「はい」

「館に男女用で二つ作ります」

「湯に浸かれる形です」

「二万文ぐらいかかると思います」

 職人が目を丸くした。

「高いですな」

「高いです」

「でも訓練に来てくれる理由になります」

「炊き出しは?」

「一日五千文ぐらい」

「月で十五万文」

 父が眉を上げる。

「かなりかかるぞ」

「はい」

「でもこれは仕入れにもなります」

「米、味噌、魚、野菜を買います」

「だから証文と合わせられます」

 武士の一人が聞いた。

「なぜそこまでして訓練を?」

 八郎は真面目に答えた。

「いつ攻めてくるか分からないからです」

「これは時代が悪いので仕方ありません」

「でも厳しいだけでは誰も来ません」

「弓と槍を練習する」

「飯を食べる」

「料理教室のまかないを食べる」

「湯に入る」

「最後に、今この領地がどうなっているか聞く」

「それなら来る人が増えると思います」

 和尚が目を細める。

「ただの訓練ではないな」

「はい」

「共有です」

「毎日百人」

「月で延べ三千人」

「薩摩川内一万五千石なら、五ヶ月ほどでかなりの人に伝わります」

「重複する人もいるでしょう」

「来ない人もいるでしょう」

「でも、話は広がります」

「今、商家衆の証文がどれだけ減ったか」

「武士の借金をどうするか」

「城の借金を隠していないこと」

「八郎商会が銭を貯め込んでいないこと」

「全部話します」

 商人衆が感心したように息を吐く。

「つまり、領民に帳面を見せるのですか」

「はい」

「隠すと疑われます」

「見せれば、一緒に考えられます」

「庄屋衆の借金が消えると分かれば、皆安心します」

「武士の借金も少しずつ減ると分かれば、荒れにくくなります」

「寺社市の売掛も、少し増やせます」

「余裕が出た人は、少し高い物も買います」

「湯浴みの回数も増えます」

「そうしたら利益が増えます」

「また次の仕事が作れます」

 武士たちは黙って聞いていた。

 訓練。

 飯。

 湯。

 帳面。

 普通なら別々の話だ。

 しかし八郎の中では、全部つながっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 父が呟く。

「めちゃくちゃ考えとるな」

 八郎は首を振った。

「考えないと回りません」

「もう八万五千石分の帳面があります」

「魔法はないです」

「飯を作って、人を集めて、見せて、動かすしかありません」

 和尚が笑った。

「お主、本当に領主になってしもうたな」

「違います」

 八郎は疲れた顔で言った。

「飯屋です」

 その場の全員が笑った。

「その飯屋、領民三千人に帳面を説明する気やぞ」

 八郎は小さくため息をついた。

「だから、団子も出すんです」

「甘いものがあれば、少しは聞いてくれるでしょう」

 皆がまた笑った。

 だが誰も反対しなかった。

 訓練も、炊き出しも、湯浴みも、帳面公開も。

 八郎の領地では、すべてが銭を回し、人を守る仕組みになっていた。

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