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1533年6月3週目。島津筋が商人の説明で八郎を馬鹿にできなくなる。庄屋上がりで商売をし、防衛線に2度勝つ。弱くはない

島津一門の館。

 八郎という三歳児の話を聞き、当主も家臣たちも黙り込んでいた。

 最初は笑い話だった。

 三歳児。

 飯屋。

 借金返済。

 そんなもので領地が治まるはずがない。

 そう思っていた。

 しかし、商人衆の話は続く。

・・・・・・・・・・・・

「一つ、勘違いされております」

 商人頭が静かに言った。

「八郎様は確かに飯屋をしております」

「なら、真似すればよかろう」

 家臣の一人が言う。

「飯を炊いて売るだけじゃろう」

 だが商人は首を振った。

「そこが違います」

「八郎様が強いのは料理だけではございません」

「では何じゃ」

「捨て値だった物に値をつけたことです」

「……?」

「例えば魚です」

「今まで捨てていた魚」

「安く買われていた魚」

「硬くて売れなかった親鳥」

「余った野菜」

「そういうものを」

「料理に変えて売っています」

「普通の飯屋なら」

「米や良い魚を取り合います」

「そうなれば昔からある飯屋と揉めます」

「ですが八郎様は違います」

「誰も価値を見ていなかった物を買う」

「だから敵を作りにくいのです」

 島津家臣たちは顔を見合わせた。

「つまり」

「飯屋を増やしているのに」

「他の商売を潰しておらんのか」

「はい」

「むしろ」

「漁師」

「農民」

「薪売り」

「桶屋」

「皆、仕事が増えております」

 別の家臣が言う。

「しかし味など簡単に真似できるのでは?」

 商人は苦笑した。

「それも難しいかと」

「なぜじゃ」

「味付け」

「仕込み」

「値段」

「量」

「仕入れ」

「全部合わせております」

「しかも」

「領内ではほぼ独占状態です」

「独占?」

「はい」

「八郎様は庄屋衆と非常に仲がよろしい」

「材料が欲しいと言えば」

「すぐ集まる」

「新しい市を作ると言えば」

「人が動く」

「帳面も合わせる」

「そこが普通とは違います」

 当主が腕を組んだ。

「なぜそこまで庄屋が協力する」

「元々が庄屋だからです」

「元は庄屋筋の子」

「農に近いところから始まり」

「商売を覚え」

「そして今、領地経営をしています」

「ですので」

「農民の困りごとも」

「商人の帳面も」

「両方見ております」

「軍は?」

 武士が鼻で笑う。

「商売上手でも戦は別じゃ」

 商人は少し黙った。

 そして言う。

「私どもも、そう思っておりました」

「ですが」

「今回二度の戦で分かりました」

「軍事にも疎くありません」

 広間が静かになる。

「正面から力比べをするのではなく」

「相手の動き」

「兵糧」

「逃げ道」

「士気」

「そこを見ていました」

「少なくとも」

「守りは強いです」

 当主は眉を寄せる。

「そこまでか」

「はい」

「先日の戦」

「最後に領境へ人を並べた話はご存じでしょうか」

「ああ」

「農民を並べて数を多く見せたとか」

「違います」

 商人が言う。

「並ばされた、ではありません」

「自分たちで立ったのです」

 空気が止まった。

「農民が?」

「はい」

「八郎様の領地を守るために」

「……」

 戦国の世。

 普通、農民にとって戦は迷惑だった。

 逃げるもの。

 隠れるもの。

 巻き込まれるもの。

 その農民が領境に立つ。

 それは異常だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「つまり」

 商人は続ける。

「攻める場合は分かりません」

「ですが」

「守る戦になれば」

「かなり厄介です」

「武士だけではありません」

「商人も」

「農民も」

「職人も」

「支えます」

 島津一門の者たちは黙った。

 先ほどまで三歳児と笑っていた相手。

 しかし実態は。

 八万石を超える領地。

 商人が支える経済。

 民が支える防衛。

「……難しいのう」

 当主がぽつりと言った。

「はい」

 商人は頭を下げる。

「弱くはありません」

「少なくとも」

「簡単に奪える相手ではございません」

 当主はため息をついた。

「わしらも別に余裕があるわけではないしな」

 家臣たちも黙る。

 表向きは強い島津一門。

 だが。

 戦費。

 未払い。

 商人への借り。

 どこも同じ問題を抱えている。

「三歳児か……」

 当主は苦笑した。

「笑っておったが」

「案外、学ぶところがあるのはこちらかもしれんな」

 広間から、先ほどまでの笑い声は消えていた。

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圧倒的更新力!目が離せない面白さです!
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