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1533年6月3週目。薩摩川内の北側でも領主変更→八郎傘下の話になる。薩摩川内南側の領土と同じ動きを始める

それから数日後。

 八郎の予想していたことが起きた。

 北――肥後南側。

 以前、兵を出して攻め込んできた国人衆たちの領地で騒ぎが起こった。

 敗戦。

 武具の喪失。

 給金不足。

 借金。

 そして、帰ってきた兵たちが語った八郎の領地の話。

「飯が出た」

「捕虜なのに殺されなかった」

「借金を帳面につけてくれた」

「仕事を作ると言っていた」

 その話はじわじわ広がった。

 そして結局――。

「八郎様」

「肥後南側の者たちが参りました」

 家臣から報告を受け、八郎はため息をついた。

「……やっぱり来ましたか」

 和尚は横で笑っている。

「ほれ見ろ」

「言うた通りじゃろ」

「笑い事じゃないです」

「また帳面増えるんですよ」

 広間に通されたのは、肥後南側の武士、庄屋、商人衆。

 そして。

 縄をかけられた元領主たちだった。

「八郎様」

「我ら、話し合いました」

「今後は八郎様の下でやらせていただきたい」

「領地も、人も、お預けいたします」

 八郎は黙って聞く。

「ちなみに石高は?」

「合わせれば三万五千石ほどかと」

 周囲がざわつく。

 これで八郎の勢力はさらに大きくなる。

 だが本人だけは違った。

「ああ……」

「やっぱり同じぐらいですか」

「では」

 八郎は帳面を出した。

「見積もります」

「え?」

「南側と規模がほぼ同じです」

「だから、たぶん数字も近いです」

「城の借金」

「庄屋衆の証文」

「武士個人の借金」

「未払い」

「隠れた負債」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎が淡々と言う。

「全部出してください」

「表の帳面だけではなく」

「裏の帳面も」

 その瞬間。

 縄をかけられていた元領主たちの顔色が変わった。

「裏……?」

「何のことじゃ」

 そう言いながら、明らかに目が泳いでいる。

 八郎はため息をついた。

「ありますよね」

「……」

「隠してる借り入れ」

「商人衆に頼んで先延ばししてる分」

「武具代」

「未払い給金」

「戦費」

「全部です」

「な、なぜそこまで……」

 元領主が震えながら言った。

「なぜ分かる」

 八郎は普通に答えた。

「南側がそうでしたので」

「……」

「石高も近い」

「兵数も近い」

「戦の仕方も近い」

「なら困っている場所も似ています」

「だから」

「たぶん同じです」

 その一言に、周りの領民たちの視線が元領主へ向いた。

「……つまり」

「うちも同じように隠していたんですか?」

「我々には年貢を出せと言いながら?」

「給金がないのは我慢しろと言いながら?」

「いや、違う」

「領地を守るためで……」

 元領主は慌てる。

 しかし。

 その言葉は以前、薩摩側でも聞いたものだった。

 八郎が手を上げる。

「責めるのは後です」

「今必要なのは犯人探しではありません」

「数字です」

「いくら足りないか」

「何が足りないか」

「何なら返せるか」

「それを見ます」

「なので」

「一週間後」

「全部持ってきてください」

「商人衆も呼んでください」

「付き合わせします」

「隠して後で出てきた場合は……」

 八郎は少し考えた。

「扱いがかなり雑になります」

 その妙な言い方に周りは苦笑したが、元領主たちは青ざめた。

 この三歳児。

 怒鳴らない。

 刀も抜かない。

 だから余計に怖い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただ」

 八郎は続ける。

「待ちません」

「え?」

「帳面合わせは来週」

「でも準備は今日からします」

「南側と同じ規模なら」

「必要なものも大体同じです」

「市を動かします」

「料理人を送ります」

「弟子を入れます」

「飯屋を開きます」

「まず銭の流れを作ります」

 商人衆が笑った。

「また飯からですか」

「はい」

「飯なら明日から動かせます」

「城の改革は時間がかかります」

「でも飯は作れます」

「米」

「魚」

「野菜」

「薪」

「全部仕入れになります」

「仕入れになれば」

「証文と合わせられます」

 肥後側の商人が小さく呟いた。

「本当に……」

「噂通りじゃ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「戦で領地を取るのではなく」

「飯屋で領地を直すとは……」

 和尚が笑った。

「八郎」

「これで八万五千石じゃぞ」

 八郎は頭を抱える。

「言わないでください」

「帳面の量で考えてますから」

「石高じゃなく?」

「はい」

「借金も八万五千石分です」

 その返事に広間は笑いに包まれた。

 領地が増えて喜ぶ者たち。

 そして一人だけ。

 増えた帳面を見て頭を抱える三歳児。

 だが皆、もう知っていた。

 この三歳児なら。

 また飯を作り。

 市を動かし。

 証文を一枚ずつ消していくのだと。

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