1533年6月。国人衆の沙汰。元領主は首を斬る。その他の領主は一緒に働く。ただし現在の財務状況裏帳簿も含めてみる
広間には重い空気が流れていた。
縄をかけられた元領主たち。
その前に座る三歳の八郎。
誰もが、この後どうするのかを見守っていた。
八郎はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……けじめは必要です」
その言葉に、元領主たちの顔色が変わる。
「今回の騒動を起こした方」
「間違いなく首は落とします」
場が静まり返った。
「ただ」
「この館でやられると困ります」
「どこか別の場所でお願いします」
あまりに淡々とした言葉だった。
「待て待て!」
元領主が叫んだ。
「三歳の子供が何を言う!」
「そんな殺生なことを口にするものではない!」
しかし八郎の表情は変わらなかった。
「子供だからですか?」
「そうじゃ!」
「命を何と思っておる!」
八郎は静かに言った。
「今回の戦で死んだ人がいます」
元領主は言葉に詰まった。
「怪我した人もいます」
「家を壊された人もいます」
「田畑を荒らされた人もいます」
「私は今」
「その帳面を全部見ています」
八郎は積み上げられた帳面を見る。
「修理代」
「治療費」
「失った道具」
「数千文では済みません」
「数万文になります」
「それは……」
「戦なら仕方ない」
元領主は言いかけた。
だが。
「その戦を呼んだのは誰ですか」
八郎の一言で止まった。
「もちろん」
「あなた一人で全部背負えるとは思っていません」
「今、武士の借金」
「城の負債」
「合わせれば九百三十万文以上」
「一人でどうこうできる額じゃありません」
「だから、こうなったんです」
周囲は黙っていた。
三歳児とは思えないほど冷静だった。
「連れて行ってください」
八郎が言う。
兵が元領主を連れていこうとする。
すると残された他の領主たちが慌てた。
「待ってくれ!」
「八郎様!」
「我らも首か!?」
「我らも同じなのか!?」
八郎は首を傾げる。
「なぜです?」
「え?」
「皆さんはまだ話があります」
「我らは薩摩の他の国人衆にも顔が利く!」
「交渉もできる!」
「だから命だけは……」
必死だった。
すると八郎は普通の顔で言った。
「では働きませんか?」
「……は?」
「働く?」
「はい」
「うちで」
元領主たちは理解できなかった。
「正直に言います」
「私は細かいところまで分かりません」
「領地が増えました」
「帳面が増えました」
「人も増えました」
「もう見切れません」
和尚が横で笑う。
「ようやく三歳らしいこと言ったな」
「皆さん」
「字は読めますよね?」
「帳面も分かりますよね?」
「もちろんじゃ」
「なら十分です」
「牢に入れて」
「全部吐かせることもできます」
「でも」
「それより一緒に直した方が早いです」
元領主たちは顔を見合わせた。
「まず」
「皆さんの城の借金」
「全部出してください」
「隠さず」
「家臣の給金不足」
「商人への借り」
「全部です」
「そして庄屋衆の借金」
「これは何とかできます」
元領主が驚く。
「本当にか?」
「はい」
「今」
「うちの領地では」
「あと一ヶ月ほどで庄屋衆の借金はほぼ消せます」
「飯屋の仕入れで」
「……飯屋?」
また同じ反応だった。
「市を作ります」
「飯を売ります」
「材料を買います」
「その材料代と証文を合わせます」
「それで消しています」
「武士の借金は時間がかかります」
「現金が必要ですから」
「でも」
「市」
「寺社」
「湯浴み」
「特産品」
「増やせば道はあります」
八郎は続けた。
「皆さんの土地にも」
「市がありますよね」
「寺がありますよね」
「神社がありますよね」
「特産がありますよね」
「それを教えてください」
「一緒に変えませんか」
元領主たちは呆然としていた。
殺されると思っていた。
牢に入れられると思っていた。
だが。
仕事を頼まれていた。
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「ただし」
八郎の声が少し低くなる。
「元の領地には戻れません」
「え?」
「民が納得しません」
「今は怒っています」
「なので」
「こちらで働いてください」
「政を見る側として」
「帳面を見る側として」
元領主たちは深く頭を下げた。
「……お願いします」
「働かせてください」
「では」
「帳面を合わせましょう」
八郎が笑う。
しかし最後に付け加えた。
「ただ」
「帳面合わせの場には元家臣や庄屋衆もいます」
「罵声は飛ぶと思います」
「そこは我慢してください」
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元領主たちの顔が青ざめる。
「……やはり?」
「はい」
「当然です」
「それだけ困っていた人がいるので」
和尚が笑った。
「首より怖いかもしれんの」
元領主たちは黙った。
刀で裁かれるより。
民の前で自分の政の結果を見る。
その方が、はるかに重い罰だった。




