表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
182/571

1533年6月1週目。13の市が動いたことで仕入れ39万文。利益3.9万文生まれる。庄屋衆の証文を39万円文大量償却

館の大広間には、人が集まっていた。

 商人衆。

 十の庄屋衆代表。

 寺社のまとめ役。

 帳面係。

 そして父や和尚もいる。

 呼び出された者たちは顔を見合わせた。

「八郎様」

「急に集めて、何か問題でも?」

「また戦の話ですか?」

 八郎は首を振った。

「違います」

「市の飯屋の話です」

 全員が少し拍子抜けした。

「飯屋?」

「はい」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は帳面を広げる。

「今回、無理やり十三の市を全部動かしました」

「元々動いていた三つ」

「新しく動かした十」

「全部です」

 四郎が苦笑する。

「まあ文句は山ほどあったけどな」

 五郎も頷く。

「味が違うとか」

「遅いとか」

「もっと汁入れろとか」

「いっぱい言われたわ」

 八郎は笑った。

「それでいいです」

「まず動かすのが大事でした」

「で、帳面を見ました」

 八郎が数字を書く。

「驚きました」

「新しい市も、だいたい最初の市と同じ動きでした」

 商人衆が身を乗り出す。

「つまり?」

「一ヶ所」

「仕入れ約三万文」

「利益約三千文」

 ざわっと空気が変わる。

「十三市あります」

「つまり」

「毎週、仕入れだけで約三十九万文」

 静まり返った。

「……三十九万?」

「はい」

「毎週です」

 和尚が笑う。

「またおかしな数字が出たの」

 八郎は続ける。

「これが何を意味するかです」

「庄屋衆の借金」

「百六十三万文」

「ありました」

 皆が頷く。

 重くのしかかっていた数字だった。

「でも」

「仕入れ三十九万文分」

「証文と合わせられます」

「つまり」

「今週だけで三十九万文減らせます」

 一瞬、誰も喋らなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……待ってください」

 一人の庄屋が声を出す。

「つまり」

「我々の借金が?」

「はい」

「百六十三万文から」

「百二十四万文ほどになります」

 ざわめきでは済まなかった。

「おい」

「本当にか」

「一週間ぞ?」

「一週間で三十九万文消えたんか?」

 商人衆も笑った。

「間違いありません」

「米」

「魚」

「薪」

「野菜」

「こちらも仕入れとして受けています」

「証文処理できます」

 庄屋衆は顔を見合わせた。

「前は何年かかるか分からんかった借金じゃぞ……」

「さらに」

 八郎は別の数字を書く。

「利益です」

「一ヶ所三千文」

「十三市で約四万文」

「週です」

「月なら十六万文ほど」

「一年なら……」

「約二百万文」

 今度は武士たちが反応した。

「ということは……」

「はい」

「武士の方々の借金」

「三百万文」

「すぐ全部ではありません」

「でも」

「少し見えてきました」

 武士たちは黙った。

 今まで誰も考えてくれなかったものだった。

「もちろん」

「城の負債六百万文は残っています」

「全部すぐ解決なんて無理です」

 和尚が笑う。

「普通はそこだけでも十分大問題じゃがな」

「はい」

「だからもっと仕事を作ります」

「料理開発」

「交易品」

「湯浴み」

「芋」

「酒」

「まだ増やします」

 父が呆れる。

「まだ増やすんか」

「必要です」

「収入源が足りません」

 その瞬間。

 広間中から声が出た。

「いやいやいや」

「十分です!」

「三歳児が何言うとるんですか!」

 庄屋の一人が笑った。

「八郎様」

「我々からしたら」

「一週間で三十六万文消えた時点で奇跡です」

 別の者も頷く。

「一年でもありがたいと思っとった」

「それが二ヶ月で見えるとは……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しかし八郎は首を振る。

「まだです」

「寺社市があります」

「ここも動きます」

「毎月十二万文ほど売掛が出ます」

「これも仕入れになります」

「継続的に借金を減らせます」

 商人が笑う。

「恐ろしい仕組みですな」

「借金を返すために働くのではなく」

「働いた結果、借金が減る」

「はい」

「それを作りたかったんです」

 和尚が八郎を見る。

「しかしの」

「何です?」

「戦で勝った時より、今の方が皆驚いとるぞ」

 八郎は首を傾げた。

「そうですか?」

「そうじゃ」

「敵二千を退けるより」

「借金三十九万文消す方が、民には大事件じゃ」

 その言葉に皆が笑った。

 槍ではなく飯。

 刀ではなく帳面。

 三歳児の戦は、まだ続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ