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1533年5月。戦が終わったのに指示だしが多い八郎。家族へ。そして武士たちへ。お願いする領主www

戦が終わったとはいえ、八郎の館は休む暇などなかった。

 むしろ戦が終わってからが本番だった。

 領地一万五千石。

 十三の市。

 十の庄屋衆。

 五百人近い武士。

 そして山ほどの借金。

 八郎は家族を集め、頭を下げた。

「皆様、お願いします」

 父が笑う。

「今度は何じゃ」

「仕事の割り振りです」

 その言葉に兄たちも顔を見合わせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 まず八郎は一郎、二郎を見る。

「一郎兄様、二郎兄様」

「はいはい」

「また無茶言う顔しとるな」

 八郎は苦笑する。

「さつまいもです」

「今育てているものを続けてください」

「飢饉対策になります」

 二人は頷く。

「それは分かる」

「あと」

「杵の方もお願いします」

「水車につけるやつか」

「はい」

「できたら百個お願いします」

 一瞬、空気が止まった。

「……百?」

「はい」

「八郎」

「お前、村一つの話やないぞ?」

「分かってます」

「領地全部です」

 一郎は頭を抱えた。

「十の庄屋衆全部か」

「はい」

「さつまいもも?」

「はい」

 二郎が笑う。

「もう無理じゃ」

「いえ」

「できるところからで大丈夫です」

「最終目標です」

「最初から全部できると思ってません」

 一郎が苦笑する。

「そこだけ冷静なん腹立つな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 次は三郎と母だった。

「三郎兄様、母上」

「料理をお願いします」

 母が首を傾げる。

「まだ増やすの?」

「増やします」

「十三市全部に出しますので」

「味を整えないといけません」

「特にマグロの煮付け」

 三郎が頷く。

「あれは売れるな」

「はい」

「あと途中で止まっていた親鳥です」

「硬い肉をどう美味しくするか」

「そこをお願いします」

「親鳥まで使うんか」

「はい」

「今まで値がつかなかった物を料理に変えれば」

「新しい仕入れになります」

「新しい仕事になります」

「新しい利益になります」

 母が笑った。

「結局全部そこなのね」

「はい」

「捨てるものを減らします」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 四郎、五郎には別の仕事だった。

「兄様方は動いてください」

「動く?」

「はい」

「十三市を回ってください」

「何が売れているか」

「何が足りないか」

「何に困っているか」

「情報を集めてください」

 四郎が笑う。

「偵察か」

「商売のです」

「まあ似たようなもんじゃな」

 そして六郎、七郎。

「兄様方は……」

「俺らは?」

「まず自分の身を守ってください」

「は?」

「武術の訓練です」

「危ないことが増えます」

 二人は顔をしかめる。

「また三歳児が怖いこと言う」

「あと」

「農業を見るでも」

「帳簿を見るでも」

「商売を見るでもいいです」

「自分に合うものを探してください」

 七郎が突っ込む。

「三歳児に人生相談されたくないわ!」

 家族全員が笑った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その後。

 八郎は武士五百人を集めた。

 元から味方だった者。

 元領主についていた者。

 捕虜から加わった者。

 様々だった。

 八郎は正直に話した。

「まず言います」

「五百人全員の給金を、今まで通り城から払うことはできません」

 ざわつく。

 だが八郎は続けた。

「計算しました」

「本来必要な人件費」

「今まで払えていた額」

「差額」

「年間約四百七十万文不足します」

 武士たちは黙った。

 分かっていた。

 だから借金した。

 だから苦しかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「八郎商会で全部補填したいです」

「でも」

「今すぐは無理です」

 その正直な言葉に、逆に皆が顔を上げた。

「だから仕事を作ります」

「十三の市を開きます」

「湯浴みを百二十六作ります」

「飯屋を広げます」

「道を直します」

「畑を広げます」

「仕事はいくらでもあります」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「一日四十文」

「働いた分は払います」

「武士なのに嫌かもしれません」

 そこで一人の下級武士が笑った。

「八郎様」

「何でしょう?」

「給金出んより百倍いいです」

 周りから笑いが起こる。

「ただし」

「戦う仕事も必要です」

「警備」

「見回り」

「訓練」

「弓の指導」

「情報集め」

「それを誰がするか」

「皆さんで決めてください」

 武士たちは驚く。

「八郎様が決めないのですか?」

「無理です」

 即答だった。

「帳面多すぎます」

「三歳児ですよ?」

 和尚が吹き出した。

「また都合のいい時だけ三歳になる」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも本気です」

「私一人では領地は動きません」

「皆さんで回してください」

「お願いします」

 八郎は頭を下げた。

 その姿に武士たちは顔を見合わせる。

 そして一人が膝をついた。

「分かりました」

「やりましょう」

 次々と声が続く。

「市の警備なら任せろ」

「弓なら教えられる」

「山道なら詳しい」

「帳面覚える」

 和尚はその様子を見ながら笑った。

「面白いのう」

「命令する殿ではなく」

「頼む殿か」

 父も頷いた。

「だから人が動くんじゃろ」

 八郎は帳面を閉じた。

「では一週間」

「まず動かしましょう」

「問題は出ます」

「直せばいいです」

「止まる方が怖いです」

 こうして。

 一万五千石の領地は、武士の国から少しずつ商いの国へ変わり始めた。

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