1533年5月。薩摩川内の領地の把握。収支トントンに見えたが隠れ債務600万文発覚。武士の給金も合わない。今後年500万文不足等。八郎商会誕生
戦が終わって数日。
八郎は館の一室で、大量の帳面に埋もれていた。
周りには父、和尚、商人衆、庄屋衆、そして新しく従うことになった武士たち。
八郎は大きくため息をついた。
「……まず確認します」
「元のお殿様の政治ですけど」
「思ってたほど悪くなかったです」
その一言に武士たちが顔を上げた。
「え?」
「八郎様、そう思われるのですか」
「はい」
八郎は帳面を指差す。
「一万五千石」
「年貢収入として約六百万文」
「そして支出も約六百万文」
「ここだけ見ると、破綻してません」
和尚が頷く。
「確かにの」
「戦国の領主としては普通じゃな」
八郎も頷いた。
「問題はここです」
別の帳面を出す。
「隠れていた負債」
「約六百万文」
部屋が静まり返る。
「六百万……」
「年貢一年分ではないか」
「はい」
「ここが問題です」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八郎は武士側を見る。
「特に気になったのは給金です」
「五百人を抱えるとして」
「仮に一人一日四十文」
「一年なら……」
「七百万文を超えます」
皆、顔を見合わせる。
「でも実際に計上されていた武士関連費は」
「約二百五十万文」
「差があります」
下級武士が苦笑した。
「……その通りです」
「遅れることもありました」
「足りない分は借りました」
八郎は頷く。
「だから武士個人の借金三百万文になったんですね」
「武士が贅沢したんじゃない」
「仕組みが無理だったんです」
その言葉に武士たちは黙った。
「ただ」
「問題があります」
「今すぐ六百万文の負債を消す方法はありません」
周りが静まる。
「なので分けます」
「まず城の負債六百万文」
「これは城の帳面に載せます」
「隠しません」
「全部公開します」
和尚が笑う。
「普通、殿様は隠すぞ」
「隠した結果がこれです」
八郎が即答した。
「次です」
「庄屋衆の借金」
「約百六十二万文」
「これは消せます」
ざわめく。
「どうやって?」
「仕入れです」
八郎は言う。
「米」
「魚」
「薪」
「炭」
「野菜」
「全部、八郎商会が買います」
父が止める。
「八郎商会?」
「あ、名前変えました」
「うちはもう飯屋だけではないので」
全員が笑った。
「今、八郎商会の手持ちは十三万文です」
「少ないです」
「なので増やします」
帳面に書く。
一、大市三ヶ所
「今は三つの市に店があります」
「ここは全部強化します」
飯屋
甘味
酒
特産品
「利益を作ります」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「次」
「中市」
「十ヶ所あります」
「ここにはまだ出せてません」
「全部出します」
「目的は利益だけではありません」
「仕入れ場所を作るためです」
・・・・・・・・・・・・
そして。
「湯浴みです」
「今は四つです」
「でもこれは一つの庄屋衆だけ」
「本来なら」
「十庄屋衆全部」
「十個ずつ」
「百個作ります」
全員が固まる。
「百?」
「はい」
「さらに大市には追加します」
「合計百二十六ぐらいを目標にします」
父が頭を抱える。
「三歳児の数字じゃない」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「湯浴みは利益もあります」
「でも大事なのは」
「薪を買うことです」
「薪を買えば山の民の借金が消えます」
「掃除する人を雇えば仕事になります」
「灰は畑に使えます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そして寺と神社の市」
「今は一部だけです」
「全部やります」
「十庄屋衆」
「寺と神社」
「二十市」
商人衆が目を輝かせる。
「場所代ですね」
「はい」
「商人さん」
「寺社」
「八郎商会」
「三方で分けます」
「そして売る物を作る」
「買う」
「証文を消す」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこで商人が聞いた。
「八郎様」
「今回の戦費は?」
八郎は顔をしかめた。
「そこです」
「約三十万文」
「これは現金です」
空気が重くなる。
「武具」
「油」
「修理」
「急ぎのもの」
「ここは米では払えません」
「だから」
「全部を仕入れで解決できると思ってはいけません」
「現金を作る商売も必要です」
「甘味」
「酒」
「湯浴み」
「特産品」
「ここで銭を作ります」
和尚が笑った。
「つまり八郎」
「お前は城を取ったのではなく」
「借金六百万文付きの商売を買ったわけじゃな」
八郎はため息をつく。
「言わないでください」
「三歳児に背負わせる額じゃありません」
父が笑う。
「三歳児が八郎商会とか言い出すからじゃ」
皆が笑った。
だが、その場にいた者は理解していた。
この領地は初めて、
「税を取る場所」
から
「稼ぐ場所」
に変わろうとしていた。




