1533年5月。南側の捕虜の整理と北からの襲撃に警戒。北から攻めてくるが前回の戦は共有済でにらみあい。後方の食糧が焼かれ混乱。収奪しようにも抵抗される。そこを刈り取られ敗走。
南からの戦が終わった翌日。
館の庭には、敵だった兵たちが座っていた。
ただし。
縛られている者はほとんどいない。
武具は預けている。
けれど飯は出る。
水も出る。
怪我人には手当てもある。
元敵兵たちは困惑していた。
「……俺ら捕虜よな?」
「たぶんな」
「なんで昨日より飯ええんや?」
そんな声まで出る。
八郎は帳面係を集める。
「ではお願いします」
「名前」
「村」
「家族」
「田畑」
「借金」
「分かる範囲で全部書いてください」
捕虜の一人が聞く。
「書いてどうするんです?」
「困っているなら考えます」
「証文があるなら、こちらで整理します」
全員が固まった。
「いや……」
「俺ら攻めたんやぞ?」
「はい」
「でも理由がありますよね」
「食べられない」
「借金がある」
「命令された」
「そこを変えないと、また戦になります」
和尚が横で笑う。
「戦の翌日に借金相談所か」
「八郎らしいのう」
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その時。
八郎は言った。
「ただ」
「お願いがあります」
捕虜たちが身構える。
「数日だけ残ってください」
「え?」
「たぶん北から来ます」
場が静まる。
「戦える方」
「怪我してない方」
「よければ手伝ってください」
「もちろん給金は払います」
「ご飯も出します」
味方の武士が思わず突っ込む。
「八郎様」
「昨日攻めてきた兵をそのまま使うんですか?」
八郎は首を傾げる。
「使う?」
「違います」
「お願いしています」
「働いてもらうので払います」
一瞬。
沈黙。
そして大笑い。
「ははは!」
「変な子じゃ!」
「昨日まで敵やぞ!」
捕虜の一人が笑った。
「まあええか」
「どうせ昨日死んでた命じゃ」
「飯も出るしな」
「三歳児相手に約束破るのも格好悪い」
こうして。
昨日の敵が、今日の味方になった。
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数日後。
予想通り北から軍勢。
肥後方面の国人衆。
約千。
ただし、南の失敗は聞いていた。
「油を使うらしいぞ」
「館に突っ込むな」
「慎重に行け」
前回とは違う。
警戒して進んできた。
館前。
矢が飛ぶ。
しかし北の兵も考えていた。
盾。
遮蔽物。
簡単には近づかない。
「今回は違うぞ」
「焦るな」
にらみ合いになる。
報告を聞いた八郎は頷いた。
「そうなりますよね」
和尚が見る。
「困ったか?」
「いえ」
「相手も考えます」
「当然です」
そして。
次の知らせ。
「後方部隊、動きました」
昨日まで敵だった南の兵たち。
彼らが北軍の後ろへ回っていた。
北軍の陣。
「火だ!」
「後ろだ!」
「荷が燃えている!」
食料。
物資。
それが失われた。
兵たちは動揺する。
「落ち着け!」
「村から取ればよい!」
だが。
それも簡単ではなかった。
村へ向かえば。
村人が抵抗する。
「ここは八郎様の土地じゃ!」
「帰れ!」
そこへ後ろから追撃。
少しずつ削られる。
戦というより。
完全に流れを失っていた。
「引くぞ!」
北軍は撤退を決めた。
しかし。
戻る道にも人影。
兵。
農民。
大量の旗。
「またか……」
南から逃げた者と同じだった。
もう戦う気力がない。
武器が落ちる。
一人。
また一人。
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結局。
国人衆の一部と数十人だけが逃げ帰った。
残りは降った。
館。
二度目の戦の後。
武士たちは顔を見合わせる。
「……俺ら」
「強くなった?」
「二回勝ったぞ」
少し誇らしげだった。
しかし八郎は首を振る。
「違います」
「作戦です」
「あと皆様が協力してくれたからです」
和尚が笑う。
「いや、それを強いと言うんじゃがな」
そしてまた。
八郎は同じことを始める。
「では帳面お願いします」
全員が笑った。
「またか!」
「はい」
「名前」
「村」
「借金」
「全部です」
さらに。
「炊き出しします」
「米お願いします」
商人が聞く。
「これだけ人数いますと、かなり使いますよ?」
「大丈夫です」
「買います」
「帳面につけてください」
商人衆は大笑い。
「戦の後まで仕入れですか」
八郎は当然のように答える。
「うちは庄屋ですから」
「必要なものを買うだけです」
敵だった兵。
味方だった兵。
農民。
商人。
全員が同じ飯を食べる。
和尚はその光景を見ながら呟いた。
「二千の敵兵を倒して」
「増えたのは死体ではなく客と仲間か」
「本当に変な戦じゃ」
八郎は笑った。
「だから言ったじゃないですか」
「私は飯屋です」
誰も、もう信じてはいなかった。




