1533年5月。戦の前の作戦会議。館におびき寄せ広場で3方向から矢を連続斉射。隠れている櫓の人に油撒いてもらい燃やす。
館の評定が終わる直前。
八郎は商人衆へ向き直った。
「すいません」
「急ぎでお願いがあります」
商人頭が頷く。
「何でも言ってくだされ」
「まず武具です」
「防具は後回しでいいです」
「槍」
「弓」
「矢」
「買えるだけ買います」
周囲の武士が驚く。
「防具はいらんのですか?」
八郎は首を振る。
「今から揃いません」
「それより人数分の武器です」
「戦うというより、守るためです」
商人頭が確認する。
「支払いは?」
「後になります」
「証文でお願いします」
一瞬静かになる。
そして商人たちは笑った。
「八郎様の証文なら銭と同じですわ」
「分かりました」
「集めます」
「あともう一つ」
「大量の油が欲しいです」
「油?」
「はい」
「使い道は……まあ」
「察してください」
和尚が横で笑う。
「三歳児の顔じゃないのう」
「やめてください」
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次に武士たちを見る。
「南か北か」
「どちらが先か分かりません」
「ただ」
「薩摩の国人衆の方が先でしょう」
「近いですから」
一人が聞く。
「肥後は?」
「来ます」
「話を聞いたら」
「遅れてでも来ると思います」
「なので」
「南北両方準備します」
「境には兵を置きます」
「二百ほど」
「その後ろに領民」
「八百ほど」
ざわめく。
「千!?」
「戦わせません」
八郎は即答する。
「立ってもらうだけです」
「数を見せるだけ」
「相手に」
『この土地全部が敵』
「と思わせます」
◇
話がまとまり、人々が動き始める。
帰ろうとしたところで八郎が声を出した。
「あ、待ってください」
皆振り向く。
「土嚢を積む人」
「柵を作る人」
「後で名前言いに来てください」
「……?」
「給金払います」
「または証文を減らします」
一瞬。
沈黙。
そして大爆笑。
「八郎様!」
「戦の前ですぞ!」
「普通は領民総出で働くところです!」
八郎は不思議そうな顔。
「でも」
「ただ働き嫌でしょう?」
皆、顔を見合わせる。
「……嫌じゃ」
「嫌じゃな」
「そりゃ嫌じゃ」
笑い声が広がる。
和尚が腹を抱える。
「敵が来る準備をしながら」
「人件費を心配する三歳児か」
「いやいや」
「大事です」
「勝った後も生活ありますから」
そこから領内は一気に動いた。
大工は木材を運ぶ。
農民は土を運ぶ。
商人は荷を走らせる。
武士は配置を考える。
今まで領主の命令で嫌々動いていた人々が。
今回は自分から動いていた。
館前。
広場。
そこは少しずつ姿を変えた。
正面だけを見ると、相変わらず壊れた門。
弱そうな館。
だが近づけば違う。
動きを止める障害。
左右から見渡せる場所。
逃げ道。
全て計算されていた。
下級武士たちは領民へ弓を教える。
「力任せに引くな」
「狙いすぎるな」
「合図を聞け」
「一人で撃つな」
農民が笑う。
「わしらが弓なんてな」
「猪撃ちと思えばよい」
「なるほど」
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八郎はその様子を見る。
「よかったです」
「何がじゃ?」
父が聞く。
「皆、笑ってます」
「戦の準備なのに」
「前の殿様なら」
「泣きながらやってたと思います」
父は黙った。
数日後。
物見が走ってきた。
「来ました!」
全員の顔が変わる。
「どちらですか?」
「南です!」
「薩摩南側の国人衆!」
「数、およそ千!」
広間が静まる。
武士代表が八郎を見る。
「読み通りですな」
八郎はため息をつく。
「当たってほしくなかったです」
「外れてほしかったです」
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和尚が笑う。
「さて」
「三歳児」
「どうする?」
八郎は立ち上がる。
「予定通りです」
「田畑には手を出させません」
「民も死なせません」
「できれば」
「相手も死なせません」
「勝った後」
「働いてもらいますから」
その言葉に。
周囲はまた呆れた。
三郎兄が小さく言う。
「普通、敵が千来たら怖がるやろ」
「なんで雇う話になるんや」
和尚は笑う。
「だから勝てるんじゃ」
「八郎は」
「敵の兵ではなく」
「未来の領民を見ておる」
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そして南から。
千の軍勢が迫っていた。




