表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
170/694

1533年5月。領主が館を出たので八郎家族が館に入る。全員館に呼び挨拶と借金の証文整理を始める

翌朝。

 寺の奥。

 前日の出来事を聞いた和尚は、腹を抱えて笑っていた。

「はっはっは!」

「いやぁ、面白いことになってきたのう」

 八郎は嫌そうな顔をする。

「和尚様」

「全然面白くないです」

「何を言う」

「領主は出て行き」

「庄屋衆は全部こちら」

「商人もこちら」

「武士もこちら」

「いよいよ天下取りの道が――」

「やめてください」

 即答だった。

 周りが笑う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「私は三歳ですよ」

「天下とか言われても困ります」

「今考えてることは何じゃ?」

 和尚が聞く。

 八郎は少し考える。

「引っ越しですね」

「……は?」

「館、空きましたよね?」

「ありますね?」

「だったら家族みんなで移ります」

 一同が固まる。

・・・・・・・・・・・

「いや八郎」

 父が口を挟む。

「領主の館やぞ?」

「はい」

「だから広いです」

「皆で住めます」

「そういう話じゃなくてな……」

 八郎は首を傾げる。

「今の家は残しますよ?」

「一郎兄様、二郎兄様が田を見る時に泊まれるように布団置いて」

「あと見回りしてくれる方が休める場所にしたらいいと思います」

 和尚がまた笑う。

「すごいんか」

「普通なんか」

「よう分からん三歳じゃな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして。

 八郎一家は荷車で荷物を運ぶことになった。

 元領主の館。

 大きな門。

 広い庭。

 家族は思わず立ち止まる。

「……ここに住むんか」

 母が呟く。

 八郎だけは普通だった。

「まず掃除ですね」

「掃除?」

「はい」

「残っている水や食べ物は全部捨ててください」

「え?」

「毒が入っている可能性があります」

 空気が止まる。

 三郎兄が苦笑する。

「そういうところだけ妙に大人やな」

「普通です」

「普通の三歳は言わん」

「あと井戸も確認しましょう」

「念のためです」

 和尚が頷く。

「そこは正しい」

「人が出て行った館じゃ」

「用心するに越したことはない」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その後。

 皆で掃除。

 畳を上げる。

 埃を払う。

 部屋を開ける。

 八郎は指示する。

「全部使おうと思わなくていいです」

「広すぎます」

「まず家族が寝る場所だけ」

「台所」

「帳面を見る部屋」

「そこだけ整えましょう」

 父が笑う。

「領主になって最初の仕事が掃除か」

「大事です」

「汚いところで飯食べたくないです」

 母が吹き出した。

「そこは三歳なんやな」

 ただ。

 壊された門を見ると、八郎の表情は変わった。

「これは直しましょう」

「戦のためか?」

「それもあります」

「でも」

「壊れた入口から人が入る場所は嫌です」

「ここは皆が相談に来る場所になります」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 数日後。

 八郎は言った。

「さて」

「集まってもらいましょう」

「誰を?」

「全員です」

 領主の屋敷

 過去最大の人数が集まった。

 十の庄屋衆。

 商人衆。

 職人。

 大工。

 武士代表。

 寺の者。

 全員。

 和尚はその光景を見て笑った。

「もう完全に評定じゃな」

「違います」

 八郎は即答。

「相談会です」

「同じじゃ」

 八郎は前に出る。

「まず」

「皆様ありがとうございます」

「ですが」

「一つ言わせてください」

 全員が静かになる。

「私は魔法使いではありません」

「借金を消すと言っても」

「銭をばら撒いてるわけではありません」

「仕事を作って」

「物を買って」

「回しているだけです」

「なので」

「まず全部確認します」

「十の庄屋衆」

「証文」

「土地」

「人」

「全部帳面にしてください」

「商人様」

「利息」

「期限」

「危ないもの」

「分けてください」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 次に職人を見る。

「大工さん」

「仕事増えます」

「水車」

「道」

「橋」

「市場」

「館の修理」

 大工たちの顔が明るくなる。

 武士を見る。

「武士の皆様」

「戦だけでは困ります」

「市の見回り」

「道の安全」

「弓の訓練」

「獣退治」

「情報集め」

「お願いします」

 武士代表は頭を下げる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「飯屋も増やします」

「市も増やします」

「仕入れも増えます」

「だから証文も消せます」

 商人たちが頷く。

 そこで父が聞いた。

「八郎」

「結局何を作りたいんや?」

 八郎は少し考えた。

「……」

「みんなが」

「借金で首を吊らなくていい場所です」

 誰も笑わなかった。

 和尚だけが小さく呟いた。

「本人は飯屋のつもり」

「周りから見れば国造り」

「困った三歳じゃ」

 八郎はため息をつく。

「だから」

「そういう大きい話にしないでください」

「まず今日の晩飯です」

 その言葉で。

 皆、大笑いした。

 こうして八郎の新しい領地経営が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
皆「魔法使いってなんじゃろ」 小競り合いしてた敵側は何してるんだろうか。 絶好のチャンスだと思うんだけど。
あれ? 領主出て行ってないですよね? 武士が離反したのと、使いに出たので全員いなくなったというところまでだったのでは。
かわいそうなお殿様はどちらへ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ