1532年11月。八郎、水車の力を使い農作業の作業改善を考える。杵を動かし精米できないか?
飯の話が一段落した後だった。
父上は俺を見る。
「他にはあるのか、八郎」
「あります」
俺が即答すると、兄たちが笑った。
「まだあるんか」
「八郎の頭の中どうなってんねん」
俺は少し困りながら続けた。
「次は農作業の話です」
「農?」
父上の顔が少し変わった。
商いなら、この二度で結果を出した。
でも農は違う。
父上たちが毎日やっていること。
俺よりはるかに詳しい。
「これは父上の方が詳しいと思います」
「ほう」
「だから間違っているかもしれません」
そう前置きした。
「でも、考えていることがあります」
「言ってみい」
「水車です」
俺が言うと、父上が首を傾げた。
「水車?」
「はい」
「村に一つありますよね」
「あるな」
川の流れを受けて回る大きな車。
水が流れる限り、ずっと動いている。
俺には、それがもったいなく見えていた。
「あれ、ずっと回っていますよね」
「そうじゃな」
「雨で川が荒れない限り、朝でも昼でも」
「まあな」
「その力、使えないかなと思っています」
父上が黙った。
「水車は水を使うものじゃろ?」
「はい」
「それ以外に何をする」
「回る力を使います」
「回る力?」
「はい」
俺は手で輪を作った。
「この真ん中」
「軸のところです」
「そこはずっと回っています」
父上が頷く。
「そうじゃな」
「その回る力を、別の動きに変えられないかなと思っています」
「別の動き?」
「はい」
「例えば……」
俺は少し考えた。
言葉が難しい。
歯車。
カム。
機械。
そんな言葉を使っても伝わらない。
「木の櫛みたいなものを噛ませるんです」
「櫛?」
「はい」
「歯と歯を合わせるように」
手で動きを作る。
「片方が回れば」
「もう片方も動きます」
「それで?」
「上下に動かせないかなと」
父上の眉が動いた。
「上下?」
「はい」
「杵です」
「杵?」
「米をつく杵です」
父上の顔つきが変わった。
「まさか」
「はい」
「水車の力で、杵を動かせないかなと思っています」
部屋が静かになる。
兄たちも黙った。
「八郎」
「はい」
「それは、人が米をつかなくていいということか?」
「全部ではありません」
俺は首を振った。
「見る人は必要です」
「米を入れる人」
「終わったら取り出す人」
「調整する人」
「でも」
一番大変なところ。
「ずっと叩くところは、水に任せられるかもしれません」
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父上は腕を組んだ。
「米をつくのは大変じゃぞ」
「はい」
「一刻、二刻とかかる」
「はい」
「人を変えながらな」
「だからです」
俺は言った。
「その時間がもったいないと思うんです」
兄たちを見る。
「兄様たちが米をついている間」
「畑仕事はできません」
「魚も取れません」
「商いの準備もできません」
力仕事は必要。
でも。
「水が代わりにしてくれるなら、その時間で別のことができます」
三郎兄様が呟いた。
「水に仕事をさせる……」
変な言葉だと思う。
でも、その通りだった。
「あと、石臼もです」
「石臼?」
「はい」
「粉を作るものです」
米。
麦。
雑穀。
回すのは大変。
「でも回る力なら、水車が一番得意です」
水車は回っている。
石臼も回す。
なら繋げればいい。
「できるかは分かりません」
俺は正直に言った。
「職人さんに聞かないと」
「なぜ職人じゃ」
「私が言っても無理です」
みんなを見る。
「私は二歳です」
父上が笑った。
「そこは分かっているんじゃな」
「はい」
「だから、小さい模型みたいなものを作りたいです」
「模型?」
「はい」
「木で小さい水車を作って」
「歯を噛ませて」
「小さい杵が動くところを見せる」
見れば分かる。
言葉より強い。
「それなら職人さんも考えてくれるかもしれません」
父上はしばらく何も言わなかった。
そして。
「八郎」
「はい」
「お前はどこを見ている」
「え?」
「普通、銭が足らなければ稼ぐことを考える」
「はい」
「お前は稼いだ」
「はい」
「次は飯を増やすと言った」
「はい」
「そして今度は、人の仕事を減らすと言う」
父上は首を振った。
「二歳半の考えることではない」
また言われた。
「でも」
俺は言う。
「楽になると思うんです」
「何がじゃ」
「みんなです」
米をつく時間が減る。
粉を作る時間が減る。
その分、別のことができる。
「人の力だけで全部やる必要はないと思います」
父上は小さく笑った。
「水の力を借りる、か」
「はい」
「面白い」
そう言った。
「職人に聞いてみる価値はある」
兄たちが驚く。
「父上、本気ですか」
「本気じゃ」
父上は俺を見る。
「この二度、八郎は形にした」
「……」
「なら三度目も見てみたい」
こうして、八郎の考えは飯から農へ。
銭を増やすだけではなく、人の苦労を減らす方向へ進み始めた。




