1532年11月。八郎が炒め飯を作る提案をする。卵とごま油を加え、混ぜ飯を入れてかき回す。竹の飯を救うへらも必要。
「まず、飯の商いです」
家族全員が俺を見る。
二度の市で分かった。
売れる。
銭になる。
でも、それだけでは足りない。
「半月に一度ではなく、週に一度やりたいです」
その言葉に兄たちの顔が明るくなる。
「週一か!」
「ならもっと稼げるな!」
だが俺は首を振った。
「問題があります」
「問題?」
「母上です」
全員が母上を見る。
母上本人も驚いた顔をした。
「私?」
「はい」
今回、一番大変だったのは母上だ。
混ぜ飯。
魚の処理。
つみれの味付け。
汁の調整。
売る前から仕事は始まっていた。
「母上が倒れたら終わります」
父上が頷いた。
「確かにな」
「だから人を増やしたいです」
「人を?」
「はい」
俺は続ける。
「流れてきた人でもいいです」
「働き先のない女の人」
「旦那様を亡くした人」
「料理のできる男の人」
「一人か二人、雇いたいです」
三郎兄様が聞く。
「知らない人を入れるのか?」
「はい」
「大丈夫なんか」
「分かりません」
正直に答えた。
人を見るのは難しい。
前世でもそうだった。
「でも、最初から何でもできる人はいません」
「じゃあ何を見る?」
父上が聞いた。
「裏切らないことです」
「……」
「失敗はいいです」
失敗なら教えればいい。
慣れれば減る。
でも。
「嘘をつく人、裏切る人は難しいです」
家族なら信用できる。
だが、外から人を入れるなら違う。
「料理の腕より、まずそこを見たいです」
父上は少し驚いた顔をした。
「二歳半が人を見る話をするか」
兄たちは笑った。
「理想は」
俺は母上を見る。
「母上の味を覚えてくれる人です」
「私の?」
「はい」
「つみれ汁の味付け」
「味噌の量」
「塩加減」
「それをできる人がもう一人いれば、母上が楽になります」
母上は少し笑った。
「八郎は優しいね」
「倒れられたら困ります」
「あら、心配じゃなくて困るの?」
「両方です」
そう答えると、みんな笑った。
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「それと、もう一つ試したい飯があります」
父上が興味深そうに聞く。
「また何かあるのか」
「はい」
「何がいる」
「卵です」
「卵?」
「それと油」
「油か」
「胡麻油か菜種油が欲しいです」
油は高い。
簡単には使えない。
でも少量なら価値を生む。
「あと鉄鍋をもう一つ借りたいです」
「何を作る」
俺は頭の中で思い浮かべる。
前世では当たり前だった飯。
「炒める飯です」
「炒める?」
「はい」
「まず卵を二つほど割ります」
家族全員が聞いている。
「それを混ぜます」
「鉄鍋に油を敷きます」
「卵を入れます」
「少し固まる前に混ぜます」
俺は手を動かす。
「ぐちゃぐちゃになってきたところで」
「飯を入れます」
「飯?」
「はい」
「混ぜ飯を入れます」
父上が首を傾げる。
「飯を焼くのか?」
「はい」
「うまいのか?」
「たぶん」
まだ作っていない。
でも分かる。
油。
卵。
米。
合わないはずがない。
「油を吸って、香りがつきます」
「卵でうまみも出ます」
「漬物の塩気もあります」
母上が考える。
「確かに……悪くないかもしれないね」
「いくらで売るつもりじゃ」
父上が聞く。
「二十文です」
「高いな」
「はい」
「でも目の前で作ります」
「ほう」
「温かいです」
「油も卵も使っています」
ただの飯ではない。
特別感を売る。
「ただ問題があります」
「何じゃ」
「箸では食べにくいです」
ぽろぽろする。
「だから竹で作った、すくうものが欲しいです」
「すくうもの?」
「はい」
「私みたいな子供でも食べられるような、小さい竹べらです」
父上が笑った。
「自分が子供だという自覚はあるんじゃな」
「あります」
「たまに忘れそうになる」
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「なぜそれを選んだ」
父上が聞いた。
「作りやすいからです」
「作りやすい?」
「はい」
「混ぜ飯を多めに作っておけばできます」
売れなければ普通に売る。
余れば家で食べる。
無駄が少ない。
「本当は団子も考えました」
「団子?」
「はい」
「でも今はこれが一番銭になりやすいと思います」
父上は腕を組む。
「なるほどな」
三郎兄様が聞いた。
「その炒め飯、俺らでも作れるんか?」
「多分できます」
「本当か?」
「はい」
俺は説明する。
「油を敷く」
「卵を入れる」
「固まりきる前に飯を入れる」
「あとは崩しながら混ぜる」
「ガチャガチャと?」
「はい」
兄たちは顔を見合わせる。
「それならできそうやな」
「最初は母上に試してもらいます」
俺は言った。
「味を見てもらって」
「形ができたら、兄様方や父上でも作れると思います」
「わしもか?」
父上が驚く。
「はい」
「料理などあまりせんぞ」
「だからいいんです」
「?」
「父上でも作れたら、誰でも作れます」
一瞬静かになる。
そして兄たちが笑った。
「八郎、父上にひどいぞ!」
「本当のことです」
父上も苦笑した。
◇
「しかし」
父上は銭を見る。
「この八百二十文で分かった」
「はい」
「飯は売れる」
「はい」
「でも母上だけでは続かない」
「そうです」
「だから人を育てる」
俺は頷いた。
父上は笑った。
「お前、飯を作ってるんじゃなくて、家を作ってるみたいじゃな」
その言葉に少し考える。
確かにそうかもしれない。
俺が欲しいのは料理だけじゃない。
続く仕組み。
働ける場所。
食える場所。
「まずは次の会です」
「うむ」
「炒め飯、試しましょう」
こうして、八郎の三つ目の商品作りが始まった。




