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165/694

1533年5月。庄屋衆の集まりの終盤。2回目の市。警備に侍の姿もあるwww

庄屋衆の会も終わりに近づいた頃。

 帳面が片付き、証文の束が整理される。

 以前なら借金の証だった紙束。

 今は、消えていく希望の証になっていた。

 八郎は全員を見回す。

「最後にお願いがあります」

 ざわついていた寺が静かになる。

「おそらくですが」

「この流れなら」

「来週以降」

「あと一つ、二つ」

「別の庄屋衆が来る可能性があります」

 誰も否定しなかった。

 むしろ皆、そう思っていた。

 借金が消える。

 仕事が増える。

 市ができる。

 そんな話が広まらないわけがない。

「ただ」

「お願いです」

「全員で来ないでください」

 笑いが起きる。

「八郎様」

「もう遅いでしょう」

「十分目をつけられておりますぞ」

 八郎は苦笑した。

「それはそうなんですけど」

「これ以上刺激しないでください」

「また槍持って来られても困ります」

 武士たちが気まずそうに目を逸らした。

「なので」

「来るなら」

「証文を整理してから」

「代表者だけ」

「誰が」

「誰から」

「いくら」

「利息はいくら」

「そこまでまとめてください」

「そこから考えます」

 新しく加わった庄屋衆は頷く。

「確かに」

「最初から整理していた方が早いですな」

 次に八郎は武士を見る。

「侍様方もお願いします」

「人数は少なめで」

「はい」

「あと……」

 八郎は少し考える。

「今、皆様の気持ちは半々だと思っています」

「半々?」

「はい」

「殿様への恩」

「でも生活の苦しさ」

「両方あるでしょう」

 武士たちは黙った。

 図星だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「だから」

「急にこちらへ来いとは言いません」

「まず仕事です」

 八郎は袋を出した。

「これは?」

「一万文あります」

 寺がざわつく。

「一万!?」

「これは証文消しではありません」

「仕事代です」

「市の見回り」

「道の安全」

「鳥獣退治」

「人の整理」

「それを皆様で分けてください」

 武士の代表が驚く。

「八郎様が決めるのでは?」

「決めません」

「そちらで決めてください」

「誰が働いたか」

「誰が助けたか」

「それは仲間同士が一番分かるはずです」

「ただし」

 一瞬、声が強くなる。

「揉めたら終わりです」

「この話はやめます」

 武士たちは背筋を伸ばした。

「承知」

「それと」

 八郎は少し声を落とす。

「もし」

「もしですよ」

「完全に館を離れることになるなら」

「……」

「弓矢の矢」

「多めに持ってきてください」

 父と和尚が同時に見る。

「八郎」

「はい?」

「また何考えとる」

「何も」

「名目です」

「鳥獣退治です」

「猪や鹿がいますから」

 和尚が笑う。

「本音は?」

「……」

「言わせないでください」

「やっぱりあるんかい」

 場が苦笑に包まれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は話題を変える。

「ところで」

「聞きたいことがあります」

「侍様方の給料はどうなっています?」

「あと」

「殿様の懐事情です」

「正直、分からなくて」

 武士たちは顔を見合わせる。

「殿様自身の借金は」

「そこまで大きくありません」

「ただ……」

「ただ?」

「入った銭はほとんど出ます」

「戦支度」

「武具」

「米」

「周りの有力者との付き合い」

「贈り物」

「宴」

「そういうものです」

 八郎は頷く。

「なるほど」

「給金は?」

「遅れることもあります」

「その時は……」

「商人から借りる?」

「はい」

「個々で」

 八郎はため息をついた。

「なるほど」

「だから殿様の証文を商人さんが押さえる、という形も難しいんですね」

 商人が頷く。

「そうです」

「家臣それぞれなのです」

「それはそれで」

「お気の毒です」

 八郎が呟いた。

 敵対しかけている相手に対して出た言葉。

 周りは少し驚いた。

「では」

「まずこの一万文」

「仕事を作る意思表示です」

「私の手持ちから出します」

「ちゃんと働いて」

「ちゃんと食べて」

「ちゃんと返す」

「それだけです」

 武士たちは深く頭を下げた。

 会は終わった。

 人々は帰っていく。

 和尚が残った八郎に言う。

「お前」

「武士まで抱えたぞ」

「違います」

「仕事をお願いしただけです」

「そういうことにしておこう」

 そして数日後。

 二回目の市の日。

 そこには自然な顔で見回る武士の姿があった。

 客は安心し。

 商人は喜び。

 民は笑う。

 だが同時に。

 八郎の作った仕組みは、もう領主の力と並び始めていた。

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― 新着の感想 ―
この時代の武士って給料制なの? 与えられた知行地から上る利益で賄ってるのかと思ってた。
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