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1533年4月。庄屋衆に侍が混じり盛り上がるところ領主直属の50名が乗り込んでくる。が、証文消していると言い張る参加者。あんたらが何とかしてくれるんか?

寺の境内は、今までにない空気になっていた。

 庄屋衆。

 商人衆。

 そして、ついに武士たち。

 刀を持つ者たちが、帳面を前に座っている。

「まさか武士様まで来るとはな」

 商人が笑う。

 武士の一人は苦笑した。

「笑うな」

「我らとて楽ではない」

「戦になれば鎧を直し」

「槍を整え」

「家の面倒も見る」

「銭など残らん」

 八郎は頷く。

「だから確認です」

「証文をまとめてください」

「誰から」

「いくら」

「利息はいくら」

「そこを見ないと何もできません」

「……」

 武士たちは顔を見合わせる。

「本当に三歳か」

 そんな時だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 外が騒がしくなる。

「なんじゃ!」

「集まって何をしておる!」

 次の瞬間。

 境内に武装した兵が入ってきた。

 およそ五十人。

 殿様直属の兵だった。

 槍を持ち、険しい顔。

「貴様ら!」

「夜な夜な集まって!」

「何を企んでいる!」

「謀反か!」

 一気に空気が張り詰める。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎の父が前に出る。

「お待ちくだされ」

「違います」

「何が違う!」

「庄屋!」

「商人!」

「武士!」

「これだけ集めて何をするつもりだ!」

 槍先が向く。

 だが――。

 周りから声が上がった。

「違うわ!」

「証文じゃ!」

「借金返してるんじゃ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「借金?」

 兵が眉を寄せる。

 商人が帳面を掲げた。

「見ろ!」

「誰が誰に借りて」

「どう返すか」

「それを決めてるだけじゃ!」

「八郎様が買い取ってくださってるんじゃ!」

「謀反なんぞ考える暇あるか!」

 別の庄屋も叫ぶ。

「そうじゃ!」

「ようやく田畑を手放さんで済むようになったんじゃ!」

 兵の一人が怒鳴る。

「そんなもの!」

「勝手に集まるから疑われる!」

 すると老人の庄屋が立ち上がった。

「なら聞く」

「あんたらが返してくれるんか?」

「……」

「わしらの証文」

「利息」

「払ってくれるんか?」

 兵たちは黙る。

「殿様は守ってくださる」

「それは分かっとる」

「でもな」

「腹が減るんじゃ」

「借金は増えるんじゃ」

「子供を売る話まで出るんじゃ」

「それを」

「この三歳の子が止めてくれとるんじゃ」

 誰も笑わなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 さらに別の商人が言う。

「それに」

「そちらのお侍様方」

「借金ありませんか?」

 兵たちの表情が揺れる。

「……」

「何を」

「武士がそんな」

「本当に?」

 商人は笑った。

「鎧代」

「米代」

「刀の修理」

「祝い事」

「ありますでしょう」

 数人が目をそらした。

 先に来ていた武士が言った。

「我らも同じじゃ」

「だから来た」

「恥ではない」

「八郎様はただ銭を渡すのではない」

「仕事をくださる」

「市を守る」

「人を守る」

「その代わりに証文を消す」

 兵の中で数人が動揺する。

「……本当に?」

「俺らでも?」

 隊長格が怒鳴る。

「迷うな!」

「お前ら!」

 慌てて姿勢を戻す。

 だが迷いは見えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日は引く」

 隊長が言った。

「だが」

「あまり大勢で集まるな」

「疑われるぞ」

 そう吐き捨てるように言い、兵たちは帰っていく。

 ……はずだった。

 一人だけ残った。

 若い武士だった。

「……」

「なんですか?」

 八郎が尋ねる。

 男は小声で言った。

「あの」

「俺らも」

「こっそり入れてもらえんか」

 全員が固まった。

「いやいや」

 八郎が慌てる。

「こっそりは駄目です」

「揉めます」

「じゃあ……」

「どうしたら」

「まず」

「そちらで話をまとめてください」

「誰が困っているか」

「どれだけ証文があるか」

「仕事をする気があるか」

「それをまとめて」

「後日来てください」

 武士は深く頭を下げた。

「分かった」

「必ず来る」

 完全に人が帰った後。

 寺には重い空気が残った。

 和尚がぽつりと言う。

「……いよいよじゃな」

 父も頷いた。

「ああ」

「火種が増えてきた」

 八郎はため息をつく。

「だから言ったじゃないですか」

「怖いって」

 商人。

 百姓。

 庄屋。

 そして武士。

 救えば救うほど味方は増える。

 だが同時に。

 殿様の孤立も進む。

「僕は」

「借金を消してるだけなんですけどね」

 和尚は笑った。

「八郎」

「それを政と言うんじゃ」

「……」

「三歳児に何させてるんですか」

 誰も答えられなかった。

 ただ一つ分かること。

 もう流れは、誰にも止められなくなっていた。

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― 新着の感想 ―
殿様が八郎親子を家臣に取り立てて領の仕事にしてしまえばこれ殿様の手柄になるのでは?名君の名をほしいままにできそう。
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