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1533年4月。6度目の市の終わり~7度目の市の前。3つ目の庄屋衆も合流。順繰り順繰り借金の証文を消す。

六度目の市が終わった。

 甘味処は相変わらず好調。

 三つ目の市も形になり始めた。

 八郎としては、ようやく少し落ち着くと思っていた。

 ……が。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 七度目の市の前。

 いつもの庄屋衆の集まりの日。

 和尚の寺へ向かった八郎は、入口で足を止めた。

「……」

「父上」

「なんや」

「なんで人がこんなにいるんですか?」

 寺の境内には人。

 人。

 人。

 いつもの商人衆。

 自分の庄屋衆。

 隣の庄屋衆。

 それだけではない。

 見知らぬ顔が大量にいる。

「……嫌な予感しかしません」

 父は苦笑した。

「最近、お前の嫌な予感当たりすぎや」

 和尚が笑顔で迎えた。

「八郎」

「はい」

「増えたぞ」

「何がですか」

「庄屋衆じゃ」

「……」

 八郎は黙った。

「隣の隣の庄屋衆が」

「八郎の下に入りたいそうじゃ」

「……えー」

 思わず三歳児らしい声が出た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 代表者が頭を下げる。

「八郎様」

「殿様の許しはいただいております」

「我らもお願いします」

 八郎は額を押さえる。

「いや……」

「予想はしていましたよ」

「あと一月以内に一組ぐらい来るかなとは思ってました」

「でも早いです」

 周りが笑う。

 だが代表者は真剣だった。

「申し訳ございません」

「ですが」

「もう待てません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 話を聞くと、空気が変わった。

 殿様とのやり取り。

 刀に手をかけられたこと。

 税を下げる気配がないこと。

 証文をどうにもできないこと。

「……」

 八郎は黙って聞いた。

「その話を」

「他の庄屋衆にも?」

「しました」

「……」

「皆、同じことを思っております」

「八郎様のところには希望があると」

 八郎はため息をついた。

「それ、かなりまずいですね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「先に言いますけど」

「僕、何でもできるわけじゃないですよ」

「今週だって」

「一つ目と二つ目で四万五千文」

「三つ目の市が始まって五千文ぐらい」

「合計五万文ほどです」

 その瞬間。

 ざわっ。

 境内が揺れた。

「五万文……?」

「一週間で?」

「……」

「八郎様!」

「いやいやいや!」

 八郎が慌てる。

「喜ぶところじゃないです!」

「ここでもう一つ庄屋衆が増えたら」

「全部一気には無理ですよ!」

「順番です!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そんなこと言わないでくだされ」

「お願いします」

「希望が見えただけでも違います」

 八郎は困った顔になる。

「分かりました」

「でも」

「絶対に順番は守ってください」

 空気が静まる。

「まず」

「借金を全部まとめてください」

「誰が」

「誰から」

「いくら借りているのか」

「証文を全部確認します」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ここを飛ばしたら駄目です」

「利息が高いもの」

「生活が苦しいもの」

「返済できそうなもの」

「優先順位を決めます」

「商人さんにも来てもらいます」

「利息交渉もします」

「だから」

「今回は整理」

「次回確認」

「実際に動かすのは五月からです」

 新しい庄屋衆は深々と頭を下げた。

「それだけ聞けただけでもありがたいです」

「本当に……」

「ありがとうございます」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 だが商人の一人が苦笑する。

「八郎様」

「なんです?」

「たぶん」

「もう一つ二つ来ますよ」

「……」

「いやいや」

「そんな簡単に」

 すると新しい庄屋衆が言った。

「来ます」

 即答だった。

「え?」

「もう皆言っています」

「あの領主様では無理だ、と」

 八郎の顔が固まる。

「ええ……」

「どうしましょう」

 父を見る。

 和尚を見る。

 二人とも苦笑している。

「いや」

「作った本人が困るな」

「困りますよ!」

「三歳児ですよ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 和尚が笑った。

「まあ、それは後じゃ」

「今できることをするしかない」

 八郎も頷く。

「そうですね」

「まずは」

「証文を消しましょう」

 そして本日の処理。

 八郎側。

 残り五万四千文。

 今回二万五千文処理。

「残り」

「二万九千文です」

 瞬間。

 歓声。

「あと少しじゃ!」

「本当に消えるぞ!」

 次に隣の庄屋衆。

「十六万文ありました」

「今回二万五千文消します」

「残り」

「十三万五千文」

 一瞬静かになり。

 次の瞬間。

 大歓声だった。

「減った!」

「本当に減った!」

「利息じゃない!」

「元が減った!」

 ある者は泣いていた。

 八郎だけが困った顔だった。

「……皆さん」

「盛り上がってるところ悪いですけど」

「まだ終わってませんからね」

「これからですよ」

 父が笑う。

「三歳児が一番冷静やな」

 和尚も笑った。

「周りが夢を見るからこそ」

「八郎が怖がる」

「ちょうど良いのかもしれんな」

 だが。

 この日。

 誰もが理解した。

 もうこれは一つの家の商売ではない。

 領地そのものの流れが、変わり始めていた。

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