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1533年3月。6度目の市の翌日の庄屋衆の集まり。八郎が借金肩代わりして仕入れを現物で受け取るという画期的方法を編み出す。

和尚の寺には、また人が集まっていた。

「最近ここ、寺なのか寄合所なのかわからんな」

和尚が笑う。

集まっているのは、いつもの庄屋衆だけではない。

証文を持つ商人たち。

さらに隣の庄屋衆の者まで、後ろの方で様子を見ていた。

「八郎、今日はなんや」

「また甘い団子みたいな話か?」

誰かが冗談を言う。

八郎は首を振った。

「今日は銭の流れの話です」

その言葉で空気が変わる。

「まず、何度も集まっていただいて申し訳ありません」

三歳児が頭を下げる姿に、大人たちは苦笑する。

「もう慣れたわ」

「八郎が呼ぶ時は何か動く時や」

そう言われ、八郎は帳面を開いた。

「今、うちの飯屋ですが、一週間でどれだけ仕入れているか計算しました」

「まず市の日です」

「大きな市で二回商売させてもらっています」

「一回の仕入れがおおよそ五千文」

「二回なので一万文です」

商人たちはうなずく。

「まあ、それぐらい米も魚も卵も動いとるな」

「はい」

「そして残り五日」

「混ぜ飯、つみれ汁、炒め飯」

「こちらで一日二千文ほど材料を使います」

「五日で一万文」

八郎は帳面を指す。

「つまり」

「一週間で二万文」

「これだけ仕入れが発生しています」

ざわっとする。

改めて数字にすると大きい。

「そこでお願いです」

八郎は商人を見る。

「この二万文を、普通の仕入れではなく、証文との交換にしたいと思っています」

「証文?」

「はい」

「商人さんが持っている庄屋衆の借金ですね」

「それを私が買い取ります」

「そして庄屋衆の皆さんは、銭ではなく米、野菜、卵、魚などで返してください」

庄屋衆の一人が目を丸くする。

「つまり……」

「わしらの利息が止まる?」

「はい」

「元は返していただきます」

「ただ、高い利息で苦しむ必要はありません」

静まり返ったあと、一気に声が上がった。

「それは助かる!」

「利だけ払って元が減らんかったんや!」

「本当にええんか八郎!」

八郎は慌てる。

「だから全部一気ではありません」

「今、うちにそんな銭はありません」

「毎週二万文ずつです」

和尚が笑う。

「それでも十分おかしい額やけどな」

そして隣の庄屋衆が口を開いた。

「八郎殿」

「隣の市は?」

八郎はそちらを見る。

「隣の市でも、炒め飯や天ぷらで週七千文ほど仕入れがあります」

「なら……」

「できます」

期待した顔になる。

しかし八郎は首を振った。

「でも今はやりません」

「なぜや?」

「筋が違います」

「私は父上たちの庄屋衆、千五百石分の話をしています」

「隣には隣のまとめ役がおります」

「勝手に私が証文を動かすことではありません」

その言葉に和尚が満足そうに笑う。

「聞いたか」

「こういうところやぞ」

そして八郎は次に商人たちを見る。

「ただ、一つ問題があります」

「なんや?」

「商人さんです」

商人たちが顔を上げる。

「借金が全部返ったら、困りませんか?」

「……」

「今まで利息で得ていたものがなくなります」

「それでは商人さんだけ損です」

大きな商人が驚いた顔をする。

「八郎……」

「そこまで考えとったんか」

「はい」

八郎は続ける。

「だから新しい商売を考えました」

「寺と神社です」

和尚が眉を上げる。

「うちか?」

「はい」

「市まで来られない人がいます」

「遠い人、老人、小さい子がいる家」

「そういう人向けに寺や神社で小さな市を開きませんか」

「値段は通常の一・三倍」

少しざわつく。

「高くないか?」

「高いです」

八郎は認める。

「でも近くまで運びます」

「便利代です」

「そして増えた三割を分けます」

八郎は指を三本立てる。

「一割は寺や神社への寄進」

「一割はうちの家」

「一割は商人さんの利益」

商人たちが黙る。

計算している。

「つまり……」

「借金商売が終わっても」

「品を運ぶ商売が残る?」

「はい」

「布団でも鍋でも道具でも」

「欲しい人がいれば商人さんが運ぶ」

「寺や神社は寄進が入る」

「村人は遠くまで行かなくても買える」

「うちは仕入れや飯屋で使う」

和尚が大きく息を吐いた。

「八郎」

「はい」

「お前、本当に怖いやつやな」

「え?」

「借金を消すだけやない」

「借金でつながっていた縁を、商売の縁に変えようとしてる」

商人が笑った。

「和尚、その通りや」

「普通、借金返されたら終わりや」

「でも八郎は次の儲け口まで持ってきた」

別の商人もうなずく。

「乗る価値はあるな」

隣の庄屋衆は、その様子を黙って見ていた。

そして小さくつぶやく。

「これ……」

「うちでもやってほしいな」

和尚はそれを聞いてニヤリとする。

「八郎」

「はい?」

「お前が広げんでもな」

「向こうから来るぞ」

八郎は困った顔をする。

「だから順番ですって」

その言葉に、寺中が笑いに包まれた。

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