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1533年3月6度目の市。仕入れの品を庄屋衆が持ってきて礼を言う。利息消えたのデカい。甘味処は不安もあったが当たる

三月六度目の一の日。

 朝早くから、八郎の家の前には荷車が止まっていた。

「八郎様、おはようございます」

 頭を下げる庄屋衆。

 荷台には米、野菜、小豆、卵などが積まれている。

「また朝からですか」

 八郎は苦笑した。

「昨日も言いましたけど、五千文分はちゃんと帳面につけますからね」

「もちろんでございます」

 男は懐から証文を出した。

「これで、前の借りは終わりということで」

 父がそれを受け取る。

「ほんまにええんか」

「何を言うてはります」

 庄屋衆は首を振った。

「助けてもろたんは、こっちです」

「そんな大げさな」

 八郎が言うと、周りの大人たちは苦笑した。

「八郎様は分かってへん」

「何がですか」

「あの借り、五千文だけちゃうんです」

「?」

「利息です」

 男は真面目な顔になる。

「この前集まった時もそうでしたやろ」

「はい」

「高いところは五割」

「安いところでも二割五分」

「はい」

「借りた銭が減らんのです」

 父も頷いた。

「そうやな」

「今年返せへんかったら、来年もっと増える」

「それを八郎様が止めてくれた」

 男は深く頭を下げた。

「これで前を向けます」

「いや、でも」

「だから」

 笑う。

「これからも仕入れ、お願いします」

「はい」

「ちゃんと五千文分、持ってきてくださいね」

 その言葉にみんな笑った。

「そこは厳しいな」

「当たり前です」

「商売ですから」

 そして市が始まる。

 炒め飯。

 つみれ汁。

 混ぜ飯

 マグロ味噌煮

 天ぷら。

 酒。

 そこへ今日は新しい店が加わった。

「甘味処」

だった。

「坊主」

 常連が覗く。

「今度は何始めたんや」

「団子です」

「団子?」

「はい」

「ただの団子ちゃうやろ」

「小豆を炊いて、砂糖を入れました」

「砂糖!?」

 その声で周りが振り返る。

「砂糖って、あの甘いやつか?」

「はい」

「そんなもん普通食えへんぞ」

「だから小さくしました」

 八郎は団子を見せる。

「一つ八文です」

「高っ」

「今日は試しなので六文でもいいです」

「いや……砂糖入りなら安いわ」

 そう言って一人が買う。

 一口。

 沈黙。

「……」

「どうです?」

「坊主」

「はい」

「これはあかん」

「え?」

「もう一個くれ」

 周りが笑う。

「結局うまいんかい」

「甘い」

「甘いだけでこんな違うんか」

 そこから早かった。

 子供。

 女衆。

 老人。

 みんなが珍しそうに集まる。

「砂糖入りやって」

「八郎様のところや」

「一回食べてみたい」

 気づけば昼過ぎには残りわずか。

 母と手伝いの女衆三人は慌ただしく動いていた。

「八郎」

「はい母上」

「これ、足りへんわ」

「ですね」

「もう少し作ればよかったね」

「でも初回ですから」

「味もまだ調整できると思うわ」

「はい」

「もう少し小豆柔らかくしてもいいかもしれません」

「そうやね」

 二人で普通に話している姿を見て、雇われた奥様方は笑う。

「三歳児と料理相談してるのおかしいですよ」

「最近忘れるのよ」

 母が苦笑した。

 夕方。

 家族会議。

「では集計します」

 八郎が帳面を開く。

「いつもの市」

「利益千八百文ほどです」

「相変わらずすごいな」

「そこに今回、甘味処」

「どうやった?」

「砂糖代を先に払っている分を除いて……三百文ほど上乗せです」

「初日で?」

「はい」

「すごいやんけ」

「それと」

 八郎が続ける。

「この前の砂糖取引分も一部含めて約二千五百文ほどその他利益です」

 場が止まる。

「……つまり?」

「全部合わせて」

 八郎が言う。

「今日の利益、約四千九百文です」

「……」

「なんですか?」

 父がため息をつく。

「利益乗ってきたね、ちゃうぞ」

「え?」

「おかしい額や」

 一郎も笑う。

「一年前なら千文で大騒ぎやったぞ」

「そうでしたね」

「今四千九百文って言うたぞ」

 そこで三郎が聞く。

「ところで」

「はい」

「団子残ってる?」

「ないです」

「一個も?」

「ないです」

「俺食ってへんぞ」

「俺もや」

 兄たちが騒ぎ出す。

「売れちゃいました」

「作った本人らが食えへんって何やねん」

「じゃあ次は残しましょうか」

 八郎が笑う。

 しかし父が首を振る。

「無理ちゃうか」

「え?」

「次、もっと売れるぞ」

「ですね」

「噂回るからな」

 母も笑った。

「次は倍作らないとね」

「母上、無理はしないでくださいよ」

「あんたが言う?」

 全員が笑う。

 飯。

 湯浴み。

 酒。

 そして甘味。

 八郎の一は、ただ物を売る場所ではなくなり始めていた。

 人が集まり、銭が回り、楽しみを待つ場所へ。

 小さな村の一が、少しずつ姿を変えていた。

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