1533年3月。3月6度目の市の前に会議。甘味処をつくろう。砂糖手に入ったし団子と餡子だな!
三月の次の市を前にして、八郎は家族を集めた。
「次の市なんですけど」
その一言で父も兄たちも少し身構える。
「……また何か増やす顔やな」
一郎兄が笑う。
「違いますよ。そんな毎回毎回増やしてません」
「いや増やしとるやろ」
三郎がすぐ突っ込んだ。
「飯屋、つみれ汁、炒め飯、天ぷら、湯浴み、……今度は何や」
八郎は少し照れながら言う。
「甘味処です」
「甘味?」
母が首をかしげる。
「はい。琉球から仕入れた砂糖がありますよね」
「ああ、あの高いやつか」
「そのまま売っても儲かります。でも、それだけやったら商人さんだけの仕事です」
父が笑う。
「また始まったな」
「何がですか」
「八郎が銭だけやなく、人を使う話する時の顔や」
八郎は続けた。
「小豆を炊きます」
「小豆?」
「はい。それに砂糖を合わせます。甘い餡を作ります」
「甘い豆か」
「それを団子の上に乗せます」
母が少し考える。
「それ、美味しいん?」
「多分」
「多分かいな」
みんな笑う。
「いや、作ったことないですもん。でも甘いものって貴重でしょう?」
父が頷いた。
「まあな。砂糖なんか普通食えん」
「だから最初は試しです」
「いくらで売るつもりや」
「小さい団子一つ八文」
「八文!」
兄たちが驚く。
「高ないか?」
「だから最初は六文でもいいです」
「六文でも握り飯より高いやんけ」
「はい。でも砂糖ですから」
八郎は笑う。
「珍しいものを食べる楽しみ代です」
「なるほどな」
「売れなかったら?」
「みんなで食べます」
全員が吹き出した。
「またそれか」
「失敗しても美味しいならいいじゃないですか」
「八郎らしいわ」
母が笑った。
「で、誰がやるんや?」
父が聞く。
「母上と、奥様方ですね」
「また母ちゃんか」
「違います」
八郎は首を振る。
「母上は教えるだけです」
「ほう」
「団子を丸める人」
「小豆を炊く人」
「売る人」
「三人くらい雇います」
一同が顔を見合わせた。
「また人増えとるやんけ」
「だから増やすためにやってるんです」
八郎は当然のように言う。
「甘味処って女の人でもできますよね」
「まあ力仕事ではないな」
「だったら、畑仕事が難しい人でも銭を稼げます」
父が黙った。
「……そこまで見てたんか」
「はい」
「甘い団子売りたいだけちゃうんやな」
「もちろん食べたいですけど」
母が笑う。
「そこは三歳児やね」
そこで一郎が思い出したように聞いた。
「そういや八郎」
「はい」
「あの芋はどうすんねん」
「ああ」
八郎はあっさり答える。
「兄上たちに任せます」
「軽いな」
「だって育て方知ってる人を連れてきてくれるんですよね?」
「ああ」
「なら一郎兄様と次郎兄様で試してください」
「俺らか」
「はい」
「米がまだ忙しくなる前でしょう?」
「まあ今なら動けるな」
「だったら庄屋十軒分で少しずつ試しましょう」
「全部か?」
「全部です」
父が苦笑する。
「規模がおかしい」
「でも、もし本当に年二回取れるなら」
八郎は真面目な顔になる。
「飢える人が減ります」
場が静かになる。
「米が取れない土地でも育つなら、それだけで価値があります」
「……」
「一回取れたら、みんなで焼き芋しましょう」
「焼き芋?」
「はい。焼いたら甘いらしいです」
「また甘いもんか」
「甘いものは幸せになりますから」
母が八郎の頭を撫でた。
「あんた、本当に変な子やね」
「褒めてます?」
「褒めてる」
一郎と次郎は顔を合わせる。
「ほな芋は任せとけ」
「お願いします」
「お前ばっかり店や銭考えてるからな」
「いや兄様方が米作ってくれてるからできるんですよ」
「ほんま口が上手い三歳やな」
父も笑う。
「しかし、今度は甘味処か」
「はい」
「飯食わせて、酒飲ませて、湯浴みして、今度は茶と甘味」
「……」
「八郎」
「はい」
「お前、市そのもの作っとるぞ」
「そんな大げさな」
全員が同時に言った。
「大げさちゃうわ」
八郎だけが不思議そうな顔をしていた。
「とりあえず、まずは団子です」
「ほんま目の前からやな」
「はい」
「失敗したら?」
「みんなで食べます」
その答えに家族全員が笑った。
こうして次の市。
薩摩の小さな市に、初めて砂糖を使った甘味処が並ぶことになった。




