1533年3月。和尚様に頼み庄屋衆とかしている商人を集め借り換え会議。利の高いところに5000文返す。
寺の広間。
庄屋衆、貸し手の商人たち、和尚、父。
全員の前に帳面が並べられた。
八郎は一つずつ確認していく。
「……なるほど」
筆を置いた。
「だいたい見えました」
和尚が聞く。
「どうや」
「大きい商屋さんは、数万文貸していただいていて、利がおおよそ三割」
「まあ、そんなもんやな」
「はい」
「小さいところは?」
「五割があります」
部屋が静かになる。
小さな商人が少し気まずそうに言った。
「いや……こっちも危ない橋渡っとるんや」
「分かります」
八郎はすぐ頷いた。
「返ってこない可能性がありますから」
「そうや」
「だから利を取るのは当然です」
その言葉に商人たちは少し驚く。
責められると思っていたからだ。
「ただ」
八郎は続けた。
「このままでは返せません」
「……」
「利だけ払い続けて、元が減らない」
「……」
「それは貸している側にも良くないと思っています」
和尚は黙って聞く。
「そこでお願いです」
八郎は頭を下げた。
「この商家衆十六万文分」
「……」
「利を下げていただけませんか」
ざわついた。
「おいおい」
「簡単に言うな」
「こっちも商いやぞ」
八郎は顔を上げる。
「もちろんです」
「……」
「ですので、無理なら仕方ありません」
銭袋を前に置く。
ジャラ、と音がした。
「今、二万文あります」
空気が変わった。
「二万……?」
「はい」
「三歳児が?」
「はい」
八郎は続ける。
「利を下げられないところは、この二万文で返せるだけ返します」
「……」
「そして証文を返してください」
小さな商人が顔をしかめる。
「なんや」
「?」
「三歳児が脅しか?」
八郎は首を振った。
「違います」
「何が違う」
「今後のお付き合いを考えるということです」
「同じやないか」
「違います」
八郎は静かに言った。
「私は、皆さんを敵だと思っていません」
「……」
「でも、これから銭を回す相手を選ばないといけません」
商人たちは黙る。
「今、私は庄屋衆の借りを肩代わりして」
「うん」
「返済は米、野菜、魚、油などの仕入れで受けようと思っています」
「……」
「つまり」
八郎は帳面を指す。
「うちの飯屋からすると、仕入れ銭が減ります」
「……」
「その分、利益は増えます」
和尚が小さく笑った。
「なるほどな」
「はい」
「借金返済を仕入れに変えるわけか」
「そうです」
「銭を払わず、借りを消す」
「はい」
大きな商人の一人が腕を組んだ。
「……よう考えとる」
しかし、小さい貸し手の一人は納得しない。
「うちは無理や」
「分かりました」
「五割でも危ないと思っとる」
「では、おいくらでしたか」
「五千文や」
八郎は銭袋から出した。
「では五千文」
「……は?」
「今日お返しします」
部屋が止まった。
「証文をお願いします」
「……」
「これで貸し借りなしでお願いします」
商人は顔を赤くした。
「そんなことしたら次困っても貸さんぞ」
「はい」
八郎は頭を下げる。
「その時はまたお願いするかもしれません」
「……」
「ただ今日は、これで終わりにしてください」
商人は証文を置き、銭を持って出ていった。
場が重くなる。
だが。
残った商人たちの顔は違った。
「……うちは」
一人が口を開いた。
「五割やったけど」
「はい」
「四割ならどうや」
別の者も言う。
「うちは三割や」
「はい」
「二割五分までなら落とせる」
「ありがとうございます」
和尚は内心笑っていた。
(見せたな)
(返せる力を)
(ただお願いするだけなら誰も聞かん)
(だが本当に返せるとなれば話が変わる)
長い話し合いの末。
高い利のものから順に整理することになった。
八郎は最後に大きな商屋へ向いた。
「あとお願いがあります」
「まだあるんか」
商人が笑う。
「はい」
「言え」
「これからもお付き合いしたいです」
「ほう」
「例えば、この前」
「うん」
「布団を十組買いました」
「十?」
「はい」
「いくらや」
「四千五百文です」
「……三歳児の買い物じゃないな」
笑いが起こる。
「そういう大きな買い物」
「うん」
「今後、協力してくださるところを優先したいと思っています」
大商人は頷いた。
「なるほどな」
「あと」
「まだあるんか」
「あります」
「怖いな」
「交易品です」
空気が少し変わった。
「交易?」
「はい」
「何を考えとる」
「琉球です」
「……」
「珍しいもの」
「……」
「甘いもの」
「……」
「飢饉に強い作物」
商人の目が細くなる。
「坊主」
「はい」
「お前、それを売る気か」
「売ります」
「……」
「でも、それだけではありません」
八郎は言った。
「飢饉で人が死なないようにしたいです」
「……」
「そして余ったものを商いにします」
大商人は笑った。
「和尚」
「なんや」
「この子供、本当に三つか?」
「何度も疑った」
和尚は茶を飲む。
「でも三つや」
商人は八郎を見る。
「分かった」
「ありがとうございます」
「銭を貸す相手ではなく」
「?」
「商売する相手として見るわ」
その言葉に、庄屋衆はざわついた。
和尚だけは静かに笑っていた。
(借金整理のはずが)
(もう商人を味方につけ始めたか)
(殿様……)
(本当に急がんと、この村は先に八郎の村になるぞ)
寺の小さな一室で。
十六万文の負債整理は、いつしか新しい商いの始まりへ変わり始めていた。




