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1533年2月。ある日の夕飯のあと、親鳥の活用法について考える。捨て値の商品に価値をつける話

 ある日の夕飯の後。

 いつものように八郎は帳面を眺めながら、ぶつぶつ考えていた。

 父がそれを見る。

「また何か考えとる顔やな」

「そんな顔してます?」

「しとる」

 一郎兄様も笑う。

「八郎が黙って帳面見とる時は、大体誰かが忙しくなる」

「ひどいですね」

 八郎は苦笑した。

「今回はまだ思いつきです」

「聞くだけ聞いたるわ」

 父がそう言うと、八郎は口を開いた。

「最近思うんですけど」

「うん」

「銭になるものって、みんなが価値ないと思ってるものに多い気がするんです」

「また変なこと言い出したぞ」

「例えば下魚です」

「ああ」

「前まで捨ててたものですよね」

「そうやな」

「でも、つみれ汁になりました」

 皆が頷く。

 今では漁師が喜んで持ってくるほどだ。

「だから次は……」

「次は?」

「親鳥とかどうかなって」

「親鳥?」

 父が首を傾げる。

「卵産まんようになった鶏か?」

「はい」

「ありゃ硬いぞ」

「ですよね」

「若い鶏と違う」

「だから安いんですよね?」

 その一言で全員が「あ」となる。

「またそれか」

「何がです?」

「安い理由を探して、逆にそこを使うやつや」

 八郎は笑う。

「だって高いもの買って売るだけなら誰でもできます」

「まあな」

「安いものを美味しくできたら強いじゃないですか」

「……」

「で、考えたんです」

 八郎は指を折る。

「まず村々から卵を産まなくなった親鳥を買います」

「うん」

「締めるところと捌くところは……」

 少し顔をしかめる。

「僕は見ません」

 そこで笑いが起きる。

「そこ三歳児なんやな」

「怖いものは怖いです」

「銭勘定は怖ないのにか」

「それとは別です」

 母が笑った。

「それで?」

「肉にしてもらって」

「うん」

「味噌と酒でじっくり煮ます」

「味噌か」

「はい」

「あと甘いもの」

「甘いもの?」

「蜂蜜ですね」

「贅沢やな」

「少しだけです」

 八郎は続ける。

「味噌、酒、甘み」

「うん」

「それで甘辛く煮たら、大体なんとかなる気がするんです」

 父が吹き出した。

「雑やな!」

「いや、でも」

「うん?」

「肉って硬いなら煮ればいいんじゃないですか?」

「まあ……」

「臭みがあるなら酒」

「うん」

「味が弱いなら味噌」

「うん」

「硬いなら時間」

「……」

 父が腕を組む。

「乱暴やけど間違ってへん気がするな」

「でしょう?」

「そこだけ三歳児やな」

「そこだけって何ですか」

 さらに八郎は言う。

「あと野菜です」

「野菜?」

「余った野菜を一緒に入れます」

「ほう」

「野菜から味も出ると思うんです」

「なるほどな」

「売れ残りや形の悪い野菜も使える」

「またそこか」

 一郎兄様が笑った。

「捨てるもん探してるやろ」

「違います」

「いや探してる」

 八郎は少し照れる。

「でも、もしですよ?」

「うん」

「親鳥を売れるようにしたら、年寄りの鶏にも値段がつきます」

 父の顔が少し真面目になる。

「ああ……」

「そうすると」

「鶏を飼う意味が増えるな」

「はい」

「卵を産む間は卵」

「うん」

「終わったら肉」

「……」

「最後まで銭になります」

 周囲が黙る。

「八郎」

「はい?」

「お前、料理の話してるようで村の仕組み変える話してへんか?」

「そんな大げさな」

「大げさちゃうわ」

 父はため息をついた。

「で、それをどう売る?」

「まず市ですね」

「やっぱりな」

「一回、鍋を借ります」

「うん」

「朝からぐつぐつ煮ます」

「うん」

「酒飲んでる人に合うと思うんですよ」

「あー」

 三郎兄様が反応した。

「それ絶対合うわ」

「ですよね」

「濃い味の肉やろ?」

「はい」

「飯欲しくなる」

「そこで混ぜ飯です」

「出た」

「汁を少しかけて」

「うん」

「鳥を乗せて」

「かき込む」

 みんな想像する。

「……」

「……」

「腹減るな」

 父が言った。

「でしょう?」

「悔しいけどうまそうや」

「ただ」

 八郎は首を振る。

「やってみないと分かりません」

「珍しいな」

「何がです?」

「いつも勝算ありそうなのに」

「料理なんて作ってみないと分からないですよ」

 母が笑う。

「そこは正しいな」

「はい」

「味見せなあかん」

「なので母上お願いします」

「また私かいな」

「母上が一番味分かるので」

「調子ええこと言うて」

 母は笑いながらも嬉しそうだった。

 父が考える。

「でも仕入れはできるぞ」

「本当ですか?」

「ああ」

「親鳥なんか困っとる家ある」

「やっぱり」

「卵産まんようになったら、置いといても餌食うだけやからな」

「そこです」

 八郎は手を叩いた。

「買いますって言えば喜ぶ人いますよね」

「いる」

「なら試せます」

 父は呆れながら笑った。

「下魚の次は親鳥か」

「はい」

「その次は何や」

「うなぎとか穴子ですかね」

「……」

「骨が面倒なんですけど」

「まだあるんかい」

 全員が笑う。

「八郎」

「はい」

「お前、本当に何でも銭に変えるな」

「変えられたらいいな、ですよ」

「いや」

 父は首を振る。

「たぶん変える」

「そんな簡単じゃないです」

「今まで全部そう言うてきた」

 八郎は困った顔をした。

「まあ、とりあえず一羽だけ試しましょう」

「一羽が十羽になる未来しか見えん」

「気が早いですよ」

 しかし家族全員、もう知っていた。

 八郎の「試し」は、いつも村を巻き込む始まりだということを。

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