数日後、庄屋衆の集まり。前の市の利益4500文。湯あみ3つ目。隣の庄屋衆の借金20万文www
数日後、いつもの庄屋衆の集まり。
そこには父、和尚、いつもの村の庄屋衆だけではなく、隣の地域の庄屋衆も数人座っていた。
八郎はその顔ぶれを見て、少し眉を上げる。
「……またですか」
その一言に、周りが笑った。
「八郎、それはこっちの台詞や」
「いやいや、またと言わんといてくれ」
隣の庄屋衆の一人が苦笑する。
「今日はな、まずお前さんの話を聞いてから、こっちの話も聞いてほしいんや」
「分かりました」
八郎は頷く。
「では、まずこちらの状況からお話します」
周囲が静かになる。
「前回の市ですが、いつもの四店は順調でした」
「飯、酒、魚のやつやな」
「はい。そちらの利益がおよそ二千文です」
もう慣れている者は頷くが、隣の庄屋衆は目を丸くした。
「一回で二千……」
「それとは別に、三郎兄様の店があります」
「炒め飯屋か」
「はい。ただ今は炒め飯だけではありません」
八郎は指を折る。
「炒め飯屋」
「魚のつみれ汁」
「混ぜ飯屋」
「この三つを回し始めています」
「増えとるやないか」
父が突っ込む。
「必要なので」
「お前の必要は怖い」
笑いが起こる。
「そちらで、だいたい千五百文ほど」
「ほう」
「さらに湯あみ二つ」
その言葉で商家衆が笑顔になる。
「あれは助かっとるぞ」
「冬場に湯に入れるのはほんまありがたい」
「働いてる者も喜んどる」
八郎は頷く。
「二つ合わせて半月で約千文ほど見えています」
「つまり?」
「合わせて四千五百文ほどです」
一瞬、場が止まった。
「四千五百?」
「はい」
「お前、ほんまに三歳か」
「三歳です」
「三歳児は銭勘定で四千五百文とか言わん」
和尚が笑う。
八郎は続ける。
「それで、三つ目の湯あみを発注しました」
「また増えるんか!」
今度は全員が声を出した。
「まだ発注しただけです」
「同じや」
「出来上がったら、一つ目と二つ目で覚えた人たちを少し移して、新しい人と混ぜます」
「教えるわけか」
「はい」
「つまり?」
「六人体制を三組作ります」
商家衆がざわつく。
「十八人……」
「十八人が銭を稼ぐんか」
「これは大きいぞ」
ひとりが膝を叩いた。
「借金の雪だるまは嫌やけどな」
「これはええ雪だるまや」
「銭を生む雪だるまや」
みんな笑う。
八郎は慌てて手を振る。
「いやいや、待ってください」
「なんや」
「今は二月の二週目です」
「そうやな」
「三つ目が動くのは早くても三週目」
「うん」
「春になったら農作業も始まります」
「そうやな」
「だから、人の動きは考えないといけません」
すると一人の商家が首を振った。
「八郎」
「はい」
「それでもええねん」
「え?」
「農作業は大事や」
「はい」
「でもな、農作業だけでは銭が動かん」
周りも頷く。
「米で納める」
「野菜で暮らす」
「でも鍋買うにも、布買うにも、道具直すにも銭がいる」
「はい」
「その銭を作ってくれてる」
別の者が言う。
「だから急げとは言わん」
「無理もするな」
「でも、この流れは止めんでくれ」
八郎は少し頭を下げる。
「ありがとうございます」
そこで隣の商家衆が口を開いた。
「……それでや」
「はい」
「こっちの話や」
男は懐から帳面を出した。
「言われた通り、全部出した」
「全部ですか」
「ああ」
「表も?」
「裏もや」
「個人的な借りも?」
「出した」
八郎は真剣な顔になる。
「それで?」
男は苦笑した。
「お前らのところ、十六万文言うてたな」
「はい」
「うちは」
一呼吸置く。
「二十万文や」
場が静まり返った。
「……」
「二十万」
「はい」
男は頭を抱える。
「もうな、泣くとか通り越した」
「……」
「吐きそうになったわ」
笑い話にしようとしているが、声は重かった。
「八郎」
「はい」
「どうしたらええ」
八郎は少し考えて答える。
「任せてください、とは言えません」
その言葉に男の顔が曇る。
「見捨てんでくれよ」
「違います」
八郎は首を振る。
「簡単な話じゃないという意味です」
「……」
「でも、できることはあります」
和尚が口を開く。
「まあ、八郎の言う通りや」
「和尚様」
「ただな」
和尚は笑う。
「こいつの場合、展開が早すぎるだけや」
みんな笑う。
「普通は十年二十年かける話を、数週間で動かそうとしとる」
「そんなにですか」
「そんなにや」
和尚は指で計算する。
「ただ、今の数字を見るとな」
「はい」
「一回の市で四千五百文と言うとるが、市だけでもかなり見えてきた」
「はい」
「月で考えれば二万文以上」
「はい」
「年なら三十万文近く見える」
隣の庄屋衆が顔を上げる。
「三十万?」
「単純計算やけどな」
和尚は続ける。
「こっちの十六万文」
「はい」
「そちらの二十万文」
「はい」
「全部とは言わんが、道筋は見える」
空気が変わった。
「さらに」
和尚は八郎を見る。
「漬物教室始めたんやろ」
「はい」
「湯あみ三つになるんやろ」
「はい」
「次の市も狙っとるんやろ」
「……はい」
「ほらな」
和尚は笑った。
「勝手に増える」
八郎は慌てる。
「勝手な見積もりしないでください」
しかし商家衆は笑っていた。
「いや」
「これは希望や」
「借金が増える話ばっかり聞いてきた」
「銭が増える話なんて初めてや」
隣の庄屋衆の男が頭を下げる。
「八郎様様やな」
「やめてください」
「いや、本気や」
父も横で笑う。
「もう諦めろ八郎」
「何をですか」
「三歳児扱いされるのをや」
和尚が茶を飲みながら言う。
「三歳児が二つの村の借金相談受けとる時点で無理や」
その言葉で、部屋中が大笑いになった。




