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1533年2月。2月4回目の市。今日は整える日です。市の利益、三郎兄様の利益、湯あみ合計4500文の利益

1533年。二月四度目の一の日。

 八郎たちは、いつものように市へ向かった。

 店を広げ、鍋を置き、米を炊き、魚を煮る。

 ただ、今日は常連たちが少し首をかしげた。

「坊主」

「はい」

「今日は人、増えてへんな」

 八郎は少しむっとする。

「当たり前じゃないですか」

「いや、お前ならまた二人三人増えてるかと思ってな」

「常に増やしてるわけじゃないですよ」

 そう言うと、周りの常連たちが笑った。

「ほんまか?」

「ほんまです」

「信用ならんなあ」

「今日は整える日です」

「整える?」

「はい」

 八郎は店の方を見る。

「混ぜ飯屋もできました。つみれ汁も回り始めました。三郎兄様も炒め飯だけじゃなく、

 つみれ汁の味を見るようになりました」

「ほう」

「でも、まだ全部が安定してるわけじゃありません」

「なるほどな」

「人を増やす時期と、整える時期があります」

 常連の一人が酒を飲みながら笑った。

「言うことがおっさんやな」

「よく言われます」

「否定せんのかい」

「否定しても無駄なので」

 また笑いが起きる。

「それに今、四郎兄様と五郎兄様には隣の市に混ぜ飯を持って行ってもらってます」

「もう隣に手出しとるんか」

「手出しじゃないです。顔つなぎです」

「同じやろ」

「違います」

 八郎は少し真面目に言った。

「いきなり店を四つ出すなんてできません。まず混ぜ飯を売って、顔役さんに寄進して、

 信用を作ります」

「ほんま商人やな」

「三歳児です」

「三歳児は信用作りとか言わん」

 常連たちは笑いながらも、どこか感心していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 市は大きな混乱もなく進んだ。

 母はマグロの味噌煮を見る。

 三郎は炒め飯を振りながら、合間につみれ汁の味を見る。

「兄様、どうです?」

「まだ難しいな」

「何がです?」

「魚によって味が違う」

「そこが難しいんです」

「母さん、ようやっとるな」

 母が横で笑う。

「慣れや」

「その慣れを増やしてもらわないと困ります」

 八郎が言うと、三郎は苦笑した。

「また俺を使う気やな」

「使うんじゃないです。頼るんです」

「言い方や」

 つみれ汁は、最初ほど値引きしなくても売れるようになっていた。

 まだ味は安定しない。

 それでも客は増えている。

「今日はちょっと味噌強いな」

「でも酒には合うぞ」

「飯と一緒ならこれぐらいでええわ」

 そんな声が聞こえる。

 八郎はそれを聞いて安心した。

 完成ではない。

 でも、店として回り始めている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夕方、市が終わる。

 帰りの荷物はやはり軽かった。

 鍋や器の一部は三郎の店に置ける。

 混ぜ飯屋も少しずつ拠点になっている。

「楽になったなあ」

 父が言う。

「はい」

「でもお前、楽になった分、また何か増やすやろ」

「今日は増やしません」

「今日は、な」

 そんな話をしながら家へ戻る。

 そして夜。

 いつもの帳面の時間になった。

 人が増えたせいで、囲炉裏の周りはまた狭く感じる。

「では、今日の市です」

 八郎が帳面を開く。

「まず市の利益は、二千文です」

「安定しとるな」

 父がうなずく。

「はい。大きくは伸びてませんが、崩れてもいません」

「それが大事やな」

「はい」

「次に三郎兄様の店です」

 三郎が少し姿勢を正す。

「炒め飯屋とつみれ汁屋、三日分です」

「うん」

「合わせて千五百文ほど利益が出ています」

「……」

 部屋が少し静かになる。

「三日で千五百文か」

「はい」

「最初よりだいぶ安定してきました」

 三郎は頭をかく。

「まだ味は安定してへんけどな」

「いいんです」

「いいんか?」

「店が回って、給金が払えて、港の人が魚を売れているなら十分です」

 八郎は答える。

「味はこれから整えます」

「ほんま簡単に言うな」

「簡単じゃないから兄様にお願いしてます」

「またそれや」

 笑いが起きる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 次に湯あみの話になった。

「湯あみの方はどうですか?」

 八郎が父に聞く。

「ああ、二つ目も動き始めたで」

「問題あります?」

「まあ、細かい文句はある」

「どんな?」

「男の時間と女の時間の切り替えがどうとか、布が足らんとか、湯がぬるい日があったとか」

「なるほど」

「でも揉め散らかしてるわけやない」

 母もうなずく。

「みんな使いたいからね」

「文句言いながらも来るんや」

「良かったです」

 八郎は少し安心する。

「利益は?」

 父が首をかしげる。

「ざっくりやけど、一つ一日三十五文ぐらいやな」

「はい」

「一つで半月なら五百文ちょい」

「二つなら千文ちょっとですね」

「……」

 父が改めて考える。

「湯あみだけで、半月千文か」

「はい」

「人件費払ってそれか」

「はい」

「三人ずつ雇ってるのにか」

「そうです」

 部屋がざわついた。

「つまり今月、二つが安定したら二千文ぐらい残るんか」

「そうなります」

「それで次の釜が買えるやないか」

「はい」

 八郎は普通に頷いた。

「だから湯あみは増やす意味があります」

「利益は小さいけど」

「仕事ができて、利益も残る」

「それが積み上がります」

 父が呆れたように笑う。

「ほんま、よう考えとる」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「では今回のまとめです」

 八郎は指を折る。

「市の利益、二千文」

「三郎兄様の店、三日分で千五百文」

「湯あみ二つ、半月分でざっくり千文」

「合計で四千五百文ほどです」

 部屋が静かになった。

「四千五百……」

「はい」

「この数日で?」

「はい」

「……」

 三郎が笑った。

「もう五万文、ほんまに返せるな」

「返しますよ」

 八郎は答える。

「でも返して終わりじゃありません」

「また始まった」

「湯あみを十個作ります」

「……」

「隣の市にも出ます」

「……」

「水車の杵も進めます」

「……」

「漬物教室も母上にお願いします」

 母が少し顔をそらす。

「忘れてませんよ」

「……はい」

 みんなが笑った。

 父がぽつりと言う。

「整える日って言うてたのに、結局でかい話になったな」

「でも今日は人増やしてません」

 八郎が胸を張る。

 全員が同時に言った。

「そこちゃう」

 囲炉裏の周りに、いつもの笑い声が響いた。

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