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1537年11月3週目。押しているのに崩せない

十一月三週目。

 細川・三好方も。

 ただ。

 摂津を削られ続けているわけには。

 いかなかった。

「このままでは」

「京の喉元まで」

「来られるぞ」

「分かっておる!」

 そこで。

 茨木。

 高槻。

 その周辺へ。

 まとまった兵を。

 一気に入れた。

・・・・・・・・・・・・・・

「押し返せ!」

「少なくとも」

「摂津から先へ」

「進ませるな!」

 だが。

 八郎方も。

 それを。

 待っていた。

 摂津方面には。

 すでに。

 八大都市から回している兵を中心に。

 十万近い兵が。

 厚く展開している。

「来ましたね」

「かなりの数です」

「ほな」

「受けましょう」

 無理に。

 追わない。

 崩れない。

 補給を切らさない。

「向こうが」

「疲れるまででええです」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 茨木。

 高槻。

 川沿い。

 街道。

 山際。

 あちらこちらで。

 小競り合いが続く。

 押せば。

 八郎方が受ける。

 引けば。

 追い過ぎない。

「……抜けぬな」

 三好方の兵が。

 呻く。

「何で」

「これだけ兵入れて」

「崩れんのや」

 理由は。

 単純だった。

 兵だけではない。

 飯。

 馬。

 荷車。

 薬。

 替えの兵。

 全部が。

 後ろから。

 流れてくる。

・・・・・・・・・・・・・・

「持久戦になれば」

 細川方の武将が。

 地図を見ながら言う。

「こちらが不利だ」

「分かっておる」

 分かっていても。

 他に。

 打つ手がない。

 ならば。

 中から。

 崩すしかない。

「八郎方の国人を」

「切り崩せぬか」

「銭を積め」

「役を約束しろ」

「土地を与えると言え」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 しかし。

 これが。

 うまくいかなかった。

「八郎様のところを」

「裏切れと?」

「そうだ」

「これだけ出す」

「……」

「足りぬか?」

「いや」

「銭の話では」

「ないんですわ」

 八郎領では。

 税が。

 極端に軽いわけではない。

 だが。

 取った銭が。

 道。

 市。

 水。

 仕事。

 町。

 そういう形で。

 戻ってくる。

・・・・・・・・・・・・

 さらに。

 借金。

 八郎方に入った。

 村。

 国人。

 小領主。

 その多くは。

 借財まで。

 整理されている。

「今さら」

「昔の借金背負って」

「戻れ言われてもな」

「では」

「もっと銭を出す」

「そういう話でも」

「ないんです」

 暮らしそのものが。

 前より。

 良くなっている。

 そこを。

 銭だけで。

 ひっくり返すのは。

 難しかった。

・・・・・・・・・・・・・

「三好方の者は?」

「四国時代からの者なら」

「こちらへ戻せんか?」

「それが……」

 三好は。

 もともと。

 四国に。

 足場を持っていた。

 だが。

 八郎との争いに敗れ。

 その基盤を。

 失っている。

 そして。

 その後。

 八郎方に残った者たちの扱いが。

 思った以上に。

 悪くなかった。

「殺されてもおらぬ」

「食わせてもろて」

「働き口まであるそうです」

「……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 調略を。

 仕掛けたい。

 だが。

 話を持ち掛けた者が。

 そのまま。

 八郎方へ。

 話を流すかもしれない。

 逆に。

 三好方の兵や。

 家臣へ。

「八郎方なら」

「飯がある」

「借金も見てもらえる」

 そんな話を。

 吹き込まれる方が。

 怖くなってくる。

「……調略する側が」

「調略される心配をして」

「どうする」

「しかし」

「現に兵が」

「向こうへ流れております」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 戦線は。

 崩れてはいない。

 細川・三好も。

 まだ。

 戦える。

 山城。

 河内。

 大和。

 そこには。

 まだ。

 力がある。

 丹波では。

 波多野も。

 八郎方に対して。

 完全には。

 崩れていない。

「六角は?」

「どうでしょうな」

「敵か味方か」

「よう分からん」

「前から」

「そんな感じや」

・・・・・・・・・・・・・・・

 比叡山も。

 難しい。

 寺社勢力も。

 難しい。

「こちらに」

「ついてくれるか?」

「旗色次第でしょう」

「将軍家が」

「強く出れば?」

「それでも」

「八郎方が勝つと思われたら」

「動かぬ者も出ます」

 寺には。

 寺の都合がある。

 町には。

 町の都合がある。

 国人には。

 国人の都合がある。

・・・・・・・・・・・・・・・

「結局」

 一人の武将が。

 疲れた声で言った。

「誰も」

「最後まで」

「一緒に死んではくれん」

「……」

「勝つ方へ」

「寄ります」

 その言葉に。

 部屋が。

 静かになった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして。

 その勝つ方が。

 今。

 少しずつ。

 八郎に。

 傾いている。

 決定的ではない。

 細川・三好方が。

 敗れたわけでもない。

 だが。

 兵を出しても。

 抜けない。

 調略を仕掛けても。

 食いつかない。

 兵糧だけは。

 毎日。

 減っていく。

「今日も」

「米が要ります」

「どれほどだ」

「昨日と同じほど」

「……またか」

・・・・・・・・・・・・・・・

 十万近い兵を。

 相手にする。

 それだけで。

 大量の米。

 薪。

 味噌。

 馬草。

 人足。

 銭。

 それらを。

 食い潰していく。

「このまま」

「何月まで」

「続けられる?」

 誰も。

 すぐには。

 答えなかった。

・・・・・・・・・・・・・

 下の兵たちにも。

 その空気は。

 少しずつ。

 伝わり始める。

「和泉」

「ほとんど取られたんやろ?」

「堺も」

「八郎方と商売しとるらしい」

「摂津も」

「もう向こうみたいなもんや」

「ほな」

「次」

「京ちゃうんか」

「……言うな」

・・・・・・・・・・・・・

 細川・三好方に。

 まだ。

 河内。

 大和。

 山城。

 そして。

 関わりを持つ。

 周辺勢力が。

 残っている。

 だから。

 終わってはいない。

 それでも。

「前より」

「苦しなってるよな」

「そら」

「誰でも分かる」

 兵たちは。

 小さな声で。

 そんな話を。

 するようになっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 十一月三週目。

 茨木。

 高槻方面。

 細川・三好方は。

 大軍を入れ。

 八郎方を。

 押し返そうとした。

 だが。

 戦線は。

 動かない。

 動かないまま。

 兵糧だけが。

 減っていく。

 そして。

 何より。

 厄介なのは。

 敵の軍ではなかった。

「こちらを」

「裏切ってもらう話より」

「こちらが裏切られぬよう」

「考えた方が」

「よろしいのでは」

 その言葉に。

 誰も。

 反論できなかった。

 勝敗は。

 まだ。

 決していない。

 けれど。

 細川・三好方の中に。

「このままでは」

 という感覚だけが。

 じわり。

 じわりと。

 広がり始めていた。

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