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1032/1033

1537年。11月3週目。京の町に芽生える期待。

十一月三週目。

 京都郊外。

 八郎方へ。

 入りたい。

 そう言って。

 連判状を出す村が。

 少しずつ。

 増え始めていた。

 当然。

 細川・三好方も。

 それを。

 黙って見ているわけではない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「八郎方へ入る?」

「はい」

「なら」

「もう我らの傘には」

「入らぬということだな」

「それは……」

「ならば」

 米。

 薪。

 荷車。

 馬。

「こちらが取っても」

「文句はないな?」

 村人たちの顔が。

 青くなる。

・・・・・・・・・・・・・・

 中には。

 兵を出して。

 圧力を掛けるところも出た。

「八郎方へ」

「連判状を出した村だ!」

「囲め!」

「待ってください!」

 村々では。

 小さな。

 小競り合いが。

 始まり始めた。

 だが。

 これは。

 八郎方も。

 ある程度。

 予想していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「守らんかったら」

「終わりでしょう」

 石山で。

 八郎が言う。

「何がです?」

「信用です」

 八郎家へ。

 入りたい。

 面倒を見てほしい。

 そう言って。

 腹をくくった村を。

 その直後。

 細川・三好に。

 好きにされた。

「そんなん」

「次から誰も」

「連判状持ってきてくれませんよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 だから。

 摂津まで。

 押し出していた。

 八郎軍を。

 さらに。

 少し前へ。

「村を守ってください」

「城を落とすより?」

「そっちが先です」

 八大都市から。

 回されてきた兵。

 前線経験を。

 積ませている兵。

 その数は。

 十分にある。

「無理に」

「攻め込まんでええです」

「押し返してください」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 結果。

 村の周辺で。

 小競り合い。

 街道で。

 にらみ合い。

 川沿いの。

 小さな町でも。

 兵が向き合う。

「八郎方です!」

「この村は」

「こちらで預かります!」

「引け!」

 三好方も。

 簡単には。

 引かない。

 だが。

 兵の数。

 補給。

 周辺の村々の協力。

 少しずつ。

 差が。

 出始めていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一つの村。

 また一つ。

 川べりの町。

 街道沿いの集落。

 じわじわと。

 八郎方へ。

 色を変えていく。

「押されております」

「またか!」

「兵が足りぬのか!」

「兵だけの問題では」

「ありませぬ!」

 細川・三好方も。

 勢いを。

 失ったわけではない。

 だが。

「押されている」

 それだけは。

 誰の目にも。

 分かり始めていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それでも。

 不思議なことに。

 戦線を越えて。

 京都へ。

 入り続けるものがあった。

「また丸八か」

 京の町。

 荷を開けば。

 そこには。

 丸八印。

 味噌。

 菓子。

 酒。

 干物。

 新しい調味料。

 そして。

 新しい食べ方。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「これ」

「胡麻だれいうらしいぞ」

「豆腐につけるんやろ?」

「青菜でもええらしい」

「こっちは?」

「卵と酢と油を」

「合わせたたれらしい」

「また変なもん作っとるな」

 言いながら。

 一口。

「……旨いな」

「やろ?」

 戦の噂と。

 一緒に。

 八郎領の飯まで。

 京へ。

 流れ込んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・

「何や」

 町衆の一人が。

 苦笑する。

「向こう」

「戦してるんやろ?」

「してる」

「それなのに」

「新しい飯ばっかり」

「作っとるんか」

「らしいで」

「余裕あるな」

 その言葉に。

 周囲が。

 少し黙った。

・・・・・・・・・・・・・・

「まあ」

 年嵩の商人が。

 小さな声で言う。

「驕れる平家も」

「久しからずや」

「細川と三好が?」

「さあな」

 まだ。

 終わったわけではない。

 将軍家もいる。

 比叡山。

 六角。

 周辺の国人。

 寺社。

 いくらでも。

 動く者はいる。

「一筋縄では」

「いかんやろ」

「そらそうや」

・・・・・・・・・・・・・・

「でも」

 一人が。

 声を落とす。

「八郎方」

「悪い噂ばっかりちゃうよな」

「それはな」

 法華宗を。

 保護した。

 困っている町へ。

 銭を出した。

 寺社の領分も。

 むやみに。

 侵していない。

「三好や細川は」

「取る話ばっかりやけど」

「八郎方は」

「育てる話も」

「多いわな」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「昔からのもんも」

「全部壊すわけちゃうらしい」

「堺も」

「自治そのままやと」

「ほんまか?」

「そう聞いとる」

 道。

 市。

 飯。

 宿。

 借金。

「町を」

「大きゅうしてから」

「取るらしいで」

「取る言うな」

「でも」

「そんな感じやろ」

・・・・・・・・・・・・・・・

 町衆の間には。

 少しずつ。

 妙な。

 期待感が。

 生まれ始めていた。

「八郎方が」

「ここまで来たら」

「どうなるんやろな」

「将軍様は?」

「そこが」

「一番分からん」

「わしらは」

「誰につく?」

「今それ言うな」

・・・・・・・・・・・・・・

 周囲を。

 見回す。

 どこで。

 三好方の者が。

 聞いているか。

 分からない。

「まだ」

「口に出す話ちゃう」

「そうやな」

「でも」

 一人が。

 丸八の菓子を。

 手に取った。

「こういうの」

「もっと来るんなら」

「悪うないかもしれんな」

「お前」

「飯で決めるんか」

「毎日食うもんやぞ」

 小さな笑いが。

 起きた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 十一月三週目。

 京都の外では。

 兵が。

 少しずつ。

 ぶつかり始めていた。

 村が。

 一つ。

 また一つ。

 八郎方へ。

 寄っていく。

 そして。

 京都の内側では。

 まだ。

 誰も。

 大きな声では。

 言わない。

 それでも。

「八郎方が来ても」

「案外」

「悪うないんちゃうか」

 そんな声が。

 小さく。

 ほんの少しずつ。

 芽を出し始めていた。

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