1533年2月3度目の市。混ぜ飯屋を増やし、人も4人増やし順々にやっていく。面白がる常連さんwww
次の市の日。
朝早くから八郎の家は慌ただしかった。
ただ、以前とは少し違う。
「母上、準備大丈夫ですか?」
「大丈夫やけど……」
母は周りを見る。
「ほんま人増えたね」
「ですね」
八郎もうなずく。
今回は新しく混ぜ飯屋を始めるため、二人を雇っていた。
市の近くに小さな場所も借りた。
今までは家で炊いた米を運んでいたが、少しずつ向こうで米を炊ける形に変えていく。
「全部運ぶのは大変ですから」
「まあ、そうやね」
「それに向こうで作れるようになったら、人を育てられます」
母は苦笑する。
「八郎はいつもそこやね」
「はい?」
「店を増やすより先に、人を増やす」
「人がおらんと店増やせませんから」
当たり前のように言う三歳児に母は笑った。
「ほんま誰の子なんやろ」
「母上の子ですよ」
「そういうところだけ子供やね」
今回は母が前もって、新しく入った二人に混ぜ飯の準備を教えていた。
野菜の刻み方。
味付け。
米との合わせ方。
少しずつ任せられるところが増えている。
さらに、つみれ汁の下処理を覚えるために別で二人増えた。
合計四人。
八郎はその人数を見て、少し表情を引き締める。
「四人増えましたね」
「そうやね」
「ここからはちゃんと考えないと」
「何を?」
「人を雇うということです」
母が少し驚く。
「給金を払うだけじゃないです」
「……」
「その人の暮らしがありますから」
母は優しく笑った。
「ほんま、そういうところは大人やね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
市につくと、いつもの常連たちが集まってきた。
「お、坊主来たぞ」
「また増えとるやないか」
すぐ気づかれる。
「人増やしすぎちゃうか?」
「増やしてます」
八郎は素直に答えた。
「認めるんかい」
常連が笑う。
「いや、必要なので」
「今度は何や?」
「混ぜ飯屋です」
「また飯か」
「はい」
八郎は説明する。
「ただ売るだけじゃないんです」
「ほう」
「三郎兄様の炒め飯屋がありますよね」
「ああ、あれもう普通に馴染んできたな」
「ありがとうございます」
「そこに使う飯を作ります」
「なるほど」
「あと、つみれ汁屋」
「魚のやつか」
「はい」
「あそこにも飯を合わせます」
「……」
「つまり飯を作る場所を別に持つんです」
常連たちは顔を見合わせる。
「お前……」
「はい?」
「考えて店増やしとるんやな」
「そりゃそうですよ」
「三歳児の返事ちゃうわ」
笑い声が起きる。
「それだけじゃないです」
「まだあるんか」
「はい」
「そこで作った混ぜ飯を、四郎兄様と五郎兄様に持っていってもらいます」
「どこへ?」
「隣の市です」
周りが静かになる。
「もう隣見るんか」
「売れるかは分かりません」
「ならなんで行くんや」
「顔を覚えてもらうためです」
「……」
「いきなり店を出しても、知らない人から買わないでしょう?」
「まあな」
「だから少しずつです」
「……」
「混ぜ飯を売って」
「うむ」
「市の人と話して」
「うむ」
「売れたら寄進して」
「うむ」
「信用を作ります」
常連は呆れたように笑った。
「お前なあ」
「はい?」
「見てる場所が高すぎるわ」
「そうですか?」
「そうや」
別の男も笑う。
「俺らは今日の飯考えとる」
「はい」
「お前は隣の市、その次まで考えとる」
「……」
「坊主見てたら飽きへんわ」
「いやいや」
八郎は困った顔をする。
「僕は見せ物じゃないですよ」
「いや、見せ物より面白い」
「ひどいですね」
そのやり取りを、新しく入った者たちは呆然と見ていた。
「……いつもこんな感じなんですか?」
混ぜ飯担当の一人が小声で聞く。
母が笑う。
「まあ、だいたい」
「八郎様って……」
「変やろ?」
「いえ、すごいです」
母は笑った。
「最近みんなそう言うわ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
店は忙しく回った。
ただ、以前のように母一人が走り回ることはなくなっていた。
マグロの味噌煮。
ここだけはまだ母が中心。
味を見る感覚が必要だからだ。
しかし、つみれ汁の下処理は違った。
「ここまでできるようになりました」
手伝いの奥方が嬉しそうに言う。
「ありがとうございます」
八郎は頭を下げた。
「いやいや、八郎様が頭下げないでください」
「いえ」
八郎は首を振る。
「助かってます」
「……」
「母上が全部やってたら倒れますから」
母が苦笑する。
「ほんま、それはそうやね」
「だから、みんなでできるようにしましょう」
「はい」
奥方たちは顔を見合わせる。
「八郎様」
「はい?」
「もっと使ってください」
「え?」
「私たち、もっと働けます」
「でも無理は」
「違います」
奥方は笑った。
「うちの家も喜んでるんです」
「……」
「冬に銭を持って帰れるなんて、なかなかありません」
「……」
「子供に少し良いもの食べさせられます」
八郎は黙った。
「だからありがたいんです」
別の者もうなずく。
「仕事をもらってるんじゃなくて、一緒に店を大きくしてる気がします」
八郎は少し照れた。
「それならよかったです」
すると横から常連が笑った。
「また坊主、人増やす顔しとるぞ」
「してません」
「嘘つけ」
「いや、本当に」
「次の市には二人増えとるわ」
みんな笑った。
八郎だけが首を傾げる。
「そんな簡単には増やしませんよ」
その言葉を聞いて、全員が同時に言った。
「信用できん」
市の店に大きな笑い声が響いた。




