1537年。11月2週目。横流しした商人に会いましょう。
十一月二週目。
姫路。
京都郊外へ送った。
八郎商会の物資。
それを。
三好方へ。
横流ししていた商人。
帳面を。
一つずつ追った結果。
ようやく。
誰なのか。
ほぼ分かった。
「八郎様」
「はい?」
「見つけました」
「ほんまです?」
「ほぼ間違いございません」
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帳面役が。
店の名。
荷の数。
渡した日。
三好方へ流れたと思われる量。
それらを。
一つずつ。
説明する。
「では」
「処分しておきます」
「え?」
八郎が。
顔を上げた。
「処分?」
「はい」
「八郎商会の荷を」
「勝手に横流ししたのです」
今後。
八郎領では。
商売できないようにする。
「それくらいは」
「必要かと」
「いやいやいや」
八郎は。
首を振った。
「それ」
「面白くないです」
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「……面白いかどうかの」
「話でございます?」
「そこ大事ですよ」
八郎商会は。
今や。
誰が見ても。
巨大な商会になった。
九州から。
摂津まで。
商いの網が。
つながっている。
「そんなところ相手に」
「こそこそ横流しする人ですよ?」
「はい」
「何考えてるか」
「聞きたないです?」
「普通は」
「怒るところでございます」
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「怒るんは」
「後でもできますやん」
八郎は。
少し楽しそうに。
帳面を見る。
「京都へ入ろうとしてる時に」
「こういう人が出てくる」
「それ」
「結構大事やと思うんですよ」
「なぜ?」
「うちのやり方が」
「全員に好かれてるわけちゃうってことでしょう」
なら。
その理由を。
聞いておきたい。
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「石山まで」
「僕が出ます」
「八郎様が?」
「はい」
「その商人を」
「姫路まで呼べばよろしいのでは?」
「遠いでしょう」
「それに」
八郎は。
少し笑った。
「僕も暇ですし」
夏姫が。
すぐに言った。
「それが本音では?」
「いやいや」
「半分ぐらいです」
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ただ。
八郎としても。
姫路に。
ずっといるつもりはなかった。
「京都を見据えるなら」
「もうちょっと」
「東へ寄らんとあかんでしょう」
摂津は。
すでに。
ほぼ八郎側。
「石山本願寺まで」
「出ましょう」
「そこを」
「今後の拠点に?」
「一つには」
「なるかもしれませんね」
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堺。
京都。
その間。
石山。
「商売考えても」
「場所ええでしょう」
「本願寺との関係もありますし」
「またお寺と」
「仲良うされるおつもりで?」
「仲悪くする意味」
「あります?」
「それはございませんが」
八郎は。
地図を見ながら。
頷いた。
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「姫路は」
「姫路で大事ですよ」
これまで。
ずっと。
育ててきた。
大都市。
「今まで拠点ですし」
「これかも」
「育てる価値あります」
ただ。
領地が。
東へ広がった。
京都が。
近くなった。
「姫路だけやと」
「ちょっと遠いですね」
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「年末ぐらいには」
八郎が言う。
「家族みんな」
「一回集めたいですね」
「姫路に?」
「石山でもええです」
これから。
どこで。
暮らすのか。
誰が。
どこを見るのか。
「一回」
「相談したいです」
「京都を取れば」
夏姫が。
八郎を見る。
「京都へ移ることも?」
「ゼロではないでしょうね」
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「でも」
八郎は。
少し考えた。
「ここ一、二年」
「ややこしいでしょう」
京都。
将軍家。
細川。
三好。
六角。
比叡山。
朝倉。
「ややこしい人」
「いっぱいおるでしょう?」
「おりますね」
「ほな」
「そういう人を」
「腹の中へ入れるんも」
「大事なんちゃいます?」
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「僕」
「人生経験」
「少ないんですよ」
「七歳でございますから」
「そこです」
「今まで」
「うまくいきすぎてます」
九州。
四国。
中国。
播磨。
摂津。
和泉。
「この先も」
「全部うまくいくわけないでしょう」
「それは」
「そうかもしれませぬが」
「だから」
ほころびが。
出た時。
「話を聞くんです」
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「横流しした商人も」
「ただの悪人かもしれません」
「でも」
「何か」
「言いたいことあるかもしれんでしょう」
それなら。
八郎一人ではなく。
他の商人にも。
聞いてもらう。
「堺の商人さんにも」
「手紙出してください」
「何と?」
「石山におりますよって」
「それだけ?」
「それだけでええです」
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「顔合わせするとき」
「来たい人が来たらええでしょう」
本願寺の僧にも。
先に。
話を通しておく。
「宴会でもします?」
「横流しの話を」
「宴会で聞くのでございますか?」
「飯食いながらの方が」
「腹の内」
「出るんちゃいます?」
三郎が。
頭を抱えた。
「また悪い癖出てるぞ」
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「何がです?」
「面白そうやから」
「首突っ込む癖や」
「でも」
「大きくなったから言うて」
「全部飲み込むだけって」
「つまらんでしょう」
「領地経営に」
「面白さ求めるな」
「求めますよ」
八郎は。
即答した。
「つまらんこと」
「したくないです」
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「だから」
「飯も考えるんです」
「また飯に戻った」
「飯でも」
「商売でも」
「町でも」
「何でこうなったんやろって」
「考えるんが」
「面白いんでしょう」
夏姫たちが。
顔を見合わせた。
「ほんま」
「困った御方です」
「褒めてます?」
「半分ほどは」
「ありがとうございます」
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結局。
十一月二週目。
八郎は。
姫路を出て。
石山本願寺へ。
拠点を。
少し東へ。
移すことになった。
そこで。
横流しした商人と。
直接会う。
堺の商人。
本願寺の僧。
必要なら。
他の者にも。
同席してもらう。
「処分は」
「話聞いてからです」
「甘くないですか?」
「甘いかどうかも」
「話聞かんと分からんでしょう」
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京都を。
どうするか。
その前に。
八郎は。
一人の。
面倒な商人と。
向き合うことにした。
大勢力になったからこそ。
小さな。
逆らい方を。
見落とさないために。
そして。
七歳の八郎自身が。
これから。
うまくいかない世界を。
少しずつ。
知っていくために。




