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1537年。11月2週目。初めて届いた京都郊外の連判状

 十一月二週目。

 姫路。

 八郎のもとへ。

 京都郊外から。

 一団の村人が。

 やって来た。

「八郎様」

「はい?」

「こちらを」

 差し出されたのは。

 一枚の。

 連判状だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……これ」

 八郎が。

 少し目を見開く。

「京都の方から?」

「はい」

「ほんまに?」

「ほんまでございます」

 村の代表らしい男が。

 少し。

 得意げな顔をする。

「我ら」

「腹をくくりました」

「そんな」

「どや顔で言われても」

「いや」

「これはどや顔にもなります」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 村は。

 京都の中心ではない。

 郊外。

 摂津側から。

 比較的近いところにある。

 だからこそ。

 八郎方の噂も。

 かなり。

 入ってきていた。

「摂津では」

「借金を見てもらえるとか」

「はい」

「村ごと入ったところは」

「米も入れてもらったとか」

「まあ」

「必要なら」

「それはします」

「それで」

 村人は。

 少し顔を曇らせた。

「こちらでは」

「三好様方から」

「兵を出せ」

「荷駄を出せ」

「米を出せ」

「そう言われまして」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「結構」

「取られてます?」

「取られております」

 京都の中心なら。

 まだ。

 幕府や。

 町衆。

 寺社の力もある。

 だが。

 郊外の村。

 特に。

 戦の通り道に近いところは。

 負担が。

 重くなりやすい。

「それで」

「今後どうなるか」

「皆で話しました」

「なるほど」

「八郎方へ入るか」

「このまま残るか」

「それとも」

「様子を見るか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「で」

 八郎が。

 連判状を見る。

「入りたいと?」

「はい」

「皆さん」

「納得してます?」

「納得してます」

「ほんまです?」

「何度も話しました」

 八郎は。

 名前を。

 一つずつ見る。

 村長。

 百姓。

 職人。

 寺の者。

 有力者だけではない。

「結構」

「ちゃんと集めましたね」

「腹くくりましたから」

「それ」

「二回目ですね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「では」

 八郎は。

 少し笑った。

「分かりました」

「うちで」

「面倒見させてもらいます」

「ほんまでございますか?」

「はい」

 借金。

 年貢。

 農具。

 米。

 道。

「まず帳面」

「見せてください」

「借金も?」

「見ますよ」

「ありがたい!」

 村人たちの顔が。

 一気に。

 明るくなった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただ」

 八郎は。

 ふと。

 思い出したように聞いた。

「三好さんから」

「物資とか」

「来ました?」

「来ましたよ」

「……え?」

「施しが」

「ございました」

 八郎が。

 首を傾げる。

「三好方から?」

「はい」

「米と」

「味噌と」

「少し布も」

「……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 三郎が。

 八郎を見る。

「聞いてる?」

「聞いてないです」

「向こうも」

「支援始めたんちゃうか?」

「それなら」

「それでええんですけど」

 八郎は。

 村人を見る。

「どんな荷でした?」

「普通の荷で」

「ただ」

「はい?」

「荷駄の中に」

「丸八の紙が」

「入ってまして」

 八郎の表情が。

 止まった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「丸八?」

「はい」

「うちの?」

「そうやと思います」

「何で?」

「それは」

「我らにも」

「分かりませぬ」

 村人も。

 不思議だったらしい。

 三好方から。

「施しです」

 と言われて。

 受け取った。

 ところが。

 米袋の。

 底の方。

 あるいは。

 荷を包んでいた紙。

 そこに。

 丸八印が。

 残っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……ちょっと待ってください」

 八郎が。

 帳面役を見る。

「京都郊外へ」

「送った支援物資」

「全部」

「届いてます?」

「確認いたします」

「一部」

 三郎が言う。

「消えてるんちゃうか?」

「その可能性」

「ありますね」

 八郎の顔から。

 笑みが。

 少し消えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「村の方」

「はい?」

「その三好方から来た荷」

「誰が持ってきました?」

「商人でございます」

「名前分かります?」

「分かります」

「どこの店?」

「それも」

「多分」

「分かると思います」

「助かります」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いや」

 村人が。

 少し戸惑う。

「何か」

「問題でした?」

「まだ」

「分かりません」

 八郎は。

 すぐ答えた。

「三好さんが」

「自分で買った可能性もありますし」

「途中で」

「荷を買い取った可能性もあります」

「なるほど」

「でも」

 もし。

 八郎家が。

 京都郊外へ。

 送ったものを。

 途中で。

 誰かが。

 勝手に流したのなら。

「それ」

「うちの問題です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「皆さんが」

「八郎方へ入りたいという話と」

「これは別です」

 八郎は。

 連判状を。

 丁寧に。

 横へ置いた。

「皆さんのことは」

「ちゃんと面倒見ます」

「ありがとうございます」

「ただ」

「丸八の荷の話」

「もう少し」

「詳しく教えてください」

「分かりました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いつ来たか」

「誰が来たか」

「何俵ぐらいあったか」

「丸八の印が」

「どこに残ってたか」

「全部?」

「できるだけ」

「お願いします」

 三郎が。

 横から。

 小さく笑った。

「また帳面やな」

「こういう時こそ」

「帳面でしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも」

 八郎は。

 少し。

 困った顔をした。

「向こうに」

「丸八の荷が」

「流れてるとなると」

「面倒ですね」

「三好方が」

「盗んだ?」

「まだ決めつけたらあきません」

「じゃあ」

「横流し?」

「それも」

「調べてからです」

 ただ。

 一つだけ。

 確かなことがある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎商会の。

 印が入った物資が。

 三好方の。

 施しとして。

 京都郊外へ。

 配られている。

「これ」

「誰かが」

「どこかで」

「商売してますね」

 三郎が。

 眉をひそめる。

「商売?」

「はい」

「うちから」

「三好さんへ」

「荷を流してる人が」

「おるかもしれません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 十一月一週目。

 京都郊外から。

 初めて。

 正式な連判状が。

 八郎のもとへ届いた。

 それは。

 京都への道が。

 一歩。

 進んだことを。

 意味していた。

 同時に。

 別の問題も。

 姿を見せた。

 八郎家の物資が。

 なぜ。

 三好方から。

 配られているのか。

「まあ」

 八郎は。

 連判状と。

 丸八の荷札を。

 交互に見る。

「一個ずつ」

「調べましょう」

「結局それやな」

「それしかないでしょう」

 京都へ。

 近づけば近づくほど。

 戦だけではない。

 商売。

 人。

 銭。

 裏切り。

 そんなものまで。

 少しずつ。

 絡み始めていた。

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