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1021/1033

1537年。10月4週目。有馬への道と揺れる摂津

十月四週目。

 姫路。

「ほな」

 八郎は。

 地図を見ながら言った。

「有馬まで行きましょうか」

「有馬へ?」

「はい」

 姫路から。

 有馬まで。

 道が。

 今どうなっているのか。

 それも。

 自分の目で。

 見ておきたい。

「それに」

「温泉入りたいですし」

 三郎が。

 呆れた顔をした。

「最後のが本音やろ」

「両方本音ですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・

 姫路を出て。

 一行は。

 ゆっくりと。

 東へ向かった。

 八郎の移動は。

 最近。

 以前にも増して。

 遅い。

 別に。

 行列が大きすぎるからではない。

「ここ」

「道悪いですね」

「雨が降ると」

「もっとぬかるみます」

「ほな」

「砂利入れられません?」

 少し進めば。

 また止まる。

「井戸は?」

「少し遠うございます」

「ほな」

「人多いところだけでも」

「もう一個掘りましょうか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 村へ入れば。

 村人が。

 集まってくる。

「八郎様!」

「どうもどうも」

「おかげさまで」

「随分平和になりました」

「ほんまです?」

「兵に米取られることも」

「減りましたし」

「市も立つようになりました」

 八郎は。

 そういう話を。

 一つずつ聞く。

「足らんものあります?」

「いや」

「そら言い出したら」

「色々ありますが」

「言うてくださいよ」

・・・・・・・・・・・

 橋。

 井戸。

 道。

 市場。

 長屋。

 時には。

 農具。

「銭撒いてるみたいやな」

 三郎が言う。

「撒いてませんよ」

「似たようなもんやろ」

「必要なところに」

「使ってるだけです」

 だから。

 姫路から。

 有馬まで。

 さっさと行けば。

 もっと早い。

 それでも。

 八郎は。

 のんびり進んだ。

・・・・・・・・・・・・・・

「しかし」

 村の老人が。

 笑った。

「八郎様のところは」

「ほんま平和になりましたな」

「そうです?」

「これだけ大きな領地になったら」

「もっと取られると思っておりました」

「取ったら」

「みんな貧乏になるでしょう」

「はあ」

「貧乏になったら」

「物買えんでしょう」

「……結局商売ですか」

「それもあります」

・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は。

 汗を拭きながら。

 道を歩く。

「まだ暑いですねえ」

「十月ですぞ」

「歩いたら暑いですよ」

「有馬着いたら」

「ゆっくり湯入ります?」

「そのために来てるようなもんです」

「道を見るためでは?」

「それもです」

・・・・・・・・・

 一方。

 八郎が。

 温泉を楽しみに。

 有馬へ向かっている頃。

 摂津の前線では。

 まったく。

 のんびりしていなかった。

 八大都市から。

 順番に回されてきた兵。

 警備兵。

 前線経験を積ませるための者たち。

 その数は。

 次々に増えている。

「押せ!」

「無理に城へ入るな!」

「街道を取れ!」

「村を押さえろ!」

・・・・・・・・・・・・・・・

 残る。

 三万五千石ほどの。

 三束。

 そこを。

 八郎軍が。

 じわじわと。

 押し始めていた。

 細川・三好方は。

 当然。

 慌てる。

「また兵が増えたぞ!」

「どこから出てくるのだ!」

「九州からも」

「四国からも」

「播磨からも!」

「どうする!」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 兵を。

 増やさなければならない。

 京都。

 河内。

 大和。

 そこへ。

 徴兵の話が。

 飛ぶ。

「男を出せ」

「荷駄を出せ」

「米を出せ」

「馬も要る」

 兵を動かすなら。

 兵糧がいる。

 人足も。

 荷車も。

 必要になる。

「またか」

 地元の者たちは。

 顔を曇らせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「何で」

「わしらが」

「そこまで細川様や三好様のために」

「やらなあかんのや」

「声が大きいぞ」

「でも」

 一人が。

 小声で言う。

「八郎と戦うんやろ?」

「そうらしい」

「勝てるんか?」

 誰も。

 答えない。

・・・・・・・・・・・・・

「前なら」

 細川。

 三好。

 その力が。

 自分たちを。

 守ってくれると。

 思えた。

「今はどうや」

「向こう」

「西の日の本」

「えらい広い範囲持っとるんやろ」

「しかも」

「飯あるらしいぞ」

「借金も」

「面倒見てくれるとか」

「市も増えるらしい」

 噂は。

 すでに。

 京都。

 河内。

 大和。

 そこまで。

 入ってきている。

・・・・・・・・・・・・・・・

「別に」

 別の農民が言った。

「誰が殿様でも」

「わしは構わんのや」

「田んぼ耕せて」

「飯食えて」

「子供が生きられたら」

「それでええ」

「そらそうや」

「なのに」

 米を出せ。

 人を出せ。

 荷車を出せ。

「負けるかもしれん戦のために?」

「馬鹿らしいわな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 まだ。

 堂々と。

 八郎側へ行く者は。

 多くない。

 だが。

「日和見しとくか」

「兵出す言われても」

「息子おらん言うとこ」

「いや」

「それより」

 一人が。

 周囲を見ながら言った。

「八郎様のところへ」

「話だけ聞きに行くか?」

「何を?」

「うちの村も」

「傘に入れてもらえるか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いきなり?」

「いきなりちゃう」

「摂津でも」

「和泉でも」

 村から。

 願い出たところは。

 八郎側が。

 面倒を見たらしい。

「連判状」

「出すんやろ?」

「そう聞いた」

「なら」

「どんな条件か」

「聞くだけ聞いてもええんちゃうか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その話は。

 その村だけではなかった。

 河内でも。

 大和へ続く街道沿いでも。

 京都の外れでも。

「八郎方に入ったら」

「どうなるんやろ」

 そんな話が。

 少しずつ。

 出始めていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一方。

 有馬へ向かう八郎は。

 そんな細かな動きまで。

 まだ知らない。

「有馬着いたら」

「まず何します?」

 三郎が聞く。

「そら」

「湯でしょう」

「その後は?」

「飯です」

「やっぱりな」

「ほんで」

 八郎は。

 前を見た。

「有馬から先の道」

「見ましょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 十月四週目。

 八郎は。

 ゆっくり。

 有馬へ向かっていた。

 道を見て。

 村の話を聞き。

 足りないものを。

 一つずつ埋めながら。

 その一方。

 八郎軍は。

 摂津で。

 確実に。

 前へ進む。

 そして。

 細川・三好が。

 兵を集めようとするほど。

 その後ろでは。

「ほんまに」

「八郎と戦わなあかんのか?」

 そんな疑問が。

 人々の間に。

 静かに。

 広がり始めていた。

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