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1537年。10月4週目。帳面より京への道

十月四週目。

 姫路。

 恒例の。

 帳面合わせ。

「では」

「今週も全部合わせていきます」

「お願いします」

 交易。

 市。

 宿。

 旅。

 八大都市。

 鉱山。

 軍費。

 新しく八郎側へ入った土地。

 相変わらず。

 動く銭は。

 とんでもない額だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今週の積み上げは――」

「あ」

 八郎が。

 帳面役を止めた。

「細かい金額」

「もう僕に全部説明せんでもええですよ」

 部屋が。

 一瞬。

 静かになる。

 三郎が。

 八郎を見る。

「とうとう」

「銭に興味なくしたんか?」

「いやいやいや」

 八郎は。

 慌てて首を振った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そういう意味ちゃいます」

 帳面は。

 ちゃんと作る。

 借金を返せる地域は。

 順番に返す。

 積み上げる銭も。

 きちんと積む。

「ただ」

「家が傾くとか」

「収入が急に半分になったとか」

「そういう大きい問題なら」

「僕まで上げてください」

 それ以外は。

 帳面役と。

 各担当で。

 しっかり管理する。

「今は」

 八郎は。

 地図を広げた。

「こっちの時間」

「増やしたいんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「政治ですか」

「政治というか」

「境目です」

 和泉。

 ほぼ。

 八郎家の下へ入った。

 堺も。

 自治を残したまま。

 八郎家の経済圏へ。

 かなり深く。

 入っている。

「次」

 八郎が。

 摂津を指差した。

「ここでしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・

 摂津には。

 まだ。

 細川・三好方の土地が。

 残っている。

「三万五千石ぐらいを」

「一束として」

「あと三束ぐらいですかね」

「ざっくり言えば」

「その程度かと」

 そこを。

 押し切れば。

 京都へ。

 かなり近くなる。

「軍勢も」

「集まってきてますし」

「取ろうと思えば」

「取れるんちゃいます?」

 三郎が聞く。

「多分」

 八郎は答えた。

「でも」

「多分で人死なせたないでしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 急ぐ必要はない。

 村。

 町。

 街道。

 砦。

 一つずつ。

 八郎側へ。

 寄せていく。

「それと」

「京都の郊外」

 将軍家。

 細川。

 三好。

 その手が。

 十分に届いていない。

 貧しい地域。

「そこ」

「先に見ましょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「また銭撒くんか?」

「撒く言わんといてください」

 八郎は。

 少し嫌そうな顔をした。

「支援です」

 米。

 味噌。

 衣類。

 布団。

 必要なら。

 銭。

「困ってる人に」

「まず渡す」

 そして。

 八郎家へ。

 面倒を見てもらいたい。

 そういう意思が。

 本当にあるなら。

「連判状」

「もらいましょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一人の。

 有力者だけではなく。

 できるだけ。

 村や町の者たちで。

 意思を示してもらう。

「こちらから」

「無理やり取った」

「とは言われにくくなります」

「将軍家は」

「それでも怒るやろな」

「怒るでしょうね」

「そこはええんか?」

「もう怒ってますからねえ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ただし。

 八郎も。

 今回は。

 いつも以上に。

 慎重だった。

「京都は」

「普通の町ちゃうでしょう」

 将軍家。

 朝廷。

 公家。

 寺社。

 町衆。

 商人。

 様々な力が。

 入り組んでいる。

「摂津みたいに」

「村が入りたい言うたから」

「はい入りました、では」

「済まんと思うんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「河内は?」

「後でええです」

「紀伊は?」

「それも」

「大和は?」

 八郎は。

 少し考える。

「大和は」

「もっと面倒でしょう」

 寺社。

 古くからの勢力。

 昔からの都。

「急いで入ったら」

「絶対揉めますよ」

「珍しく」

「全部後回しやな」

「先に京都です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 京都を。

 どうするのか。

 足利将軍家と。

 どんな関係になるのか。

 そこが。

 決まれば。

「周りも」

「また判断するでしょう」

 丹波。

 まだ残る。

 二束ほど。

「京都側が」

「落ち着けば」

「そこも取りやすくなるでしょうし」

 六角。

 比叡山。

 朝倉。

 北畠。

 周辺勢力も。

 改めて。

 態度を決めることになる。

・・・・・・・・・・・・・・・

「八郎側につくか」

「中立にするか」

「それとも」

「敵になるか」

 今は。

 まだ。

 誰も。

 完全には決めていない。

「だからこそ」

 八郎は。

 地図を見る。

「ここ」

「雑にやったらあかんと思うんです」

 三郎が。

 少し笑った。

「慎重やな」

「そら慎重になりますよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも」

 八郎は。

 摂津の境目へ。

 指を滑らせる。

「慎重にするからいうて」

「止まる必要はないでしょう」

 兵は。

 順番に。

 前へ出す。

 警備兵も。

 入れ替える。

 補給も。

 少しずつ。

 前へ。

 積む。

「一気に行かんだけです」

「時間は?」

「流れてますからね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 今日。

 一つの村。

 明日。

 一つの砦。

 その次。

 一つの町。

「じゅんぐり」

「進めましょう」

「ほんま」

「急がんな」

「急いで」

「全部敵にしたら」

「その方が面倒でしょう」

 八郎は。

 そう言って。

 地図を。

 眺めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夏姫が。

 横から。

 帳面を見る。

「では」

「今週の積み上げ額は」

「聞かれないので?」

「後で見ますよ」

「本当に?」

「見ますって」

「以前は」

「一文単位で気にされていたのに」

「今も大事ですよ」

 八郎は笑う。

「でも」

 今は。

 銭そのものより。

「その銭を使って」

「どう揉めずに前へ進むか」

「そっちの方が」

「難しいでしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 十月四週目。

 八郎家の帳面には。

 相変わらず。

 莫大な銭が。

 積み上がる。

 だが。

 七歳の領主が。

 長く見ていたのは。

 その数字ではなかった。

 摂津。

 京都。

 丹波。

 近江。

 そして。

 その間に暮らす。

 人々。

「まず」

「あと三束」

 八郎が。

 摂津を指差した。

「ここを」

「ゆっくり」

「押しましょう」

 京都を。

 取るためではない。

 京都へ入った時。

 できるだけ。

 大勢から。

「来るな」

 と言われないために。

 八郎家は。

 また。

 一歩ずつ。

 東へ。

 進み始めていた。

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