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1017/1033

1537年。10月3週目。銭より気になるもの。領の境目と他勢力との関係

十月三週目。

 姫路。

 恒例の。

 帳面合わせ。

「では」

「今週分を」

「全部合わせます」

 交易。

 市。

 宿。

 旅。

 八大都市。

 石見銀山。

 軍。

 新しく八郎側へ入った土地。

 一つずつ。

 帳面を重ねていく。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「和泉は」

「ほぼ八郎家の支配下に入りました」

「はい」

「堺についても」

 自治は。

 そのまま。

 だが。

 治安。

 周辺の村。

 交易。

 必要があれば。

 八郎家が。

 面倒を見る。

 そんな形に。

 なり始めている。

「ほな」

 八郎は。

 帳面を見る。

「借金」

「返していきましょう」

・・・・・・・・・・・・・・・

 まず。

 和泉。

 二束分。

 そして。

 丹波で。

 すでに。

 八郎側へ入っている地域。

 およそ。

 一束分。

「ここまで?」

「はい」

「まとめて?」

「まとめてです」

 村々。

 国人。

 農民。

 職人。

 そこに残っている。

 借財。

 戦費。

 古い負担。

 それを。

 一つずつ。

 整理していく。

「新しく入ったところは」

「最初に軽くしといた方が」

「後が楽でしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 返済。

 そして。

 必要な支出。

 全部差し引く。

「残りは?」

「こちらです」

 八郎は。

 数字を見る。

「ほな」

「積みましょう」

「また積み上げですか」

「はい」

 最近は。

 この言葉が。

 すっかり。

 当たり前になっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 その様子を。

 夏姫が。

 少し不思議そうに見る。

「八郎様」

「はい?」

「最近」

「積み上がる銭に」

「あまり驚かれなくなりましたね」

「そうです?」

「以前なら」

 億単位の銭が。

 増えるたび。

 何度も。

 帳面を見直していた。

「無頓着に」

「なられました?」

「いやいや」

 八郎は。

 すぐ首を振った。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「無頓着ではないですよ」

「では?」

「淡々と」

「積み上げてるだけです」

 銭は。

 大事。

 帳面も。

 毎週。

 見る。

「でも」

 今。

 八郎が。

 もっと気にしているものがある。

「境目です」

「境目?」

「はい」

 八郎は。

 地図を広げた。

・・・・・・・・・・・・・・

 和泉。

 堺。

 摂津。

 丹波。

 そして。

 京都。

「ここから」

「どうするかですよ」

 土地が。

 増えた。

 銭も。

 増えた。

 だからといって。

 そのまま。

 東へ押せばいいわけではない。

「細川さん」

「三好さん」

「まだいますからね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 戦うのか。

 休戦するのか。

 少しずつ。

 吸収するのか。

 現地の村。

 町衆。

 国人。

 商人。

 そういう者たちから。

 八郎側へ。

 寄ってくるのを待つのか。

「ここ」

「雑にやったら」

「後で面倒になるでしょう」

「確かに」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それに」

 八郎は。

 さらに。

 地図の。

 東側を見る。

「細川・三好だけちゃいます」

 近江。

「六角」

 比叡山。

「寺社衆」

 さらに。

 越前。

「朝倉」

 それぞれ。

 八郎家の拡大を。

 見ている。

「この辺が」

「束になって」

「何かしてくる可能性」

「ありますよね」

・・・・・・・・・・・・・・・

 夏姫が。

 少し考える。

「以前のような」

「包囲網ですか?」

「可能性はあります」

 前回。

 三好が。

 作ろうとした。

 八郎包囲網。

 それは。

 崩れた。

 だが。

 今度は。

 将軍家まで。

 八郎を。

 警戒し始めている。

「前より」

「大義は」

「作りやすくなってるかもしれません」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「朝敵とか」

「言われるのも面倒ですし」

「町衆は?」

「今のところ」

「少しこっちに同情的です」

「朝廷は?」

「支援した分」

「いきなり敵には」

「なりにくいと思います」

 だが。

 絶対ではない。

「そこも」

「銭だけでは」

「決まらんでしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なんだか」

 夏姫が笑う。

「随分」

「天下人らしい悩みになりましたね」

「いやいや」

 八郎は。

 すぐ否定する。

「天下取りたいわけちゃいますよ」

「ですが」

 地図を見る。

 九州。

 四国。

 中国。

 播磨。

 摂津。

 和泉。

 そこまで。

 八郎家の色が。

 広がっている。

「説得力が」

「薄くなってまいりました」

「……」

「それ」

「最近よく言われます」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そんな中。

 別の報告も。

 届いていた。

「但馬から?」

「はい」

 鉱山を探していた者たちから。

 銀らしき鉱脈が。

 見つかった。

「どれぐらいです?」

「まだ」

「大きさは分かりませぬ」

「石見ほど?」

「そこまでは」

「分かりません」

 八郎は。

 少し。

 目を輝かせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほな」

「もうちょっと」

「集中的に調べましょう」

「人を増やしますか?」

「はい」

 石見銀山で。

 経験を積んだ者。

 鉱石を。

 見分ける者。

 山を。

 調べる者。

「何人か」

「但馬へ回してください」

「本当に銀山になれば」

「収入も増えますな」

「ですね」

・・・・・・・・・・・・・・・

 ただ。

 八郎は。

 そこでも。

 すぐに。

 皮算用はしなかった。

「出たら」

「ありがたいですけど」

「出る前から」

「儲かった気になったら」

「あかんでしょう」

「慎重ですな」

「石見が」

「たまたま大きかっただけかもしれませんし」

 調べる。

 掘る。

 帳面を取る。

「いつも通りです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして。

 再び。

 地図へ。

 目を戻す。

「今」

 銭が。

 いくら積み上がるか。

 それも。

 大事。

 だが。

 それ以上に。

「次に」

「誰が動くか」

「そっちの方が」

「気になりますね」

 細川。

 三好。

 六角。

 比叡山。

 朝倉。

 そして。

 足利将軍家。

・・・・・・・・

「全部」

「一遍に来たら?」

 三郎が。

 横から聞いた。

「嫌ですねえ」

「勝てるか?」

「分かりません」

「珍しく」

「言い切らんな」

「そら」

 八郎は。

 苦笑した。

「相手にも」

「守るもんがありますから」

 土地。

 家。

 名誉。

 権威。

「そういう人ら」

「追い詰めたら」

「強いですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「だから」

「急がん?」

「急ぎません」

 和泉は。

 ほぼ落ち着いた。

 堺も。

 話が進んだ。

 丹波は。

 まだ。

 押し切れていない。

「それでええですよ」

「まだ」

「八大都市も」

「やること山ほどありますし」

「但馬の銀も?」

「それも」

「調べなあきません」

     ◇

 十月三週目。

 帳面には。

 また。

 大きな額の銭が。

 積み上がった。

 だが。

 八郎が。

 長く見ていたのは。

 銭の数字ではなかった。

 地図の。

 東側。

 京都。

 近江。

 越前。

 そして。

 その間に。

 並ぶ人々。

「結局」

 八郎は。

 小さく笑う。

「銭より」

「こっちの方が」

「難しいですね」

 七歳の領主にとって。

 今や。

 億単位の銭より。

 誰が。

 いつ。

 どちらへ動くのか。

 その方が。

 よほど。

 気になる問題に。

 なり始めていた。

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