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1015/1033

1537年。10月2週目。戦をするにも銭がいります。

 十月二週目。

 京都。

 八郎家から届いた。

 復興支援。

 銭だけではない。

 米。

 味噌。

 干魚。

 木材。

 布。

 その他。

 町で必要とされるものを。

 現物でも。

 かなり持ち込んでいた。

「これはありがたい」

「この辺の屋根も直せるぞ」

「米まであるんか」

 町衆からは。

 素直に。

 喜びの声が上がった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 朝廷側にも。

 必要な品。

 そして。

 銭。

 困っていることがあれば。

 相談してほしい。

 そんな言葉まで。

 添えられていた。

「八郎家は」

「随分と気前がよいの」

「七歳と聞いておりますが」

「七歳でこれだけやるか」

 当然。

 悪い印象にはならない。

 ところが。

 それを。

 面白くない顔で見る者たちもいた。

 足利幕府である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「朝廷には出す」

「町衆にも出す」

「それで」

「幕府には何もないと?」

 八郎から。

 献金はない。

 むしろ。

 先日のやり取りでは。

 将軍家と。

 距離を取るような言葉まであった。

「ないがしろにしておるのではないか」

 そう感じるのも。

 無理はなかった。

 だが。

 怒っているだけでは。

 戦はできない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「兵を集めるにしても」

「銭がいる」

「兵糧も必要だ」

「馬も」

「荷駄も」

「船もいる」

 将軍家が。

 書状を出せば。

 返事は来る。

 八郎を。

 これ以上大きくしてはならない。

 そう言う者もいる。

 だが。

「では兵を何千出す」

 となれば。

 話は別だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 そこで。

 役目を。

 使う。

「今度働けば」

「幕府の役を与えよう」

「この家には」

「しかるべき官職を」

 朝廷側への働きかけも含め。

 未来の役職。

 格式。

 名誉。

 そういったものを。

 約束しながら。

 人を動かそうとする。

 さらに。

「支度金として」

 少しばかりの。

 銭を渡す。

「何とか」

「これで兵を出してもらえぬか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 だが。

 結局。

 その銭も。

 どこかから。

 持ってこなければならない。

 収穫は。

 終わったばかり。

「今年の分から」

「少し余分に取れ」

「今ですか?」

「戦のためだ」

 米。

 銭。

 荷車。

 人足。

 少しずつ。

 京都と。

 その周辺から。

 集め始める。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……何のための支援やったんや」

 町衆の間で。

 そんな声が。

 出始めた。

「八郎様から」

「復興に使うてくれ言うて」

「銭も米も来たんやろ?」

「来た」

「その横で」

「幕府に取られるんか?」

「そういうことになるな」

 もちろん。

 八郎家から来た額の方が。

 ずっと大きい。

 だから。

 町そのものは。

 まだ。

 助かっている。

 だが。

 気分は。

 良くない。

・・・・・・・・・・・・・・・

「八郎様は」

「町直せ言うて銭くれた」

「将軍様は?」

「戦するから出せ、や」

「……」

 一人の商人が。

 冷めた顔をした。

「わしらの暮らし」

「ほんまに見てはるんやろか」

 将軍家にも。

 将軍家の事情がある。

 細川にも。

 三好にも。

 理由がある。

 だが。

 町衆から見れば。

「結局」

「自分ら守りたいだけちゃうんか」

 そう。

 見えてしまう。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 徴兵される側も。

 同じだった。

「八郎と戦え?」

「何でや」

「向こう」

「九州から播磨まで持っとるんやろ?」

「四国もや」

「摂津まで来とる」

 さらに。

 飯がある。

 銭がある。

 兵が多い。

 船もある。

「今の将軍家と」

「細川・三好だけで」

「ほんまに勝てるんか?」

 誰も。

 答えられない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「負け戦やったら」

「何でわしらが行かなあかん」

「家に田んぼあるぞ」

「今年取れた米まで持っていかれて」

「それで兵にも出ろって?」

 士気は。

 上がらない。

 徴収すればするほど。

 むしろ。

 不満が。

 増えていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 寺社衆も。

 全く動かないわけではない。

 八郎の勢力拡大を。

 警戒する者はいる。

「比叡山は?」

「話には乗る」

「六角は?」

「近江ゆえ」

「動く余地はある」

 伊勢。

 越前。

 そのほか。

 声を掛けられる先は。

 ある。

 ただし。

「正面から八郎と戦うとなると」

「大義が要る」

「誰が総大将になる?」

「兵糧は?」

「何万集める?」

「どこで止める?」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 誰も。

 最初の一歩を。

 踏み出したくない。

「将軍家が」

「きちんと戦線を引くなら」

「考える」

「諸家が同時に動くなら」

「兵を出す」

 そんな返事ばかりが。

 増えていく。

 要するに。

「誰か先に」

「八郎と戦ってくれ」

 という話だった。

     ◇

 細川・三好側も。

 苦しかった。

「もう一度」

「包囲網を作るか?」

「簡単に言うな」

 前回。

 それを。

 やった。

 そして。

 失敗した。

 その結果。

 八郎家は。

 弱るどころか。

 播磨を取り。

 摂津へ入り。

 和泉まで。

 押してきた。

「二度目をやって」

「また失敗したら」

「今度こそ終わるぞ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「しかし」

「何もせねば」

「さらに来る」

「分かっておる」

 将軍家には。

 八郎を止めるだけの。

 銭がない。

 細川・三好には。

 もう一度。

 大包囲網を描くだけの。

 信用が足りない。

 周囲の諸勢力には。

 八郎と。

 正面から戦うだけの。

 理由が足りない。

「……何とも」

 一人が。

 深く息を吐いた。

「悩ましい話よ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 十月二週目。

 八郎は。

 京都へ。

 銭と物を送った。

 戦うためではない。

 町を。

 少しでも。

 立て直すため。

 しかし。

 その銭が届いたことで。

 逆に。

 幕府との違いが。

 町の人々の目に。

 はっきりと。

 映り始めていた。

 八郎は。

 まだ。

 京都へ入っていない。

 兵も。

 都へ向けていない。

 それでも。

 人の心だけは。

 少しずつ。

 動き始めていた。

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