1537年。10月2週目。戦をするにも銭がいります。
十月二週目。
京都。
八郎家から届いた。
復興支援。
銭だけではない。
米。
味噌。
干魚。
木材。
布。
その他。
町で必要とされるものを。
現物でも。
かなり持ち込んでいた。
「これはありがたい」
「この辺の屋根も直せるぞ」
「米まであるんか」
町衆からは。
素直に。
喜びの声が上がった。
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朝廷側にも。
必要な品。
そして。
銭。
困っていることがあれば。
相談してほしい。
そんな言葉まで。
添えられていた。
「八郎家は」
「随分と気前がよいの」
「七歳と聞いておりますが」
「七歳でこれだけやるか」
当然。
悪い印象にはならない。
ところが。
それを。
面白くない顔で見る者たちもいた。
足利幕府である。
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「朝廷には出す」
「町衆にも出す」
「それで」
「幕府には何もないと?」
八郎から。
献金はない。
むしろ。
先日のやり取りでは。
将軍家と。
距離を取るような言葉まであった。
「ないがしろにしておるのではないか」
そう感じるのも。
無理はなかった。
だが。
怒っているだけでは。
戦はできない。
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「兵を集めるにしても」
「銭がいる」
「兵糧も必要だ」
「馬も」
「荷駄も」
「船もいる」
将軍家が。
書状を出せば。
返事は来る。
八郎を。
これ以上大きくしてはならない。
そう言う者もいる。
だが。
「では兵を何千出す」
となれば。
話は別だった。
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そこで。
役目を。
使う。
「今度働けば」
「幕府の役を与えよう」
「この家には」
「しかるべき官職を」
朝廷側への働きかけも含め。
未来の役職。
格式。
名誉。
そういったものを。
約束しながら。
人を動かそうとする。
さらに。
「支度金として」
少しばかりの。
銭を渡す。
「何とか」
「これで兵を出してもらえぬか」
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だが。
結局。
その銭も。
どこかから。
持ってこなければならない。
収穫は。
終わったばかり。
「今年の分から」
「少し余分に取れ」
「今ですか?」
「戦のためだ」
米。
銭。
荷車。
人足。
少しずつ。
京都と。
その周辺から。
集め始める。
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「……何のための支援やったんや」
町衆の間で。
そんな声が。
出始めた。
「八郎様から」
「復興に使うてくれ言うて」
「銭も米も来たんやろ?」
「来た」
「その横で」
「幕府に取られるんか?」
「そういうことになるな」
もちろん。
八郎家から来た額の方が。
ずっと大きい。
だから。
町そのものは。
まだ。
助かっている。
だが。
気分は。
良くない。
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「八郎様は」
「町直せ言うて銭くれた」
「将軍様は?」
「戦するから出せ、や」
「……」
一人の商人が。
冷めた顔をした。
「わしらの暮らし」
「ほんまに見てはるんやろか」
将軍家にも。
将軍家の事情がある。
細川にも。
三好にも。
理由がある。
だが。
町衆から見れば。
「結局」
「自分ら守りたいだけちゃうんか」
そう。
見えてしまう。
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徴兵される側も。
同じだった。
「八郎と戦え?」
「何でや」
「向こう」
「九州から播磨まで持っとるんやろ?」
「四国もや」
「摂津まで来とる」
さらに。
飯がある。
銭がある。
兵が多い。
船もある。
「今の将軍家と」
「細川・三好だけで」
「ほんまに勝てるんか?」
誰も。
答えられない。
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「負け戦やったら」
「何でわしらが行かなあかん」
「家に田んぼあるぞ」
「今年取れた米まで持っていかれて」
「それで兵にも出ろって?」
士気は。
上がらない。
徴収すればするほど。
むしろ。
不満が。
増えていった。
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寺社衆も。
全く動かないわけではない。
八郎の勢力拡大を。
警戒する者はいる。
「比叡山は?」
「話には乗る」
「六角は?」
「近江ゆえ」
「動く余地はある」
伊勢。
越前。
そのほか。
声を掛けられる先は。
ある。
ただし。
「正面から八郎と戦うとなると」
「大義が要る」
「誰が総大将になる?」
「兵糧は?」
「何万集める?」
「どこで止める?」
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誰も。
最初の一歩を。
踏み出したくない。
「将軍家が」
「きちんと戦線を引くなら」
「考える」
「諸家が同時に動くなら」
「兵を出す」
そんな返事ばかりが。
増えていく。
要するに。
「誰か先に」
「八郎と戦ってくれ」
という話だった。
◇
細川・三好側も。
苦しかった。
「もう一度」
「包囲網を作るか?」
「簡単に言うな」
前回。
それを。
やった。
そして。
失敗した。
その結果。
八郎家は。
弱るどころか。
播磨を取り。
摂津へ入り。
和泉まで。
押してきた。
「二度目をやって」
「また失敗したら」
「今度こそ終わるぞ」
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「しかし」
「何もせねば」
「さらに来る」
「分かっておる」
将軍家には。
八郎を止めるだけの。
銭がない。
細川・三好には。
もう一度。
大包囲網を描くだけの。
信用が足りない。
周囲の諸勢力には。
八郎と。
正面から戦うだけの。
理由が足りない。
「……何とも」
一人が。
深く息を吐いた。
「悩ましい話よ」
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十月二週目。
八郎は。
京都へ。
銭と物を送った。
戦うためではない。
町を。
少しでも。
立て直すため。
しかし。
その銭が届いたことで。
逆に。
幕府との違いが。
町の人々の目に。
はっきりと。
映り始めていた。
八郎は。
まだ。
京都へ入っていない。
兵も。
都へ向けていない。
それでも。
人の心だけは。
少しずつ。
動き始めていた。




