1537年。10月2週目。朝廷と京都の町衆に1億文。恒例の帳面合わせ。
十月二週目。
姫路。
恒例の。
帳面合わせ。
「では」
各地から届いた帳面を。
一つずつ。
合わせていく。
交易。
市。
宿。
旅。
八大都市。
石見銀山。
そして。
各地の軍。
「まず」
「兵十万の移動費」
「一億文」
「はい」
前線勤務。
警備。
輸送。
宿泊。
飯。
船。
馬。
それだけの兵を。
入れ替えれば。
当然。
銭も飛ぶ。
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「それから」
八郎が。
もう一つ。
帳面へ指を置いた。
「京都」
「はい?」
「一億文出しましょう」
部屋が。
静かになった。
「……一億?」
「はい」
「京都へ?」
「はい」
「何に使うんです?」
「朝廷と町衆です」
三郎が。
顔をしかめた。
「そんなに撒くんか?」
「撒く言い方やめてくださいよ」
「撒いてるやろ」
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「将軍家には?」
「出しません」
「即答やな」
「そらそうでしょう」
足利将軍家は。
細川・三好側へ。
かなり寄っている。
「そこに銭出しても」
「こっち殴る棒買われるだけでしょう」
「言い方」
「でも」
朝廷。
京都の町衆。
そこは。
別である。
「困ってることあるなら」
「支援しますよ」
という。
形を作る。
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「それ」
夏姫が。
少し心配そうに言った。
「余計に揉めませぬか?」
「揉めるでしょうね」
「よろしいので?」
「もう揉めてますし」
八郎は。
あっさりしていた。
「将軍家と」
「細川・三好が」
「こっち警戒するのは」
「もう止められんでしょう」
なら。
八郎側も。
できることを。
やる。
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「特に」
八郎は。
少し声を落とした。
「朝敵とか言われるん」
「嫌でしょう」
「それは当然でございます」
「朝敵って」
将軍家だけが。
勝手に決める話ではない。
「朝廷の御意向も」
「要るでしょう?」
「まあ」
「そうなりますな」
「なら」
その朝廷が。
八郎家から。
困窮の支援。
御所周辺の修繕。
食料。
必要な銭。
そういうものを。
受け取っていたら。
「いきなり」
「八郎を朝敵にせえって」
「言いにくくなるでしょう」
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三郎が。
じっと。
八郎を見る。
「七歳が考えることちゃうぞ」
「生き残るためですよ」
「それが怖いねん」
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「町衆にも」
八郎は続ける。
「出しましょう」
京都が。
本当に。
完全に復興しているなら。
必要ない。
だが。
争い。
火災。
徴発。
商売の停滞。
困っている地域が。
まだあるなら。
「そこへ銭入れます」
「八郎商会として?」
「それでもええですし」
町衆。
商人。
職人。
寺社。
相談して。
使ってもらう。
「別に」
「味方してくださいとは」
「言いませんよ」
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「ただ」
困った時。
将軍家ではなく。
八郎家から。
銭が来た。
飯が来た。
仕事が来た。
「それ覚えてもらえたら」
「十分でしょう」
「同情的には」
「なるかもしれませんな」
「そうそう」
味方になるかは。
分からない。
だが。
「八郎は敵や」
と。
簡単には。
言いにくくなる。
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「ほな」
朝廷と。
京都町衆。
合わせて。
一億文。
「大きいな」
「必要経費ですよ」
「お前の必要経費」
「最近億から始まるな」
「領地大きくなりましたからね」
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さらに。
帳面は続く。
「摂津」
「はい」
「二束分」
「和泉」
「こちらも二束分」
すでに。
八郎側へ入っている地域。
そこの。
借財。
戦費。
旧来からの負担。
「ここ」
「完済しましょう」
「四束まとめて?」
「はい」
「またですか」
借金を。
残しておけば。
新しい統治も。
始めにくい。
「一回」
「軽くしましょう」
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兵の移動。
京都への支援。
摂津。
和泉。
それらを。
全部計算する。
「残り」
「一億二千万文ほどでございます」
「積みましょう」
「また積む?」
「はい」
「最近そればっかりやな」
「余裕は」
「ある方がええでしょう」
先が。
どうなるか。
まだ。
分からない。
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「しかし」
三郎が。
地図を見ながら言った。
「着々と進んどるな」
「いや」
八郎は。
すぐ否定した。
「着々でもないですよ」
「何でや」
「丹波」
まだ。
押し切れていない。
波多野。
細川方。
山。
城。
思った以上に。
しぶとい。
「和泉だって」
「まだ堺まで」
「届いてないでしょう」
「それでも十分やろ」
「急ぐ必要ないです」
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八郎は。
今度は。
八大都市の帳面を。
開いた。
「こっち」
「まだまだやることありますよ」
鹿児島。
熊本。
博多。
山口。
湯築。
出雲。
高松。
姫路。
道。
港。
長屋。
市場。
職人街。
宿。
飯屋。
「開発余地」
「いくらでもあります」
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「土地取るだけが」
「仕事ちゃうでしょう」
「それはそうやけど」
「今あるところ」
もっと。
豊かにする。
もっと。
商売しやすくする。
もっと。
住みやすくする。
「そっちでも」
「十分やることありますよ」
三郎が。
苦笑する。
「焦らんな」
「焦る理由ないですから」
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十月二週目。
十万の兵を動かし。
京都へ。
一億文を送り。
摂津と和泉。
合わせて四束分の。
負担を整理する。
それでも。
八郎は。
前へ急がなかった。
「京都は逃げません」
「堺も逃げません」
「丹波も逃げません」
「なら」
一個ずつ。
やればいい。
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「それに」
八郎は。
最後に。
帳面を閉じた。
「今持ってるところ」
「ちゃんと豊かにできんのに」
「次ばっかり取っても」
「仕方ないでしょう」
夏姫が。
小さく笑う。
「随分」
「領主らしいことを申されますね」
「そうです?」
「飯の話をしていなければ」
「もっとそれらしいです」
「……」
八郎は。
少し考える。
「今日の飯」
「九州の味噌でしたっけ?」
三郎が。
ため息をついた。
「ほら始まった」
十月二週目。
京都では。
八郎を。
どう扱うか。
議論が始まり。
八郎の側では。
戦の裏で。
銭と飯と。
生活の帳面が。
また一つ。
積み上がっていた。




