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1014/1033

1537年。10月2週目。朝廷と京都の町衆に1億文。恒例の帳面合わせ。

十月二週目。

 姫路。

 恒例の。

 帳面合わせ。

「では」

 各地から届いた帳面を。

 一つずつ。

 合わせていく。

 交易。

 市。

 宿。

 旅。

 八大都市。

 石見銀山。

 そして。

 各地の軍。

「まず」

「兵十万の移動費」

「一億文」

「はい」

 前線勤務。

 警備。

 輸送。

 宿泊。

 飯。

 船。

 馬。

 それだけの兵を。

 入れ替えれば。

 当然。

 銭も飛ぶ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それから」

 八郎が。

 もう一つ。

 帳面へ指を置いた。

「京都」

「はい?」

「一億文出しましょう」

 部屋が。

 静かになった。

「……一億?」

「はい」

「京都へ?」

「はい」

「何に使うんです?」

「朝廷と町衆です」

 三郎が。

 顔をしかめた。

「そんなに撒くんか?」

「撒く言い方やめてくださいよ」

「撒いてるやろ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「将軍家には?」

「出しません」

「即答やな」

「そらそうでしょう」

 足利将軍家は。

 細川・三好側へ。

 かなり寄っている。

「そこに銭出しても」

「こっち殴る棒買われるだけでしょう」

「言い方」

「でも」

 朝廷。

 京都の町衆。

 そこは。

 別である。

「困ってることあるなら」

「支援しますよ」

 という。

 形を作る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それ」

 夏姫が。

 少し心配そうに言った。

「余計に揉めませぬか?」

「揉めるでしょうね」

「よろしいので?」

「もう揉めてますし」

 八郎は。

 あっさりしていた。

「将軍家と」

「細川・三好が」

「こっち警戒するのは」

「もう止められんでしょう」

 なら。

 八郎側も。

 できることを。

 やる。

・・・・・・・・・・・・・・

「特に」

 八郎は。

 少し声を落とした。

「朝敵とか言われるん」

「嫌でしょう」

「それは当然でございます」

「朝敵って」

 将軍家だけが。

 勝手に決める話ではない。

「朝廷の御意向も」

「要るでしょう?」

「まあ」

「そうなりますな」

「なら」

 その朝廷が。

 八郎家から。

 困窮の支援。

 御所周辺の修繕。

 食料。

 必要な銭。

 そういうものを。

 受け取っていたら。

「いきなり」

「八郎を朝敵にせえって」

「言いにくくなるでしょう」

・・・・・・・・・・・・・

 三郎が。

 じっと。

 八郎を見る。

「七歳が考えることちゃうぞ」

「生き残るためですよ」

「それが怖いねん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「町衆にも」

 八郎は続ける。

「出しましょう」

 京都が。

 本当に。

 完全に復興しているなら。

 必要ない。

 だが。

 争い。

 火災。

 徴発。

 商売の停滞。

 困っている地域が。

 まだあるなら。

「そこへ銭入れます」

「八郎商会として?」

「それでもええですし」

 町衆。

 商人。

 職人。

 寺社。

 相談して。

 使ってもらう。

「別に」

「味方してくださいとは」

「言いませんよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただ」

 困った時。

 将軍家ではなく。

 八郎家から。

 銭が来た。

 飯が来た。

 仕事が来た。

「それ覚えてもらえたら」

「十分でしょう」

「同情的には」

「なるかもしれませんな」

「そうそう」

 味方になるかは。

 分からない。

 だが。

「八郎は敵や」

 と。

 簡単には。

 言いにくくなる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほな」

 朝廷と。

 京都町衆。

 合わせて。

 一億文。

「大きいな」

「必要経費ですよ」

「お前の必要経費」

「最近億から始まるな」

「領地大きくなりましたからね」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 さらに。

 帳面は続く。

「摂津」

「はい」

「二束分」

「和泉」

「こちらも二束分」

 すでに。

 八郎側へ入っている地域。

 そこの。

 借財。

 戦費。

 旧来からの負担。

「ここ」

「完済しましょう」

「四束まとめて?」

「はい」

「またですか」

 借金を。

 残しておけば。

 新しい統治も。

 始めにくい。

「一回」

「軽くしましょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 兵の移動。

 京都への支援。

 摂津。

 和泉。

 それらを。

 全部計算する。

「残り」

「一億二千万文ほどでございます」

「積みましょう」

「また積む?」

「はい」

「最近そればっかりやな」

「余裕は」

「ある方がええでしょう」

 先が。

 どうなるか。

 まだ。

 分からない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「しかし」

 三郎が。

 地図を見ながら言った。

「着々と進んどるな」

「いや」

 八郎は。

 すぐ否定した。

「着々でもないですよ」

「何でや」

「丹波」

 まだ。

 押し切れていない。

 波多野。

 細川方。

 山。

 城。

 思った以上に。

 しぶとい。

「和泉だって」

「まだ堺まで」

「届いてないでしょう」

「それでも十分やろ」

「急ぐ必要ないです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は。

 今度は。

 八大都市の帳面を。

 開いた。

「こっち」

「まだまだやることありますよ」

 鹿児島。

 熊本。

 博多。

 山口。

 湯築。

 出雲。

 高松。

 姫路。

 道。

 港。

 長屋。

 市場。

 職人街。

 宿。

 飯屋。

「開発余地」

「いくらでもあります」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「土地取るだけが」

「仕事ちゃうでしょう」

「それはそうやけど」

「今あるところ」

 もっと。

 豊かにする。

 もっと。

 商売しやすくする。

 もっと。

 住みやすくする。

「そっちでも」

「十分やることありますよ」

 三郎が。

 苦笑する。

「焦らんな」

「焦る理由ないですから」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 十月二週目。

 十万の兵を動かし。

 京都へ。

 一億文を送り。

 摂津と和泉。

 合わせて四束分の。

 負担を整理する。

 それでも。

 八郎は。

 前へ急がなかった。

「京都は逃げません」

「堺も逃げません」

「丹波も逃げません」

「なら」

 一個ずつ。

 やればいい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それに」

 八郎は。

 最後に。

 帳面を閉じた。

「今持ってるところ」

「ちゃんと豊かにできんのに」

「次ばっかり取っても」

「仕方ないでしょう」

 夏姫が。

 小さく笑う。

「随分」

「領主らしいことを申されますね」

「そうです?」

「飯の話をしていなければ」

「もっとそれらしいです」

「……」

 八郎は。

 少し考える。

「今日の飯」

「九州の味噌でしたっけ?」

 三郎が。

 ため息をついた。

「ほら始まった」

 十月二週目。

 京都では。

 八郎を。

 どう扱うか。

 議論が始まり。

 八郎の側では。

 戦の裏で。

 銭と飯と。

 生活の帳面が。

 また一つ。

 積み上がっていた。

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