1537年。10月1週目。将軍家から選べと言われました。
十月一週目。
京都。
姫路へ向かった。
足利将軍家の使者が。
かなり不機嫌な顔で。
戻ってきた。
「何と申した?」
「それが……」
使者は。
八郎とのやり取りを。
一つずつ報告した。
細川・三好と。
争っているだけ。
将軍家とは。
別に争っていない。
将軍家から。
何かしてもらった覚えも。
特にない。
「……何だ、その言い草は」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「我らが関係ないだと?」
足利義晴の周囲では。
当然。
不満が出た。
「日の本を統べるのは」
「将軍家であろう」
だからこそ。
細川・三好。
八郎家。
その争いに。
間へ入り。
収めようとしている。
それを。
「そちらから喧嘩を売ったのでしょう」
で。
片付けられては。
幕府の面目が立たない。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「以前は」
一人が言う。
「あの七歳児」
「銭を持った変わった子供程度と思っておったが」
今では。
九州。
四国。
中国地方。
播磨。
摂津。
さらに。
和泉へ。
勢力を伸ばしている。
「もう」
「無視できる相手ではない」
「ならば」
こちらも。
態度を。
はっきりさせるべきではないか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
幕府を。
支える側に入るのか。
それとも。
幕府の秩序を。
乱す側へ回るのか。
「選ばせればよい」
「八郎家に?」
「そうだ」
将軍家を。
支えると。
明確に示すなら。
まだ。
話はできる。
だが。
兵を進め。
京を脅かし。
幕府の命にも従わぬというなら。
「朝敵として」
「扱うことも考えねばならぬ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その話を。
細川・三好方は。
内心。
歓迎した。
「ようやく」
「御輿がこちらを向いたな」
自分たちだけが。
八郎と争えば。
日に日に。
不利になる。
だが。
将軍家から。
諸勢力へ。
「八郎を警戒せよ」
と。
触れを出すなら。
話は変わる。
・・・・・・・・・・・・・・
「比叡山」
「六角」
「伊勢の北畠」
「朝倉」
そのほか。
畿内。
近国。
八郎の巨大化を。
面白く思わない家へ。
声を掛ける。
「このままでは」
「次はそなたらの領地ぞ、と」
ただ。
三好側も。
そこまで。
楽観してはいなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「将軍家から言われれば」
「返事くらいはするであろう」
「しかし」
「実際に兵を出すかは別だ」
八郎家は。
すでに。
巨大すぎる。
しかも。
戦えば。
飯が出る。
補給が続く。
捕虜まで返す。
兵を出せば。
自分たちの領地も。
危険になる。
「結局」
三好方の武将が。
苦笑した。
「我らに降りかかっておる火の粉は」
「我らで払わねばならんか」
「そういうことですな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃。
姫路。
八郎のところにも。
新しい話が。
届いていた。
「将軍家から」
「態度を決めよ、と」
「何の態度です?」
「幕府を支えるのか」
「敵になるのか」
「……」
八郎が。
しばらく黙る。
「何で二択なんです?」
三郎が。
頭を抱えた。
「そこからか」
・・・・・・・・・・・・・・・
「いや」
八郎は。
本気で。
分かっていなかった。
「僕」
「将軍様と喧嘩したいなんて」
「一回も言うてないですよ」
「しかし」
夏姫が言う。
「将軍家から見れば」
「京へ近づく大勢力でございます」
「細川・三好と喧嘩してるだけなんですけど」
「向こうには」
「分けられぬのでしょう」
「めんどくさいですねえ」
◇
八郎は。
京都の地図を見る。
「まあ」
「どうしても」
「京都がまとまらんのやったら」
一度。
京都を。
八郎家で預かる。
将軍家には。
別のところへ。
移ってもらう。
「その方が」
「綺麗に収まるなら」
「それもありですけど」
室内が。
静かになる。
「八郎様」
「はい?」
「それを」
「将軍家の前では言わないでください」
「何で?」
「余計に朝敵になります」
「……そうですか」
・・・・・・・・・・・・・・・
「でも」
八郎は。
無理やり。
京都へ突っ込むつもりもない。
「切り崩せるところから」
「やりましょう」
町衆。
商人。
寺社。
周辺の村。
「暮らしが良くなれば」
「見方変わる人もいるでしょう」
京都には。
銭を持つ者も。
商売をする者も。
多い。
「商売の話なら」
「聞いてくれる人もいるでしょうし」
「また商売ですか」
「戦よりええでしょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
幕府側とも。
完全に。
縁を切る必要はない。
「仲良くできる人とは」
「仲良くしましょう」
将軍家の中にも。
考え方は。
一枚岩ではない。
細川・三好を。
必ずしも好まない者もいる。
「こっちが」
「全部敵ですよ」
みたいに動いたら。
本当に。
全部敵になる。
「そこは」
「気を付けましょう」
・・・・・・・・・・・・・・
「しかし」
三郎が。
京都。
北摂。
近江。
伊勢。
越前。
地図を見ながら。
ため息をついた。
「前途多難やな」
「ですねえ」
「細川・三好だけでも面倒やったのに」
「将軍家まで出てきた」
「しかも」
「他所にも声掛けるらしいぞ」
八郎は。
しばらく。
その地図を眺めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして。
「まあ」
小さく笑った。
「一個ずつやりましょう」
「またそれか」
「それしかないでしょう」
村なら。
村。
町なら。
町。
商人なら。
商人。
「いきなり日の本全部と」
「喧嘩する必要ないです」
十月一週目。
細川・三好との争いは。
ついに。
将軍家を巻き込み。
畿内全体の政治へ。
広がり始めていた。
それでも。
八郎がやることは。
変わらない。
一つずつ。
話を聞き。
一つずつ。
帳面を見て。
一つずつ。
味方を増やす。
「七歳で」
三郎が呟く。
「ようこんな面倒なところまで来たな」
「僕も」
八郎が答えた。
「そう思いますよ」
そして。
二人は。
また。
京都の地図へ。
視線を落とした。




