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1532年11月1回の市の後、和尚様と八郎との会話。村をよくしたいのは分かったが、それだけでは足りぬ。薩摩情勢を頭に入れなさい

「今の村の課題は、米に寄りすぎていることです」

 俺は続けた。

「米は大事です」

「当然じゃ」

「でも、米だけだと不作で終わります」

 雨が続く。

 日照りになる。

 戦で田が荒れる。

 それだけで村は苦しくなる。

「だから米以外のものが必要です」

「例えば」

「味噌」

 保存がきく。

 味をつけられる。

 飯の価値を上げられる。

「酒」

 銭になる。

 人が集まる。

 ただし扱いは難しい。

「砂糖」

 今すぐは無理かもしれない。

 でも甘味は強い商品になる。

「山菜や木の実も必要です」

「木の実?」

「飢饉の時に食えるものを知っておくことです」

 平時にうまいものだけでは駄目だ。

 苦しい時に何で命をつなぐか。

 それも大事だった。

「蓄えを増やすことも必要です」

 米。

 味噌。

 干物。

 漬物。

 薪。

 塩。

 そういうものがあれば、村は強くなる。

 和尚様はしばらく黙っていた。

 そして言った。

「お前、本当に見えておるのか」

「全部ではありません」

「あるいは、狐か何かに取り憑かれておるのではないか」

 俺は少し考えた。

「その可能性も、ゼロではないかもしれません」

 和尚様が吹き出した。

「冗談まで返すようになったか」

「和尚様に教わりました」

「わしはそんなこと教えておらん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 和尚様は茶を飲んだ。

 そして、声を少し落とした。

「八郎」

「はい」

「村を見るなら、薩摩も見ねばならん」

「薩摩ですか」

「そうじゃ」

 和尚様は外を見た。

「今、この地を治めておる者たちも、一枚岩ではない」

 俺は黙って聞いた。

「島津と一口に言うても、皆が同じ方を向いておるわけではない」

 やはり。

 前世の知識とも合う。

 この頃の薩摩はまだまとまっていない。

 本家。

 分家。

 国人。

 それぞれの思惑。

 小さな村も、その影響から逃れられない。

「戦が起これば、村から人が出る」

「はい」

「米も出る」

「はい」

「道も使われる」

「はい」

「つまり、村だけ豊かにしても足りぬ」

 和尚様は俺を見る。

「外の乱れも見ねばならん」

 俺は頷いた。

「教えてください」

「何をじゃ」

「薩摩のことを」

 和尚様は笑った。

「二歳半の子に、薩摩の政を教える日が来るとはな」

「お願いします」

「よかろう」

 その日から、俺の学びは文字と数だけではなくなった。

 米。

 銭。

 村。

 そして薩摩。

 八郎の見る世界は、少しずつ広がり始めていた。

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