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悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
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『貪欲』のマモニルス

「『悪役覇気』全開。「トレース」顎咬(アギト) 付加加算(エンチャント)「鬼火」」


 『悪役覇気』によって相手の精神状態を少しでも恐怖か崇拝に変化させ、同時に「トレース」も強化する。さらには、普段かけている「リミッター」、つまり体に負荷がかからない程度でしか「トレース」を使わない、と言う基準を一時解除。重ねて、属性を付与するための付加加算(エンチャント)をかけて技の強度をさらに上げる。

 これが、今の俺にできる最強の攻撃、と言うことになる。肉体を完璧にコントロールし、達人たちが極めた技を使用し、そこに魔力属性の重ねがけ。並大抵の人間ならば、一撃で意識を持っていかれ、ほとんど確実に死ぬ。


 それほどこの攻撃は、強い。俺のような凡人がそれほどの力を有するようになるのだ。さすがは異界の勇者が与えられるスキル、というわけだ。一つだけ恐ろしいのは、その力に溺れ、自らの力と錯覚すること。それによって、人はどんどん堕ちていく。


 しかし、今に限ってはその心配はないのであった。なぜなら、目の前にいる人物が異様に強いからである。彼は今まで何一つ攻撃を仕掛けて来なかったが、それでも滲み出るその強さ。細いがそれでも鍛えられていることがはっきりとわかる肉体。強力な能力に裏付けされた自信と、それを支える長年の経験。そんなものが、俺にもありありと感じられた。

 事実、彼は「鎌鼬」を避けることもなくまるで児戯かのようにいなしていた。その力がスキルなのか彼自身が習得した技なのかあわからないが、とにかく「鎌鼬」レベルの攻撃を顔色も変えずにいなせるというのは、それだけで脅威である。


 だからこそ、早期に仕留めなければいけない。『マモニルス』がこちらを侮り、回避行動をとっていない今のうちに、俺のできる全力で彼を始末しなければいけないのだ。俺がここで負ければ、戦況が全てひっくり返る。これはいわば大将戦。絶対に負けるわけにはいかないのである。


 だが、戦場に響き渡るは、無慈悲な音。衝撃はさえも全て吸収され、俺の拳は威力を霧散し、『マモニルス』の手のうち絵をすっぽり収まった。


「ぬるい、ぬるいぞ 東 航。いくら強者と呼ばれる立場であれど、所詮この程度か?ならば

御す必要もないな。骨まで残らず微塵にしてやれば良いか」


 『マモニルス』は、まず俺の手を握る強さをどんどん強めていく。俺は必死に抵抗するが、それも虚しく、まるで紙屑でも握り潰すが如く俺の手をへし折った。

 グシャ、という音が俺には確かに聞こえた。それは、それの手の骨が折れた音。本当に丸めるように折られており、右手左手ともに指関節のいずれかが壊れるという事態に陥った。

 格闘術が主流の俺にとって、これは多大な被害である。武器を使う戦闘スタイルのものにも共通するが、とにかく手というのは攻撃の起点にして支点、非常に重要な部位だ。俺はよくわからないが、最悪魔法ならば手が折れても使えるだろうが、俺はそうもいかない。非常に厄介なことになったわけである。


「『貪欲』 壱 逆さの理(リバース)


 痛みに悶絶しながらも必死に思考を動かそうとするも、体が再び痛みから立ち上がる前に『マモニルス』の追撃が俺を襲う。

 最初に感じたのは、切り刻まれるような痛み。腸ごといかれてしまったかのような苦しさ。続いて、鳩尾に重く攻撃を入れられたような、そんな思考性の違う痛みが続き、極め付けには熱い、という感情が俺を襲う。


 ここまで来れば流石に俺も分かる。これは、俺の攻撃の反転である。順に、「鎌鼬」、「顎咬」、そして付加加算(エンチャント)。俺の攻撃を完全に跳ね返しているかのような特性を持った攻撃であった。

 意趣返しとも取れるが、そんなことを戦闘中にわざわざするとも思えないし、俺の技と全く同じ性質の技を目の前の男が偶然もちあわせていた?馬鹿馬鹿しい仮定である。だとするならば、『マモニルス』の能力は、相手の攻撃の反転で間違いないだろうと結論を出すことができるわけだ。


「気付いたか?流石にそこまで察しが悪いようには見えんものなぁ?これはお主の攻撃そのもの、いや、お主の攻撃によって我が被るはずだった物理エネルギーだ。それを貴様に押し付けたわけよ」


「それを応用すれば、こんなことも可能だ」


 『マモニルス』は、にわかに自分の腹に目を向けたかと思うと、その腹に彼自身の手を突き立てた。その手は、いとも簡単に『マモニルス』の腹を貫く。しかし、血飛沫などは当然のように立たない。


 俺はその光景を痛みを堪えながら傍観していた。しかしながら、そうもしていられない状況が俺を襲った。さらなる痛みが俺の中に芽生えたのだ。腹を引きちぎられたかのような、そんな苦痛。まさに地獄のような痛みが俺を襲う。


「我は自傷でさえ攻撃に変えることができるわけだ。対してお前はといえば、我に攻撃すればするほどダメージが蓄積していく一方。もう虫の息に近いだろう?勝負あったな」


 実際、認めたくはないが『マモニルス』の言っていることは限りなく真実に近い。俺は満身創痍であるのにもかかわらず、『マモニルス』は一切傷を負っていないのだ。もう勝ち目は完全に途絶えたといっても良い。それほどこの状況は絶望的であった。

 しかし…… ここで諦めては格好がつかないではないか。逃げ帰っては示しがつかないではないか。すでに体は悲鳴をあげている。『マモニルス』の反射以外にも、無理して「トレース」を最大強度まで上げたせいで筋肉が引千切れそうだ。だが、俺が自分自身の立場を守り抜くためにも、ここはやるしかない。


「これはまだ、練習中の技なんだけどなぁ。失敗したら俺だってやばいかもなのに。まあでも、やるしかないってわけでしょ」


「 「トレース」 「砂塵嵐」 他元素同時展開 付加加算(エンチャント)「鬼火」 再付加加算(オーバーエンチャント) 「暴風」 」


 声を発するたびに、火と風が俺の周りに集約されていくのを感じる。この技は、理論的には可能であるが、俺の技術ではまだ達成できないと、そう思っていた技。しかし、やるしかない。『悪役覇気』は無限の可能性を秘めているのだから、きっとできるのだと信じて。

 そして、大事に、慎重に最後の言葉を口にする。


解放(バースト)!」


 体術によって巻き起こされた小さな渦巻きが、「暴風」に載せられどんどんと大きくなり、「鬼火」がそれによって拡散されていく。褒めすぎかもしれないが、魔法と素手格闘術の重ね技の中では、非常に質がいいと思ってもいいと思う。

 巻き起こされた突風と砂嵐の中に、『マモニルス』はあっという間に飲み込まれ、姿が見えなくなった。



 実は、この技を選んだのにはいくつか理由があった。


 一つ目。両手を壊された俺でも使える技であること。「砂塵嵐」は風を巻き起こしやすいように調節した攻撃を下に放つことで成立する。それは、別に手でなくともいい。極論を言えば、衝撃波さえ発生すればいいのだ。別に息で引き起こせるんだったらそれでもいいのである。

 威力が足りない分は、「暴風」で補えばいい。そういう理屈である。だからこそ、今の俺が使える技となった時、俺は真っ先にこれを思いついた。


 二つ目、この技ならば、『マモニルス』に通るのではないかという、そういう予感があったから。それはもちろん勘などではなく、はっきりと理由があるものである。



 案の定、というべきか、「砂塵嵐」が収まった後に現れた『マモニルス』は……


「やはり、か。ダメージ受けてるだろ?『マモニルス』」


 身体中に切り傷のつき、余裕の仮面をかなぐり捨てた姿であった。彼は立ち上がり、俺に向かって憎々しげに、しかしどこか楽しそうに台詞を吐いた。


「貴様、そこでその技を……?見覚えがあると思えば「覇気変換」とはな。秘術中の秘術ではないか。いや、そもそもこの時世に「覇気」系統の能力者がいること自体がおかしい。つまりは……」


「貴様、異界に連なる者。「勇者」か?」

最近不定期で申し訳ないですが、明日はお休みとさせてください。明後日からしっかりと毎日投稿を再開しますので、今後とも読んでいただけるとありがたいです。

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