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悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
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追憶の欠片

「私、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するの!」


 こんなセリフに憧れていた。なんてことない日常を、たわいもない会話をして過ごし、時にはわがままを言い、甘え、信頼できる人間が周りにたくさんいる。そんな幸せの結晶のような、夢のような言葉なのだから。

 しかし、現実はそう甘くはない。少なくとも、アリアの場合は。兄は存在していたが、「先祖返り」の頭首継承の生涯になるとして、村が完全に派閥対立した時に、秘密裏に擁護派が処分した。他の高位継承順位者も、ほとんど例外なく「病気」で死を迎える。


 それが先祖返り擁護派の仕業であることは明らかであった。当時まだ小さかった彼女にとっては、仲が良かった親戚がどんどんと死んでいって悲しい、というだけのことであったが、泥臭い村の中では真実を知らずに生きることは難しい。

 悪意のある大人が、アリアに真実を教えたのである。「兄」の死に様から、それが誰の仕業であるか、ということまで。


 しかし、結局のところアリアは、依然として擁護派の旗頭であり続けた。それは単純に、アリアが知っていたからである。「味方のいない者はこの過酷な世界で生き残れない」と。だが、心中は違った。

 どんどんと「信頼できる大人」が「病死」を遂げていくにつれ、アリアの心は擁護派の側へ大きく偏り始めていた。自然に新しい「信頼できる大人」を探そうとしていたのである。だが、擁護派は「信頼できる大人」にはなり得なかった。アリアは、自ら以外に拠り所を作ることが、ついにできなかったのである。


 心の中に不和を抱えたまま成長することが、どれだけ精神衛生に悪かったのか。少なくとも、心根の素直な、まっすぐな子に育つなど、無理な話であった。

 それでも、それでもなんとか見かけの平穏は保たれていたというのに、それすらも壊れる事態が発生する。それが例の、猟犬村襲撃事件である。



 その事件は、真夜中に起こった。風化した古代の遺物である「結界結晶」と呼ばれる欠片を使い身を隠していた猟犬の民族だったが、それがふとした拍子に打ち破られる。内部の人間の仕業か、それともどこからか解除法を仕入れてきたのか、それはわからないが、ただ一つ確かなことがあった。

 襲撃犯、人間たちは、アリアたちを「奴隷」として売りに来たのである。獣人族は大陸協定で「人権」が認められている数少ない民族であったが、それでも「裏奴隷」として隷属させられる獣人は相当に多かった。

 しかも、アリアたちは全員が猟犬の血を引く優良物件だ。人間がアリアたちを欲しがった理由は一言で言えば、「売れるから」ということになる。弱肉強食。この世界の理は、すべて平等に作用する。それが強い悪意で曲げられていたとしても、である。


 襲撃犯は、まず里に結界を貼り直した。外に出さないことを重視した結界である。そして、隠れている獣人を炙り出すように一軒一軒、意地悪く回っていく。逃げないことを選んだ猟犬のほとんどが捕縛されたころ、ついに当主一家、アリアの家にも侵入者の魔の手が伸び始めた。

 何せ真夜中、常に気を張っていなければ安心して生活できない状況であったアリアも、ぐっすりと眠っている時間である。そのせいか、アリアが襲撃犯に気づいたのは、やっと魔の手が当主屋敷に伸び始めた頃であった。


「これは、いったいなんなのです……?」


 起きた瞬間、アリアはそう口走った。屋敷外から火が爆ぜる音が聞こえたから見てみれば、周りがいつの間にか火の海と化しており、周りには人一人の気配もない。ただ、人とは思えない下卑た気配が、十数名分感じられるだけであった。

 瞬間、察する。自らに忠実だった者は戦って散り、義務的に当主に仕えていた者は、とうに霧散したのだと。たった数十人の部下さえも完全に失い、アリアは、正真正銘天涯孤独になったのだ。


「ここで最後かぁ?男は殺し、女は奴隷に落とせ。こいつらの毛皮の服を着て、女を売った金で宴会でもしようではないか。きっと天国に行くほど気持ちよく酔える」


 野盗というのも悍ましい人間たちは、続々とアリアの寝室へと侵入してくる。多くの寝室がそうであるように、アリアの部屋もまた出入り口は一つ。現在人間たちが使っているところである。アリアは、退路さえないまま、野盗と衝突しなければならなくなったのである。

 人間と一対一なら、ほとんどアリアが負けることはない。それは、どれだけ幼くても、種族としてのスペックに差がありすぎたためである。「雑」の獣人は人より少し優れた程度だが、「継」は何倍もの潜在能力を秘めている。

 しかし、いくら強力な種族とはいえ所詮は幼女。そして敵は残念ながら奪うことのプロフェッショナル。アリアに勝ち目はなかった。


 しかし抗う。絶対的に勝てない状況でも抵抗はする。アリアのそのような精神は、皮肉にも幼い頃からの歪な生活によって育まれていた。


「秘奥 弐 『鋭牙』」


 ひたすら攻撃を放ちながら、逃げる。屋敷の外にさえでて仕舞えば平気だと、アリアは寝室の窓から飛び降りた。下は岩盤。部屋は三階。たとえ落ちても重傷は免れないはずだが、アリアはなんとか右足首捻挫だけで脱出することに成功する。


 逃げる。走る。アリアが戦闘に組み込む縮地の応用も、実はこの時に土壇場で完成させたものである。しかし、追いつかれる。崩れた瓦礫、燃え盛る炎。それらをかわしながら行う障害物競争は、あまりにもアリアには荷が重すぎた。


「秘奥 伍 『喉斬』」


 結局、アリアは戦いを選ぶ。それが一番、生き残る可能性が高いとの判断。そんな判断をするしかないほど、今の状況は終わっていたのだ。


「秘奥 参 『襲鳥』」


 少しずつ、少しずつアリアは敵戦力を削っていった。それが功を制し、敵の残りはついに一人、というところまで辿り着く。しかし、その時点でアリアはほとんどの体力を失ってしまっていた。

 しかし、まだ折れていないと示すが如く、アリアは精神力だけで技を発動し続ける。


「秘奥 拾 ーーー」


 しかし、そこでアリアの言葉は途切れた。体力が切れたのである。そこにすかさず、最後に残った男がアリアに声をかけた。

 その男は、アリアが知る由もないことだが、その野盗団の団長であり、この村の襲撃を決めた張本人であった。そんな団長は、これ幸いとばかりにアリアに意地悪く語りかける。


「お嬢ちゃん、よく頑張った。しかし、周りを見てごらん」


 男がアリアにそう語りかけた瞬間、今まで燃え盛っていた火が全て消える。代わりに現れたのは、多くの野党と、倒れている獣人たち。アリアの部下である、猟犬の血が濃いものたちであった。


「幻想魔法、って知っているかい?お嬢ちゃん。今まで君が戦っていたのは、俺たちじゃない。幻想でそう見せかけられた、君の大事なお仲間だ」


「お嬢ちゃんは、鍛えた自分の技で、自分の仲間を屠ったんだよ」


明日はお休みさせていただきます。よろしくお願いします。

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